『楽聖少女』/杉井光 [アスキー・メディアワークス]
(あらすじ)
高校二年の夏休み、僕は悪魔メフィストフェレスと名乗る奇妙な女によって、見知らぬ世界へ連れ去られてしまう。
そこは二百年前の楽都ウィーン……のはずが、電話も戦車も飛行船も魔物も飛び交う異世界!?
「あなた様には、ゲーテ様の新しい身体になっていただきます」
女悪魔の手によって、大作家ゲーテになりかわり、執筆をさせられることになってしまった僕は、現代日本に戻る方法を探しているうちに、一人の少女と出逢う。稀代の天才音楽家である彼女の驚くべき名は──
魔術と音楽が入り乱れるめくるめく絢爛ゴシック・ファンタジー、開幕!
感想は追記にて
(感想)
杉井光 作、岸田メル イラストのコンビで送る新しい物語は、『さよならピアノソナタ』と同じ音楽をネタにした物語。作者は音楽小説の奥深さを感じながら書いたようですが、実際に音楽小説の可能性を感じられるような物語でした。
舞台は19世紀のヨーロッパ。主にウィーン。主人公はゲーテの望みのためにゲーテとなった高校男子、というところはライトノベルとしてのわかりやすさと描き方を意識したことなのでしょうし、実際あとがきに書いてありました。
今回のお話は、ベートーベンが交響曲第3番(日本で言うところの英雄)を発表するまでのお話となっています。それにまつわって、サリエリやらハイドンやら様々な歴史上の登場人物が登場して、知っている人にはにやりと出来る展開ではないかと思います。また、私のように知識がない人にとっても、そのたびに主人公からの説明が入るので、置いて行かれることはありません。主人公を現代の高校生、としたことが奏功した結果でしょう。
キャラクターはサブキャラがライトノベル的(ボケ体質)になっています。サリエリが俗物的だったり、ハイドンは何か脳筋になってたり。「~がなければ~を食べればいいじゃない」を連発するあの人とかいます。主人公のツッコミ方が、『生徒会探偵キリカ』での主人公っぽいので、作者の得意なスタイルを引き出すための改変でしょうね。 気になる人もいるかもしれません。もっとも、そこまで思い入れがないかなぁ?という気もします。ショパンがラスボスってゲームもありましたし。
その割に、ルゥ(メインキャラクター。ベートーベンのこと)があんまりボケに絡んでこなくて、割とかっこいいのも、作者の特徴でしょうか?
序盤は、割とボケとツッコミを生かした楽しい物語が繰り広げられています。しかし、物語が中盤にさしかかると、話の度合いがシリアスに。音楽家の矜持にかけて「交響曲第3番 ボナパルト」を演奏しようとするルゥ。それを阻止しようとするナポレオンの手の者。そして、自分がこの世界に呼ばれた意味を考え続ける主人公。これらが合わさり、見事な世界を作り出していたと思います。特に、劇場での場面は胸が熱くなりました。
主人公がゲーテに呼ばれた意味を理解したとき。あまりに見事な序盤からの物語の構築に、感嘆してしまいました。ピースがぴたりとはまっていくような感覚が、とても爽快でした。
また、イラストも大変素晴らしかったです。イラストのリクエストを珍しく訊かれたので、岸田メルさんをお願いした、という事です。作者自体「他の人では描けないでしょう」とまでいった記憶がある、とあとがきにありますが、まさにそうだと思います。岸田メルさんの繊細で幻想的なイラストが、作品にマッチしていました。イラストと作品の相乗効果で、これこそ挿絵ありのライトノベルの正しいあり方だと思いました。
この1冊だけでも読み応えがあり、非常に素晴らしい物語でした。帯には「新シリーズ開演」と書いてあるので、まだまだ続いていきそです。この物語が素晴らしくて、次に不安を感じる部分もあります。しかし、どんな物語が繰り広げられるか。音楽小説の可能性を見てみたい思いもあります。ともあれ、是非とも読んで貰いたい作品です。
オオオ!岸田先生の挿絵が可愛いですね!読んでみたいー!!(・´з`・)
by 大林 森 (2012-05-18 23:23)
大林 森さん、コメントありがとうございます。
さすがは岸田メルさんと言うべきでしょうね。
作品の世界観にぴったりとマッチしたイラストが満載でした。
アトリエシリーズでの実績もあるからなのでしょうけども、イラストだけでも価値があると思いますよw
by takao (2012-05-19 18:26)