SSブログ

『天体の回転について』/小林泰三 [早川書房]

つい先日の話。毎月のように言われているライトノベルの表紙の話題で,9月に発売されたライトノベルの表紙一覧,と言うのがありました。

c47130bc.jpg

画像サイズの都合で見難くなっていますが御了承を。で,この中で納得できなかったのが,小林泰三さんの『天体の回転について』が入っていること。私も彼の作品は『玩具修理者』しか読んだことないですが,それを読めば,彼の作品がライトノベルではない,と分かりそうなものを,と。まぁ,表紙があれだからなんでしょうけども。

 

天体の回転について (ハヤカワ文庫 JA コ 3-3)

天体の回転について (ハヤカワ文庫 JA コ 3-3)

  • 作者: 小林 泰三
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2010/09/10
  • メディア: 新書

 

 

 

と言うわけで読んでみました。まぁ,久しぶりに小林泰三作品を読んでみたくなった,というのがあるんですがwぐろいかなぁ,と。

 

この作品,2008年に単行本で出ていたものの文庫版。

「天体の回転について」
「灰色の車輪」
「あの日」
「性交体験者」
「銀の舟」
「三〇〇万」
「盗まれた昨日」
「時空争奪」

の全八編からなる短編集となっています。

作者が,自分は本質的にSF作家であると思っている,と言うように,SF的なアイディアを生かした作品群でした。まず,表題作である「天体の回転について」から,軌道エレベーターがあって,それで月に行く青年?,と言う話ですし。

その表題作である「天体の回転について」は非常に,さわやかな話でちょっと意外でした。軌道エレベーターが建造されて,それが作られたことも忘れられてしまった未来。科学を否定するようになった時代において,軌道エレベーターに乗り込んだ青年が,軌道エレベーターで月に至るまでの短い話。吊橋理論と言うか,そんな感じの話だったかな?と。面白かったかと言われたら,正直微妙ですw

ただ,それ以降は『玩具修理者』を彷彿とさせるようなグロ作品あり,絶望を感じさせる話あり,不思議な話ありで。非常に楽しむことができました。

個人的にお気に入りは,「銀の舟」と「盗まれた昨日」です。火星の人面岩に惹かれた少女。その少女が成長し,人面岩に行きたい一心で宇宙飛行士になり,人面岩を目指す。そこでの彼女の未知との遭遇を描いた「銀の舟」。北と呼ばれる国の実験失敗によって全ての人間が長期記憶できなくなってしまった未来。人々は長期記憶できなくなった代替えとして,メモリを使うようになっていた。そんな時代,少女に襲いかかる悲劇を描いた「盗まれた昨日」。

「銀の舟」は,別にぐろくもないですし,不思議でもないですし,よくある話,という感じもします。しかし,誰かの一歩が道を開いて,その後の人間の進む道を開く,と言う話は好きなタイプであります。その辺が,凄く明るくてよかったなぁ,と。

「盗まれた昨日」は,一体人間の魂とは何なのだろう,と問いかけられているような作品。記憶がメモリとなったことで,何がその者であるかを証明するのか,と言う事を問いかけられた気がします。SFをモチーフにして,哲学している,と言うか。決して明るい結末ではありませんが,余韻を残す終わりだったと思います。

グロに関しては,「性交体験者」がなかなかよかったです。ネタバレになるのであまり詳しくはかけませんが,ラストの場面の人体をあれする描写は,グロが苦手な人には要注意,と言う感じで,満足でした。こういう,グロを徹底的にグロく描く,と言う力が素晴らしいですね。今更私なんかが言うのもおこがましいですが。

表題作の「天体の回転について」はちょっとなぁ,という感じでしたが(小林泰三さんが,こんな萌えキャラクターを描いた,と言う点では十分に驚きですが),他の七編は非常に楽しめました。SFのおもしろさを見せて貰った,と言うか。とはいえ,グロいところもありますので,免疫がない人や,グロが苦手な人は避けた方が良さそうですね。表紙に釣られて購入すると,痛い目に遭うかも,という感じです。最も,「ハヤカワ文庫JA」作品ですし,普通のラノベ読みが手に取ることはないと思いますが。

表紙はライトノベル的かも知れませんが,全然ライトノベル作品とは感じさせない,素晴らしい作品でした。

<「本が好き」へのリンク>


天体の回転について
  • 小林泰三
  • 早川書房
  • 819円
Amazonで購入

ブログパーツ
nice!(24)  コメント(11)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 24

コメント 11

ロック

こんなに出版されるんですか!
そして下の方におとボクやらスクールデイズっぽいのが
ありますが、これも出るのでしょうか。

短編集というのは、時間のない今の私にも
読みやすそうな気はしますね。
(フルメタの短編レベルだと、楽に読めるのですが)
by ロック (2010-10-03 22:58) 

