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『マツリカ・マハリタ』/相沢沙呼 [角川]

(あらすじ)

本当に、お前は犬みたいに怪談を拾ってくるのね

孤独な学園生活を送っている高校2年生の柴山祐希。ある日「一年生のりかこさん」の怪談話をクラスメイトから聞く。謎を解決するため、学校近くの廃墟ビルに住む謎の美少女・マツリカさんの下を訪れるが…。(ウェブ角川より)

マツリカ・マハリタ (単行本)

マツリカ・マハリタ (単行本)

  • 作者: 相沢 沙呼
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2013/08/31
  • メディア: 単行本

 

感想は追記にて。

(感想)

前作『マツリカ・マジョルカ』から1年6ヶ月。待ちに待った『マツリカ』シリーズの続編の登場です。帯には「妄想と青春の学園ミステリ」と銘打たれていますが、特に青春、さらに言うなら「非リア充の少年の青春と成長」の物語という印象が強かったです。

前作のラストで、自分の抱えているものをマツリカさんに鮮やかに解き明かされ、「世界は、それほど最低じゃない」「それでも、この世界は、そんなに生きづらいわけじゃない」(『マツリカ・マジョルカ』P.247)と認めることができた柴山くん。そんな彼も2年生になりました。それでも、教室に自分の居場所を見つけられないと感じていて、自分を卑下してみているところは相変わらず。一見成長していないように見えるけども、自分の気付かないところで成長しているように感じる事ができました。

それを感じたのは、それぞれの章で提示された謎について、それがマツリカさんからもたらされたものであっても、「当事者にその謎の真相を確かめている」ところだと感じました。『マツリカ・マジョルカ』の物語では、謎についてマツリカさんが事実に想像を交えて鮮やかに謎解きをしていましたが、それを当の本人に確かめることはありませんでした。しかし、この『マツリカ・マハリタ』では、その謎の提供者が自分に近しい写真部だったり、クラスメイト出会ったりしたとしても、その本人に確かめていました。

この「人と関わろうとする姿勢」こそが、柴山くんの成長だ、と感じました。その成長の最たるものこそ、本作のラストエピソードとなった「おわかれソリチュード』の結末に現れていたのではないかと思います。

柴山くんは、自分のことを「空気のように存在感もなく、無能の役立たずで、ほんとうに、どうしようもなくーー」(『マツリカ・マハリタ』P.177) と卑下して、「みんなの役に立ちたいだけなんだ。/みんなと一緒にいてもいいいい理由が、欲しいだけなんだ」(『マツリカ・マハリタ』P.49)なんて理由からの行動からだったように思います。でも、それこそが自分を変えようという意志で、尊いもの何だよなぁ、と思いました。

個人的な話をすれば、私も自分は無能、とまでは言いませんが面白いところはないと思っていますし、ネガティブシンキングのタイプです。なので、柴山くんの考えは分からないでもないです。でも、柴山くんは「みんな」と言っているけども、そこは行き着く先であって、まずは「みんな」ではなく、「誰か」と一緒にいられることが大切なんじゃないかなぁ、なんて思ってしまいました。

小西さんがいじけている柴山くんに感情を爆発させているシーンがありましたが、柴山くんに大切なのは「自分を認めること」なんですよね。まぁ、相手がどう考えているか、なんて分からないものですし、ネガティブな人間が相手の自分に対しての評価を気にしてしまうのは、痛いように分かるのですが。ただ、ラストエピソードで誰かと一緒にいるのに「理由なんて要らない」ということに気づけた柴山くんはこれから少し楽になれると思いますし、さらに成長できるのではないか、と思いました。

と、柴山くんについて考えさせられる事が多かった本作ですが、もう一つ感じたのが、マツリカさんの優しさのような部分と、マツリカさんの人間としての姿でした。

「人間は、急激には変わらない。だからといって、おまえは延々と立ち止まっているほど、愚かでもないのでしょう」(『マツリカ・マハリタ』P.181)

「過剰な執着は、依存となんら変わらないわ。おまえは、わたしとは違って、もうこの場所に留まっている必要はない。自分の足で切り開いた場所がある。それに気付かないほど、愚昧ではないでしょうに」(『マツリカ・マハリタ』P.250)

この言葉には、何らかの思惑はあったにしても、マツリカさんが柴山くんを見守り、成長を認めて、旅立ちを祝福しようとしているように見えました。

また、何気ないところですが、自分が振り払ったときになくしてしまったと思った柴犬号。それを柴山くんに見つけさせ回収し、「これがないと、ゲームができないのよ」(『マツリカ・マハリタ』P.58)と言いながらも、ブラウスの胸ポケットに入れるところからは、マツリカさんの柴山くんへの思いを感じる事ができたような気がします。そして、ラストエピソードでのマツリカさんの最後の言葉。作品中からは、どことなく毒舌家でありながら、幻の世界の人のようで、人間っぽさを感じられないことが多いように感じていましたが、本作では改めて「マツリカさんも血の通った人間なんだ」と感じました。まぁ、失礼な感想ですけども。

本作発売に合わせて、1作目である『マツリカ・マジョルカ』も読み返したのですが、本作は登場人物の距離感が絶妙だなぁ、と感じました。それは、主人公が他の人との関係に壁を感じているから、というところが大きいかも知れません。『マツリカ・マジョルカ』では、廃ビルで出会ったマツリカさんとの関係は、友だちと言うには遠いし、知り合いと言うには近い、という絶妙な関係の妙が面白かったですし、その絶妙な距離感があったからこそ、柴山くんが一歩踏み出すきっかけになったように思います。

本作では、そこから距離が近づいているように思います。マツリカさんとの距離感はもちろんのことはもちろんですが、周りとの関係、特に写真部との関係にもそれが見えたように思います。マツリカさんの人間らしいところが見えたのも、写真部の小西さんが感情を爆発させたのも、柴山くんが一歩踏み込んで、距離が近づいたからでしょう。それに気付さえすれば、柴山くんも変われるように思います。

柴山くんがうじうじしすぎているきらいはありますが、彼の成長を見られて、マツリカさんという存在を強く感じる事ができて、とても面白かったです。ラストで見られた柴山くんの成長。ここから周りとどんな関係を築いていくのか。そして、マツリカさんとの関係はどうなるのか。続きがとても楽しみです。


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