『 蒼井葉留の正しい日本語 』/竹岡葉月 [富士見]
(あらすじ)
——わたし、日本語のことになると、見境なくなっちゃうんです。
海外転勤となった両親と離れ、ライトノベル作家になるという夢を抱えたまま、高校入学と同時に一人暮らしをはじめた久坂縁。そんな彼が引っ越し当日に出会った美少女は、辞書と正しい日本語を愛しすぎる変人で!?
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感想は追記にて
(感想)
富士見で竹岡葉月作品、と言うと、私は『SH@PPLE』を思い出して、いい印象があります。そして、今回の新作はイラストがタケオカミホさん(何故カタカナ表記になったのか?)。ちょっと期待していた姉妹共演、と言うことで買ってみた次第です。
あらすじを見ると、主人公がライトノベル作家を目指す、と言うことで、最近流行している印象を受ける、主人公がラノベ作家(あるいはワナビ)のラノベ作品か、と思うかも知れませんが、そっちはあんまり重要な位置を占めていません。では、この作品は何がテーマか、と言うと、タイトルそのもの、「正しい日本語」です。
「問題はなんでプディングがプリンになったかなんですよ。元の単語に『リ』なんてどこにもないじゃないですか」(P.8)
なんてやりとりから始まる本作ですが、要所要所で日本語についての知識が出来てきます。これを楽しめるかどうかが、この作品の評価の分かれ目でしょう。
私は、大学で若干日本語について講義を受けましたし、日本国語大辞典のお世話になりました。そんな影響からか、『日本国語大辞典』なんか出てくるとにやりとしてしまいますし、言葉の本来の意味が出てくると、興味深く読むことが出来ました。ここまで日本語にこだわったライトノベル作品、と言うのは、私のこれまでのラノベ読書歴では初めてです。それ故、この日本語の取り扱い方が、このライトノベルの個性であり、面白さだと思いました。
作品の雰囲気を見ると、どことなく『“文学少女"』シリーズを思い出してしまいました。コメディタッチでありながら、終盤シリアスな方に寄せていくストーリー展開(とはいえ、完結に関しては結構コメディな印象でしたが)、タケオカミホさんのイラストの影響が大きいのでしょう。ただ、正直なところを言うとコメディに関しては大人しめの印象。ちょっとおかしな登場人物たちの軽快なやりとり、のようなライトノベル的な楽しさを求めると、物足りなさを感じるかも知れません。だからかも知れませんが、私自身は結構楽しめたと思うのですが、他の人に勧められるか、というと、強く押せない、という感じです。
個人的な思いをいうと、日本語が破綻しているような作品を時々生み出すライトノベルレーベルから、「正しい日本語」をテーマにした作品が出てきた、と言うのはなかなか興味深く、面白いです。そんな思いで読んでいると、「なんで『スマフォ』ではなく『スマホ』表記なんだろう」とか「今の時代、『憮然』を正しい意味で使っている作品は、一般文芸でも少ないんじゃないか」なんて思わず突っ込んでしまいました。この辺は、いちゃもんに近いかな、と思うのですが。あと、
やっと出てきた。うんこっちがいいな。思ったよりデレるな咲耶。このあとどうする気だ?(P.152)
(注 主人公がライトノベルを創作している場面です)
なんて表記は止めて欲しいな、と思う次第です。割と真剣に悩んでしまいましたよ。
今回記事を書くために、富士見ファンタジア文庫のサイト見ていたら、誤植が3カ所あったということもあり、正しい日本語をテーマにするにしては、ちょっとお粗末かな、と取られても仕方ないかも知れませんね。ヒロインがちょっと特殊な嗜好をしているけど、可愛いと思いますし、私は結構気に入った作品なので、次はそこを注意してもらえると嬉しいかな、と思い次第です(偉そう)
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