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『消失グラデーション』/長沢樹 [角川]

(あらすじ)

とある高校の男子バスケ部員椎名康は、屋上から落下した少女に出くわす。しかし、その少女は目の前から…消えた!? (角川書店ウェブページより)

(感想)

第31回横溝正史ミステリ大賞大賞受賞作。例によって、chokusinさんのおすすめのツイートを見て興味を引かれたのですが。ネット書店では軒並み在庫なし。私の田舎のTSUTAYAなどにも(当然のごとく)置いてありませんでした。一念発起して、紀伊國屋まで足を運んでみると、平積みしてあり、無事購入することが出来ました。やはり、1ヶ月に1回は大きな書店に行かないと駄目だなぁ、とどうでも良いことを考えた、関係ない話。

ジャンルは、青春ミステリになるのでしょうか?とはいえ、爽やか、という感じはしませんでした。冒頭の展開からは、ダーク、というか爛れた青春、という印象を受けました。先日読んだ『午前零時のサンドリヨン』が陽の作品ならば、こちらは陰、という感じがしました。

さて、この小説審査員の綾辻行人さん、北村薫さん、馳星周さんが絶賛、と言う帯がつけられていました。これを見ると、さぞ凄いトリックがあるのだろう、と言う感じがします。そして、この作品のメインをなすのが、タイトルの「消失」の部分に当たる謎だと思うのですが。ハッキリ言うと、そちらはあまりたいしたことありません。期待しすぎると、肩すかしを食らう感じがするかも知れませんし、「ご都合主義に過ぎる」と感じる人がいるかも知れません。

では、この物語の何が審査員を惹き付けたか。それは「グラデーション」の部分だと思います。あまり言い過ぎると、本編の楽しみがそがれてしまいますので多くを語ることは出来ませんが。完璧に構築された展開から明かされる衝撃の真実。その真実に驚嘆すると共に、思わず舌を巻いてしまう、という感じでした。そう、「誰もが疑うことがなかった(出来なかった)部分」。そこに密かに、そして巧妙に作者は罠を張っていたのです。作者の確かな筆の力を感じさせられる部分でした。

私の印象ですが。中盤までは、実はさほど「面白い」と思っていたわけではありません。ただ、何となく惹き付けられるものを感じる、という程度でした。ただ、後半。物語に秘められた罠に気づいたとき。私はこの作品に魅せられてしまいました。そう、この作品は確かに「面白い!」のです。この一瞬の驚愕のために、この物語はあった、といっても過言では無かったと思います。そこに気づいたとき、私はもう十分満足していました。

ここからは、個人的な意見。読書メーターを見ていると、「ライトノベルっぽい」という意見もちらほら見られました。しかし、ライトノベルどっぷりの私から見ると、あまりライトノベルっぽさを感じる事はできませんでした。キャラクターの造形にそれが感じられた、というのが多かったような印象ですが。たしかにうっすらとそれらしいものは感じられます。ただ、ライトノベルになると、もっとキャラクターはテンプレートになると思いますし、個性が強調されるような気がします。私としては、そこまではなかったと判断しました。

ただ、『午前零時のサンドリヨン』しかり、この『消失グラデーション』しかり。ライトノベルっぽい、といわれる作品が文学賞を受賞し、世に出ているのは面白いことだと感じました。二つとも、審査員に北村薫さんが入っているので、北村薫さんの趣味かな?と思ったりもしますが。

とはいえ、他を見ても、有川浩さんの活躍。ライトノベルから出発して、一般文芸で活躍してる作家さんが増えていること。また、ライトノベル内でも、一般向けのにおいを感じさせる作品の増加。これらを見るに、一般文芸とライトノベルの壁は厳然として存在はしているものの、その高さが低くなっているような印象を受けます。有川浩さんは、「大人のライトノベル」を描きたい、という気持ちがあるようですが、実際に大人に「気軽に読める文学」を求める人が増えているのかな?と思いました。

また、この作品が「横溝正史ミステリ大賞」としては疑問、という声も見られました。確かに、本編のトリックから判断すると、その声が出るのも分かるのですが。ただ、私としては受賞に賛成です。というのも、この作品は確かに「面白い」のです。この作品、埋もれてしまうにはもったいない。そして、もし受賞によってこの作品がより多くの人の目に触れる可能性が増えるのであれば、私は受賞させるべきだと思いました。このことが、出版業界の明日に繋がっていくのではないかな?と偉そうに思いました。

