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『叫びと祈り』/梓崎優 [東京創元社]

(作品紹介)

砂漠を行くキャラバンを襲った連続殺人、スペインの風車の丘で繰り広げられる推理合戦、ロシアの修道院で勃発した列聖を巡る悲劇……ひとりの青年が世界各国で遭遇する、数々の異様な謎。選考委員を驚嘆させた第五回ミステリーズ!新事象受賞作「砂漠を走る船の道」を巻頭に据え、美しいラストまで一瀉千里に突き進む驚異の連作推理誕生。大型新人の鮮烈なデビュー作!(作品より)

(感想)

ミナモさんが紹介されていて、面白そうだったので購入、読了に到りました。読み終えて「あぁ、面白かった」と満足感がありました。ミステリ、と意気込んで読むと少し肩すかしを食らう面もあるかも知れませんが、「物語」として上質に出来ていました。

この物語は、「砂漠を走る船の道」「白い巨人(ギガンテ・ブランコ)」「凍れるルーシー」「叫び」「祈り」の全五篇の短篇からなる連作短篇集。そして、四篇が最後の「祈り」への伏線となっていて、その描かれ方は何とも見事でした。

ミステリとしてみると、ホワイダニットになるのかな?「白い巨人」は果たしてそれに当たるのか、ミステリに疎い私には分かりませんが。ミステリとしてみると、「砂漠を走る船の道」が一番よかったように思います。無駄のない文章の中で起こる殺人事件。果たして、犯人は?目的は?そのあまりの力にただただ圧倒されて、読まされるばかりでした。

個人的に好きなのが「白い巨人」。他の四篇が、人の悪意や利己的な面を描いた物語であるのに対して、この「白い巨人」だけは、明るい、希望溢れる物語でした。そして、この短篇が一番叙述トリックが効いていたように思います。人の心理の思い込みをうまく生かして。ラストの場面、「そういうことだったのか」と思わず言ってしまうようでした。そして、最後の終わり方が何とも幸せでした。まさか、こう言う展開が来るとは思わなかったので。

「凍れるルーシー」「叫び」に関しては、面白かったのですが、ラストの終わり方には不満があるかも知れません。というか、私程度の読解力では「凍れるルーシー」のオチの意味が分かりませんでした。

そして、「祈り」ですよね。ここでまた、作者のうまさが引き立っていたと思います。なるほど、だからあそこではあの表記だったのか、と納得させられるような。この短篇のタイトルが「祈り」ですが、この話が「叫びと祈り」であるように感じました。遂に「叫び」をあげてしまった心。その心を癒すのは、あくまでも「祈り」しかない。そんな思いが伝わってくる物語でした。物語の締めとしては、最良だったのではないでしょうか。

何でもこれが作者のデビュー作とのこと。確かに、文体からは、新人かなぁ?と感じるような堅さのようなものも感じられましたが。それを補ってあまりある作品の魅力に、本を捲り続けました。これはこれからが楽しみな人だなぁ、という感じ。この作者、暫く追い続けたいなぁ、と思わせてくれる作品でした。

叫びと祈り (ミステリ・フロンティア)

叫びと祈り (ミステリ・フロンティア)

  • 作者: 梓崎 優
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2010/02/24
  • メディア: 単行本

 


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コメント 2

ミナモ

読了お疲れ様でした。
楽しまれたようで良かったです♪

私も好みで言えば「白い巨人」が好きです。単発なら、やはりミステリめんでは「砂漠を〜」が頭一つ出てるかなと感じました。

しかし最後の話の締め方、とっても好きです(笑)
こういう実は連作ミステリもの、もっと読みたいなぁと思いましたw


新作を楽しみに待ちたいと思います☆
by ミナモ (2011-10-10 12:31) 

takao

ミナモさん、コメントありがとうございます。

かなり楽しむことが出来ました。
おすすめしていただいたこと、感謝です。

確かに仰るように、ミステリは「砂漠を~」ですね。
恋愛要素の素敵さがある分、内容的には「白い巨人」ってところでしょうね。
あの話だけ、何か中身が違いますしねw

ラストはよかったですね。
タイトルにあった、見事なラストだったとお茂ます。
綺麗に落ちた、というか。素晴らしかったです。

作者の次回作、本当に楽しみです!
by takao (2011-10-16 16:47) 

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