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『何者』/朝井リョウ [新潮社]

あらすじ

「あんた、本当は私のこと笑ってるんでしょ」

就活の情報交換をきっかけに集まった、拓人、光太郎、瑞月、理香、隆良。学生団体のリーダー、海外ボラン ティア、手作りの名刺……自分を生き抜くために必要なことは、何なのか。この世界を組み変える力は、どこから生まれ来るのか。影を宿しながら光に向いて進 む、就活大学生の自意識をリアルにあぶりだす、書下ろし長編小説。(新潮社ウェブページより)

何者

何者

  • 作者: 朝井 リョウ
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2012/11/30
  • メディア: 単行本

 

感想は追記にて。

感想

2009年『桐島、部活やめるってよ』で第22回小説すばる新人賞受賞。そして本作で第148回直木賞を受賞。まだまだ23歳(2013年2月現在)ですが、勢いに乗っている彼の作品。アプローチに現代らしさを感じさせつつ、胸をえぐるような内容に仕上がっていました。朝井リョウさんの作品を読むのは、前述の『桐島、部活やめるってよ』に続いて2冊目です。

「くそったれかもしれないこの世界において、それでもありのままの姿で生きていかなくてはいけない」

『桐島、部活やめるってよ』でも『何者』でも描かれるテーマ自体は実は共通しているように感じました。もしかしたら、これが彼の描きたいことなのかも、と感じました。

本作に現代らしさを与えているのは、Twitter、Facebookと言ったSNSを小説の中で取り上げていることだと思います。とはいえ、実際に作品に強く印象を残しているのは実際に作中に文章として表現されるTwitterだけで、Facebookは名前が出てくる程度なのですが。 就活とTwitter。この二つのキーワードで展開される物語は、現代の大学生の姿を見事に切り取っているように見えました。

Twitterの言葉と、5人の男女の実際の姿で描かれる就職活動の姿は、就職に関するスタンスの違いなどがあり非常に興味深かったです。直木賞受賞の際「現代をとらえた斬新な青春小説」という言葉が使われていましたが、就活に跳ね返されながらも、それぞれがリアルで、SNSで繋がりながら挑み続ける姿は現代の青春小説にふさわしかったと思います。

序盤を読んでいた私は、小説の中で主人公が語る「Twitterで切り取られる言葉」「Twitterで選ばれなかった言葉」といったものがこの作品のテーマなのかなぁ、とぼんやりと感じながら読んでいました。とにかく終盤まで就活の姿が描かれ、就職に関して中二病なスタンスを持つ一人の男性の存在が異彩を放つものの、全体的に明るい展開が続きました。私はこの展開はそれなりに楽しく読むことができましたが、人によっては退屈かもしれません。

しかし、この物語の本番は最終盤に隠されていました。そこでえぐり出される人間の姿。『何者』というタイトルに隠された意味。一人に糾弾される主人公がただひたすら苦しく、胸を掻きむしられるようでした。私も同じような面を持っているだけに余計苦しかったのだと思います。果たして私があの場にいたら、主人公のように真っ正面から受け止められるだろうか。主人公のように変わることができたのだろうか。主人公に強さが備わっていたことが物語の救いだったと思います。

難点も確かにあるように思います。最終盤に明かされる主人公のプロフィール自体は、「こんなところでこの要素を明かすんだ」という感じがして、私には後味の悪さを感じました。また、主人公がTwitterのIDをメールアドレスから検索できることを知らなかったのは若干都合がよすぎるように感じました。

そして私がこの作品で一番難を感じたのは、主人公の糾弾者の存在です。この存在によって主人公が変わることができた、ある意味主人公にきっかけを与えた人物ではありますが、この人物の糾弾はあまりに一方的で、自分を、周りを顧みない姿は気持ちの良いものではありませんでした。本人が「泥臭く」と言ってはいるものの、就職に関してのその人物のスタンスは泥臭さを感じません。確かに理解はできる部分なのですが。自分が救われるためだけにはき出される言葉は、確かに鋭いナイフとして主人公を切り裂く役目を果たしたものの、その実自己弁護のためだけのようなものに見えました。主人公に対しての救いはありましたが、この人物は救われることがなかった。主人公の一番の理解者になり得るだけの条件を持ちつつ、そうはならなかったことはどことなくしこりとして残るものでした。

「きっと何者にもなれないお前たちに告げる。ピングドラムを探すのだ」

『輪るピングドラム』のプリンセス・オブ・ザ・クリスタルの有名なワンフレーズですが、読み終わってみてまず思い浮かんだのがこのフレーズでした。この作品に当てはめると、「きっと何者にもなれないお前に告げる。ピングドラムを探すのだ」という感じでしょうか。物語の最後でピングドラムを見つけることができた主人公は、きっと強く、強く前に進んでいくことができると思います。

確かに現代的な要素を取り入れてはいるものの、描かれているテーマはこれまでも文学が取り扱っているテーマであったように思います。そして、これは昨年就職活動を経験した23歳の朝井リョウさんだから書くことができた作品なのだろう、とも思いました。作者は自分の人生の経験を、そのまま文学として描き続けるのかなぁ、と思うと、今後どのような作品を生み出してくれるのか、非常に楽しみに感じます。まだまだ23歳の朝井リョウさんだけに、次なる傑作を期待したいところです。


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