『羊くんと踊れば』/坂井希久子 [文藝春秋]
(あらすじ)
期待の新鋭が描く妖しい愛の世界
孤独死した祖父の遺体一面に残されていた女の名前と梵字の刺青。祖父の交友関係を探り始めた薫の前につぎつぎ怪しい人々が現れる(文藝春秋ウェブページより)
(感想)
明るくポップ調な表紙ですが。見事なフェイク、という感じでした。よくよく見ていたら、ちゃんと内容と関係ある表紙に仕上がっているんですが。
主人公はある日、孤独死した祖父を発見。その祖父の遺体には女性の名前と梵字の入れ墨が残されていて。祖父の貯金通帳には、死ぬ前に600万円が引き出された後が。主人公は叔母にその600万円の行方を追うことを命令されることからこの物語は始まります。そういう意味では、ある意味ミステリ作品と呼べるかも知れません。しかし、個人的にはミステリとしての訴求力が弱くて、ミステリではないなぁ、と言う印象。
それでは、と言う事で。この作品には、主人公の高校教師と、4年前に卒業した女子生徒との、4年越しの恋の行方、と言う要素があります。しかし、だからこそこの小説は恋愛小説なのか、と言われると首をひねりたくなります。恋愛要素は確かに物語の芯を貫く要素なのですが、それが決して強い印象を残す、というワケではないと感じました。ただ、ジャンルワケしようと思ったら、恋愛小説なのかなぁ?作品の中に、第2次世界大戦に関しての描写があったり、物語に入れ墨が深く関わっていたり、とごった煮の印象です。
さて、読み終わってみて「何とも言いがたい作品だなぁ」と感じました。正直に言うと、そこまで内容的に「面白い」と感じたわけではありませんでした。しかし、つまらないと感じていたわけではなく。作品の持つ不思議な魅了に魅せられて、気づいたら読み終わっていた、と言う印象でした。物語は上記の二つの要素を追うことで展開されるのですが、途中まで作品中でこの二つがつかず離れず、という感じで。決して深く関わり合うことがないため、どっちかの要素をなくしてもよいのではないか、という印象すら覚えました。
ラストまでそれは続いていく感じで。祖父の謎の解明のために翠が必要だったのですが。最後まで微妙な位置関係を保ったままなのは何とも不思議でした。
肝心のラストは過不足ない、という印象。なのですが、なんだか余韻に残るラスト。特に、見せ場となる二つのシーンはそれまでの描写と違って、ひたすら妖艶で印象に残りました。そして訪れる本作のラスト。望んだものとは違うラストでしたが。なんと言うか、ハッピーエンドとは言い切れないけども、お互いがぴったりはまっているようで良いのかなぁ、と。何にせよ、二人の行く末が全く見えないなぁ、と思いました。
個人的に印象的だったのは、登場人物の一人、長治郎さんが主人公に投げかける台詞。
「戦争が終わって私らは、二度とあんなことは起こすまいと頑張ってきた。そのおかげでこの国は、見違えるほど自由になったと思っていた。でもな」
そこでいったん言葉を切って、長治郎は心底不思議そうに、薫の目の色を覗き込んだ。
「アンタら本当に、自由なのかね」(P.198)
悲惨な戦争についての描写があるからこそ、また平和と言われるいまを生きるからこそ考えさせられる台詞でした。
わずか221ページと内容はコンパクト。この長さもまた絶妙だったように感じます。作品の持つ不思議な空気感に引きずられて最後まで読み進める、絶妙なページ数、と言うか。「独特」という言葉が、この作品にはぴったりだと感じました。この人の次の作品も読みたいかな、となんとなく思わせてくれる作品でした。
申告した通り、新しくブログを始めました。リスタートです(笑)
takaoさんのブログと同じ……いやそれ以下の更新頻度になるだろうブログですが、新しく相互し直してくれると嬉しいです。
これからもよろしくお願いします。
by ask (2012-02-16 21:45)
askさん、コメントありがとうございます。
新ブログ開設おめでとうございます。
一番最初の感想記事の作品、気になって買ったは良いけど、まだ読んでない作品でしたw
私も読まないと。
更新頻度が少なくなるのは仕方ないことだと思います。
気分転換に、楽しみながらブログできたらいいんじゃないかなぁ、と思う次第です。
こちらの方こそ、これからもよろしくお願いします。
by takao (2012-02-17 23:29)