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『王子降臨』/手代木正太郎 [小学館]

(あらすじ)

戦国の荒野に「王子」降臨!!

ときは戦国。空は哭き、地は痩せ、人心は乱れていた。この世は、まさに地獄であった。だから、民らは、まだ知らぬ。流星と共に舞いおりし、美しき「王子」の存在を。母星の姫を捜すため、この星にきた王子のことを! 光の国からやってきた、麗しき王子の輝きを!! そして、王子と少年・鳶丸の出会いが戦乱の世を変えて行く……。究極の美は、人々の心の光となって、この世を愛で埋め尽くす。美しすぎる時代劇、ここに降臨!!
第7回小学館ライトノベル大賞・優秀賞受賞作!!  (ガガガ文庫 ウェブページより)

王子降臨 (ガガガ文庫)

王子降臨 (ガガガ文庫)

  • 作者: 手代木 正太郎
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2013/07/18
  • メディア: 文庫

 

ガガガ文庫 王子降臨(イラスト完全版)

ガガガ文庫 王子降臨(イラスト完全版)

  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2013/07/23
  • メディア: Kindle版

 

感想は追記にて。

 

(感想)

第7回小学館ライトノベル大賞・優秀賞受賞作。読書メーターでの評判も上々で、早く電子書籍版が出ないかなぁ、何て思っていたら、文庫版発売から約1週間後に早くも電子書籍版リリースとなったため、早速読了してしまった次第です。これくらい電子書籍版が出るのが早ければ嬉しいんですね。

さて、この作品ですが、一言で言うと「おかしい」。作者の頭のネジが10本20本ぶっ飛んでいるんじゃないか、と思ってしまうほどでした(褒め言葉です)。しかし、ぶっ飛んだ内容であるにもかかわらず、投げ出さずに最後まで読ませてしまうところに、作者の力が感じられました。

まず、気付くのは語りがライトノベルでは珍しい三人称であること。主人公があまりに常人離れしているために三人称にしているんだと思いますが、これはちょっとおもしろいと思いました。一般的なライトノベルのような一人称ではないため、雄弁さでは劣りますが、舞台設定の妙によって、弁士の語りを聞いているような錯覚を覚えるようでした。

その舞台は戦国時代。そう、こんな表紙、『王子降臨』というタイトルなんですが、この作品は時代劇なんです。重い年貢に苦しむ村の人々。力にものを言わせ、国を支配する領主。領主に国を滅ぼされた家臣の娘。村の人々とその娘が力を合わせて、暴君を打倒しようとする。それだけ見ると、これは普通のフィクションの時代劇もののように感じられます。

しかし、この物語の中心となる人物。それは光の国から姫を探しに来た「王子」。これがすべてをおかしくしています。すべての人間を、その美しさで虜にしてしまい、その美の力で剣を振るう王子。このナンセンスな設定によって、物語自体がナンセンスになっていました。実際、王子が出ていない場面なんか、普通なんですよね。王子がいるだけでおかしくなる、という圧倒的なパワーを持っていました。

「アンタレス忍法〈空間湾曲魔鏡〉。光の国の王族の容貌は、それ自体が、超粒子美気エネルギーの発生源。この辺りの星系の生物には、目に毒ね。みんな王子様に惚れちゃうわけだぁ。この空間湾曲魔鏡は、普通の鏡とはわけが違うわよ。美気エネルギーを数百倍の攻撃エネルギーに変換させ反射するの。さあ! 自分の美貌に酔いしれちゃいなさい!」
 鏡たちが、一斉に飛行し、王子を取り囲んだ。鏡らは、強い光を放つ。砂漠の太陽光にも似た激しい熱線を王子に向け、八方より掃射する。
「ぐあっ! 美しい!」

 勝敗を分けたのはその僅かな美しさの差であった。

本文から2カ所引用してみましたが、もうなんと言うか色々おかしいし、突っ込みたくなりますよね。アンタレス忍法とか、超粒子美気エネルギーとか。「ぐあっ!美しい!」でダメージ受けるのはどうなのよ、とか。王子がいない場面では普通の物語をしているし、バッサリ行くところはバッサリ行っているので、余計にそのおかしさが際立つのも本作の特徴でしょうか。

審査員評を見ると、賀東招二さんは笑って読んでいたようですが、私は殆ど笑っていないので、この辺は個人差があるかなぁ、という気がします。私の場合は、王子のナンセンスさと、王子以外の普通さのギャップに圧倒されてしまったため、という感じがしますが。

しかし、この文章から溢れるパワーは圧倒的なものがあったように思います。「色々おかしい」と思いつつ、読んでしまうんですよね。「面白い……のか?」という感じで最後まで読んでしまいました。

榊一郎さんが、『アウトブレイクカンパニー』のあとがきで「何がファンタジー世界に在ったら変かなあ」とかそう いう処から考える癖がある、と述べていましたが、この作品は「何が時代劇にあったらおかしいか」を考えて書かれた作品であるように感じました。それを想像以上におかしくしているのは、作者の力でしょう。

もう一つ思うのは、この作品を選んで、賞を与えた審査員やガガガ文庫編集部の素晴らしさです。確かに、こんなおかしい作品はライトノベルでしか出せないとは思うのですが、かといってこの作品ってあんまりライトノベルっぽく無いような印象も受けます。ジャンル分けすると、『王子降臨』というジャンルにしたくなると言うか。それを正しく評価し、出版まで持ってきたことは大変素晴らしいと思います。実際問題、他のレーベルだったらこの作品が賞を取っていたか、というとかなり怪しいところのような気がします。個人的印象では、ガガガ文庫か一迅社文庫でなら出そう、といった感じでしょうか。そう考えると、作者もちゃんとレーベルの色を考えて投稿したんだろう、という気がします。

とにかく、エネルギーが凄い作品だと思います。この作品によってライトノベルの可能性がさらに広がったように感じました。だからこそ、多くに人に読んで貰いたい作品だと思います。

今年の「このライトノベルがすごい!」の台風の目になるんじゃないかな、と予感させてくれましたし、是非とも実際に台風の目として、ライトノベルに新風を吹き込んで欲しい作品です。

最後に。本作は若干ホモホモしい内容になっていますが、そこまで前面に出てくるわけではないのでご安心を。

Screenshot_2013-07-31-00-10-59.png

(どちらも男です)

 

<7月31日追記>

あとがきを読んでいると、何となく田中哲弥を思い出してしまいました。

 それらの逸話の中から、できるだけ荒唐無稽なものを除き、事実であると思われる部分だけを抜粋し、今作品は、執筆されたのである。
 驚くべし!! すなわち、この作品は、史実なのだ!!

の部分なんか特に、田中哲弥を感じさせてくれて、田中哲弥ファンの私としては、思わずにやりとしてしまいました。最近のあとがきは、謝辞を中心としてものが多い中、最後までエンターテイメントに徹しきった作者は、本当に素晴らしいと思いました。


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