あまりに見事な作品。ヒカルくんをうまく使えば、シリーズものとすることも出来そうな感じがしましたが。何はともあれ、またまた新作が楽しみな作者が増えたことが喜ばしい限りです。物語の特性上、実写化は不可能でしょう。ある意味、活字でこそ楽しめる作品だと思います。活字で読む楽しさが感じられる、そんな素晴らしい本でした。

消失グラデーション

消失グラデーション

  • 作者: 長沢 樹
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2011/09/27
  • メディア: 単行本

 


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chokusin

takaoさんの感想、楽しみにしてました。

>活字でこそ楽しめる作品
確かに。ミステリ「小説」らしい作品だったと思います。
作者が次にどんな挑戦をしてくるか楽しみですね。
by chokusin (2011-11-06 00:49) 

takao

chokusinさん、コメントありがとうございます。

いや、何か、今回はあんまり筆が載っていないような気がしますw
感想にもなっていない予感(^^ゞ

「小説」という媒体である意味がある作品でしたね。
非常に惹き付けられる作品でした。
作者の次回作が本当に楽しみです。

ご紹介いただいてありがとうございました。
by takao (2011-11-06 00:55) 

おすかる

今頃で申し訳ありませんが・・・。昨日やっと読み終えたばかりなのですが、一言私の感想を。
今人気の○山篤○のパクリ?がっかりしちゃったのは読みが浅いからでしょうか。   失礼しました。
by おすかる (2012-03-23 15:27) 

takao

おすかるさん、コメントありがとうございます。

ごめんなさい。おすかるさんがどの東川篤哉作品を刺してぱくりと仰るのかわからないのですが。(氏の作品、『謎解きは~』しか読んだことがないので)
また、どの部分がそう感じられたのかわからないですが。
ただ、この作品の衝撃となっている部分であるのならば、それをぱくりと言うには無理があるだろう、と言わせていただきたいと思います。
そのような叙述トリックに関しては、他の作品にも見られますし、誰でも思いつくことであります。
それに対して、パクリを訴えるのは。
また、この作品に関しては、北村薫さんが「ひとつ取れば崩れるようなブロックが、誤りなく組み上げられた建築である」とおっしゃるように、それを一切感じさせずに物語を展開させてきて、あるときそれが一気に明かされたときの驚き、そして、その鮮やかさが魅力なのだと思います。

また、消失の謎部分に関してでしたら、それは確かに非難されるべきかも知れません。
しかし、この作品の一番の魅力は、消失の部分ではないと思いますので、それで作品の魅力が色あせるかと言われると。

私の見解はこんな感じです。
by takao (2012-03-24 20:29) 

おすかる

パクリと言ったのは、登場人物で、ヒカルと同じように霧ヶ峰と言うのが学園物に出ています。図書館利用でその時だけ楽しめれば良いというスタンスなので詳細はそれこそ記憶から消失していますが、霧ヶ峰のことは覚えているのです。でも考えてみれば借りるのが逆だったら・・・。東川氏をパクリと言っていたでしょうね。ごめんなさい。
消失---性 品物
衝撃の真実---緑の性
グラデーション---性 トリックの推測    
私はこのように読み終えました。
by おすかる (2012-03-25 11:44) 

takao

おすかるさん、コメントありがとうございます。

なるほど、ヒカルくんのことでしたか。
キャラクターの類似性を盗作認定は難しいでしょうね。
それこそ、ライトノベルなんかは同じようなキャラクターがいっぱいですし。
今のアニメ、マンガ、ラノベはキャラクターが記号の集合体なので、似たようなキャラが今後増えるでしょうね。

消失は、落下した少女の消失。
衝撃の真実は、主人公にまつわること(一応ネタバレを防ぐため)
グラデーションは、落下した少女の消失の理由、と言う感じでしょうか?
by takao (2012-03-25 12:09) 

暇夏

夏休みの宿題に役立ちました!!
ありがとうございます。
by 暇夏 (2012-08-05 09:27) 

takao

暇夏さん、コメントありがとうございます。

夏休みの参考になったでしょうか?
読んで、おもしろいと思って頂けたら幸いです。
by takao (2012-08-13 03:36) 

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