『妹がスーパー戦隊に就職しました』/大橋崇行 [PHP]
(あらすじ)
正義のヒーロー、ヒロインたちの葛藤と煩悩を浮き彫りにする、大人のための戦隊ヒーロー小説!赤羽トオルとその妹アオイは、幼い頃からの夢、「人智戦隊シュタイナー」の隊員として就職した。入ってみると、トオル以外の4人は全員美少女。
戦いに明け暮れつつも、その人生は幸福で満たされるはずだった。しかし、現実はそんなに甘くない。そもそも「人智戦隊シュタイナー」は株式会社。リーダーを命じられたトオルは、経営の安定を意識する一方で、隊員たちがそれぞれに抱える悩みも解決していかなければならないのだ。
(感想)
スマッシュ文庫2012年3月刊行分は妹組、と言う事で4冊出ておりますが、これもその中の一つ。円谷プロダクション監修の『ウルトラマン妹』に話題をさらわれていますが、こちらはスーパー戦隊をモチーフにしている、と言う事で読むことを強いられているんだ!と言う感じで読んでみました。
まず、持ってみての感想。厚い。電撃文庫の某鈍器小説に比べたらそうでもないのですが、厚さが目立ちます。とはいえ、内容的には480ページ程度なんですが。スマッシュ文庫の紙質が厚いのかな?と改めて感じさせてくれる次第でした。
そんな感じで読み始めたのですが、この作品、設定が面白いな、と感じました。スーパー戦隊の隊員は実は株式会社の社員で、怪人(作品中では堕身)を倒すことで政府から得られる賞金を元にして活動している。社員であるため、怪人と戦っていないときは、会社社員としてそれぞれの部署で働いている。さらには、女性隊員達は普段はアイドルユニットとして活動している(ただし曲調は70年代ロック)という戦隊設定。戦隊の能力も、五行からもってきたような感じ(ただし、木が風になっています)。そのほか、変身の設定や敵の目的。さらには、戦隊ヒーローの待つ残酷な運命など、割と細かいところまで設定が行き届いているな、という印象を受けました。ここが個人的にはかなり好印象でした。
設定に関しては、まじめな設定ばかりかと思ったら、敵はなぜか日曜日の午後しか活動しない、とか、リーダーの火のサラマンダーの能力を最大限に使うには、自分の髪の毛をサラマンダーに食べさせない、など思わずズッコケたくなるような設定もあったのも印象的でした。
そして、本編では、5人の隊員それぞれにスポットライトがあたりながら、悲劇の戦いを迎える、という展開なのですが。この話の展開の仕方がちょっと残念だなぁ、と感じてしまいました。
そては、キャラクター一人一人にスポットライトを当てるのはいいのですが、主役の二人がメインになるのは当たり前として、他のキャラにもまんべんなくスポットライトを当てるようにしているためか、キャラクターの十分な深まりがなかったかな、と感じたところです。特に、青と黄色に関しては、イマイチキャラが十分につかみきれなかったです。青はどうもキャラクター設定がうまくいっていないような感じさえしてしまいました。黄色に関しては、それだけでワンエピソード盛り上がるのを作れそうなのになぁ、と感じるくらいなのに、そこがうまく生かし切れていないように感じて惜しかったです。
読み切りを前提に書かれたのだったら、この構成は仕方ないと思うのですが。それなら、主人公兄妹とその周りの数人にキャラを絞って取り扱った方が良かったのではないかなぁ、と感じました。本来は、数冊書けて丁寧にやるべき所を、1冊で少しずつやったので中途半端になってしまった、というべきか。
とはいえ、ラストの展開に関しては良かったです。戦隊のもつ秘密。そして、戦隊ヒーローの待つ悲劇。そして、その悲劇と向き合わなければならなかった者達。シリアスな展開を迎え、それぞれのスタンスが問われ、それでも前を向き続けようとする主人公達の決断が非常に素晴らしかったです。ただ、色々ばらまかれていたのに、結局何も解決していないような気もしたのですが。
途中、「これ、タイトル詐欺じゃない?」と思うところもありましたが(妹の影が薄くて)、最後まで読んでみて、「なるほど、こういう意味だったのか」と納得しました。青春系スーパー戦隊もの、といった印象の本作。いいところと残念なところがハッキリしているので、次があるなら期待したいところです。
とても魅力的な記事でした!!
また遊びに来ます!!
ありがとうございます。。
by 就職の添え状 (2012-03-25 11:04)