おどんとグリフス

小林泰三さんで、こんなかわいいイラストを表紙にするのは反則のような(^^;


by おどんとグリフス (2010-10-03 23:00) 

mana

>天体の回転について
これは面白そうですね!
これなら私でも読めそうです。
まぁ、読んでる時間が無いので無理だとは思いますが、たまにこう言うのも読みたいなぁ。って気持ちはあるんですよ?w
by mana (2010-10-03 23:16) 

takao

ロックさん,コメントありがとうございます。

これくらいは出ているような気がします。電撃とMF文庫,富士見で月35冊は出ているような気がしますし。それに角川,HJ,GA,一迅社,SD,が5冊ずつくらい。
他にもあるので,結構出ていると思いますよw
ちなみに,ロックさんのおっしゃっているのは『処女はお姉さまに恋してる 2人のエルダー』と『Cross Days』ですねw
『おとボク』は出ているようですが,『Cross Days』はまだ出ていないようです。

短編集ですので,読みやすいと思うのですが,内容が内容だけに,あまり万人にはお勧めできませんよw
「眼球を吸い出し」とか「爪を剥ぎ取り」とか描写があるのもあるのでw
一ついえるのは,笑える話は一つもないですよw
by takao (2010-10-04 00:12) 

takao

おどんとグリフスさん,コメントありがとうございます。

反則ですよねw悪質な釣りというかなんと言うかw
ただですね,表題作の「天体の回転について」はこんな少女が出てくるんですよ。
語尾にハートを付けて話すような,萌えキャラがw
それをイラストにしているので,あながち嘘でもないという。
ただ,それ以外はw
心臓の弱いラノベ読みが釣られたらどうするんだろう,と思わないでもないですw
by takao (2010-10-04 00:14) 

takao

manaさん,コメントありがとうございます。

グロとか大丈夫なら,結構楽しめると思いますよ。
軌道エレベーターとか出てきますし。
笑える話はないですけどねw
定価780円+税と高めですが,それに見合う分だけの価値はあるのではないかと思います。
manaさんだったら,「三〇〇万」とか好きかも知れませんよw
いや,完全な思い込みですがw
読書の秋ですし,どうですか?w
by takao (2010-10-04 00:17) 

カルディア

ひと月でこんなに!?
ラノベ業界が儲かると知ってどんどん新作が投入されてきたのかな~?
次の月もあるので、刊行分を全て消化するってのが厳しいってことが理解できたw

by カルディア (2010-10-04 03:09) 

takao

カルディアさん,コメントありがとうございます。

ラノベ,儲かっているんでしょうかね?wと思うこともあったりします。
1万部越えるのは,ほんの一握りでしょうしw
元々,電撃文庫が月10冊以上,富士見が月10冊弱くらいリリースしていたところに,MF文庫jが月10冊以上の仲間入り。
さらに,一迅社文庫やらガガガ文庫やらあとみっく文庫やらスマッシュ文庫やらこのライトノベルが凄い!文庫やらメガミ文庫やら,新規レーベルも加わってどんどんリリース数が増えているような感じがします。
しかも,これは,男性向けで,女性向けのラノベもリリースされていますから,もっと増えると思います。
見た感じ,幻狼ファンタジアとかも入っていないようですしw

そうなんですよ。
私,面白そうなのをがばがば買っちゃうのですが,どんどんリリースされるから,消化ができなくなっちゃってますorz
本当は,全部読みたいんですけどね。
by takao (2010-10-04 18:38) 

あすぱい

takaoさんの静かな憤りが伝わってきますね。
by あすぱい (2010-10-04 23:51) 

takao

あすぱいさん,コメントありがとうございます。

ははは,別に憤ってなんていないですよw
ただ,ラノベがどうだこうだ見下す人がいますけども,表紙だけ見て小林泰三さんをラノベに入れちゃうと,ちょっとなぁ,と思ってしまっただけです。
あすぱいさんの記事の先でも,「小林泰三さんをラノベに入れるのはおかしい」って人も多かったので,私だけの思いじゃないのだ,と安心したりはしましたw
by takao (2010-10-05 00:15) 

ふらいぱん

幻想と残虐性か~

小林泰三さんの新作『アリス殺し』を読みました。
アリスの世界とのリンクが徐々にわかっていくドキドキが良かったな〜。

birthday-energy.co.jp/
ってサイトは小林泰三さんの本質にまで踏み込んでましたよ。宿命を読み取ると、工夫に工夫を凝らし、豊かな遊びを文学の世界で実現する、才能は名誉や自尊心、なんだそうな。コラムをぜひ読んでね♪
「ハレる運命2014」も配信中!!
by ふらいぱん (2013-12-14 01:36) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

トラックバックの受付は締め切りました

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。