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『蒼穹のカルマ 8』/橘公司 [富士見]

(あらすじ)
 私のねえさまは、あっ、正確には叔母さんなんですけど……なんかねえさまの方が呼びやすくて、それにお姉ちゃん、欲しかったから。わたしのねえさまは、蒼穹園騎士団で働いています。空獣(エア)から世界を守る大変なお仕事なので、仕事中は笑わないって聞きました。家ではいつも笑顔なのに。あんまり無理しないで欲しいなって思ったりもします。だって私のねえさまは勇者で、魔人のマスターで、神様で、ときどき女子高生で、魔王で、魔法少女で、赤ちゃんで。とにかくねえさまは何だってできます。だから……授業参観にもきっと間に合うよね。信じて待ってるよ。ねえさま。


(感想)
個人的な富士見ファンタジア文庫のイメージを変えてしまった作品が遂に完結です。

最終巻になったこの巻は何がメインの話になるか、と思ったら、在紗の授業参観でした。愛する姪・在紗に寂しい思いをさせないように、何が何でも授業参観に参加しようとする駆真。その駆真が授業参観に行くのを妨害するように現れる試練。最終巻は1巻と同じ展開となりました。プロローグ部分に当たるCase-00のなんと既視感にあふれることか。

しかし、1巻と最終巻の異なる点。それは、駆真の行動の動機でしょう。1巻においては、駆真一人が参加するために奮闘する内容でしたが、8巻では駆真一人ではありません。在紗の母・冬香。魔人・ウタ。宮廷盟術士・アステナ。魔王・ルーン・ロヴァルツ。地宮院天由良、地宮院霊由良。鳶一槙奈。草薙沈音。魔人・オト。宮原。1巻から知り合ったたくさんの仲間達を在紗の作文発表を参観できるようにするために、駆真が奮闘する。ここに、物語の歴史が現れているように感じました。

さて、この作品の特徴と言えば、プロローグであり得ない展開が示され、「これはない」と思わせておいて超展開でその流れに辿り着き。そして、超展開で物語が収束していく、と言う構成の巧みさにあると思います。しかし、この巻では、最初に示された展開が、授業参観に参加すること、となっているため、今までのような超展開を楽しむことはできません。では、この作品の魅力がなくなってしまったワケではありませんでした。

この巻の面白み。それは、今までの物語の全てを下敷きにした超展開ではないでしょうか。今までは、一つの物語の中で行っていたことを、最終巻では今までの物語を巻き込んで行っている、そんな印象を受けました。そして、膨らんでいく事態。最後に訪れる、決定的な危機。しかし、駆真がその危機を解決しようとする動機が、在紗の授業参観に行くため、と言うアンバランスさにあると思います。

始めは、あちらを解決しようとすれば、こちらを解決せねばならず、と言う感じでした。ある意味、昔懐かしいお使いRPGの雰囲気が感じられる展開。このまま行くのかな、と思ったところで自体は急展開して、世界の存続を揺るがすような自体に襲われます。この展開が実に見事。在紗の授業参観に行くためには、その事件を解決しなければなりません。しかし、駆真の頭の中にあるのは、あくまでも愛する在紗の授業参観に行くこと。ある意味、『蒼穹のカルマ』らしい展開でありました。

そして迎える大団円。まず描かれることになったもう一つの物語の奇跡に、笑いがこみ上げると同時に、胸が温かくなるようでした。作者と担当で検討を重ねてきた展開、ということですが、「実に駆真らしい」「駆真だったらやりかねない」と納得できる展開でした。

そして本当に最後の場面。1巻とは異なった舞台。これこそ、駆真が駆け抜けてきた軌跡であり、(駆真自身は在紗のために行動していただけですが)駆真が築いてきたものの集大成、と感じられました。そして、訪れる最後の一行。その一言からあふれてくる思い。その場面に到ったとき、挿絵の力と相まって、思わず泣いてしまいました。あれ?私『蒼穹のカルマ』を読んでいるはずなのに?コメディを読んでいるはずなのに。ここを読んだとき、「ああ、『蒼穹のカルマ』は深い深い家族愛の物語だったんだな」と実感することができました。

この作品の帯に書かれたキャッチコピーが「全ては授業参観のために!?」これは、この作品の受賞時のタイトルです。まさか、ここでこのフレーズを持ってくるとは思わず、否が応でも期待が高まりました。読み始めると感じられる1巻をなぞるような設定。各章のサブタイトルが、今までの物語をなぞるようにつけられていること……。読み終わってみると、この結末を描くために、今までの物語が存在しているかのように感じられました。この作者の構成力はすさまじいものがある、と感じていました。しかし、この巻を読み終わってみると、私の評価が過小評価であったことを痛感させられました。

素晴らしい展開。見事なラスト。終わってしまうことに若干の寂しさを感じますが、それ以上に満足感が得られました。人を選ぶ作品だと思いますが、シリーズが見事にリンクしている作品、と言う事でおすすめしたいです。


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