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『スキュラ&カリュブディス: 死の口吻』/相沢沙呼 [新潮社]

(あらすじ)

ねぇ、私を殺せる? 背徳の新伝奇ミステリ。

初夏。街では連続変死事件が起きていた。まるで狼に喰い千切られたような遺体。流通する麻薬。恍惚の表情で死んでいく少女たち。自らも死を求める高校生・此花ねむりは、鈴原楓との出会いをきっかけに事件を調べ始める。だが、そこには3年前の殺人事件に繋がる驚愕の真実が隠されていた――。性(エロス)と死(タナトス)、その果てに垣間見える少女の戦い。逸脱者たちが繰り広げる戦慄の新伝奇譚。 


スキュラ&カリュブディス: 死の口吻 (新潮文庫)

スキュラ&カリュブディス: 死の口吻 (新潮文庫)

  • 作者: 相沢 沙呼
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2014/09/27
  • メディア: 文庫

感想は追記にて 

(感想)

文庫をいちばん面白く――。新潮文庫の100年は、「面白さ」への挑戦の歴史です。その時代、その瞬間によって変化する「小説の面白さ」を新潮文庫は追求してきました。
書き下ろし、オリジナルの文庫が増え、市場動向が激変する中、いま「面白い」小説とは何か。
「キャラクター」が新潮文庫の答えです。この小説に出てくる登場人物は「リアル」ではないかもしれません。あるいは、「社会的」でもないかもしれません。現実ではありえないような個性と、言葉と、振る舞いで、読者を「あっ」と驚かせる物語の主人公たち。それが、いま最も強く、読者を物語に引きこむ「キャラクター」であると新潮文庫は考えます。

小説の、文学の、新たな入口に。100年の歴史を持ち、文芸出版の「新潮文庫」だからこそできる「キャラクター」と「物語」「文学」の融合を。新潮文庫は、次世代ラインナップ「新潮文庫nex」の刊行を開始します。

以上、新潮文庫nex刊行に際してのコメントです(http://shinchobunko-nex.jp/blog/2014/08/02.htmlより)。「要はラノベじゃないの?」って感じですが、新潮社曰く、ラノベではない、という何とも不思議なレーベル、新潮文庫nex。私は今のところ、同レーベルの作品を本作品含めて3冊読んでいますが、印象としてはメディアワークス文庫に近い印象です。ライトノベルを読んでいた人が、次のステップとして読む作品群、といった感じ。YA的な役割かと勝手に理解しています。その2回目の配本で出たのが、本作品です。

「ライトノベルが書きたい」と呟いていた(と思う)作者の、ライトノベルレーベルじゃないけど、立ち位置的に限りなくライトノベルに近いレーベルから出された作品。作者好きとしては読まないわけにはいかないだろう、ということで楽しみに読んでみました。

 

前置きが長くなりました。私の感想としては「個人的には楽しめた。けれども、多くの人には勧めにくいかな」というものでした。

この作品、紹介文で「背徳の新伝奇ミステリ」「戦慄の新伝奇譚」なんて銘打たれていますが、ミステリ要素はなし。しかし、作品には要素として、伝奇物語、エログロ、百合、恋愛なんて様々な要素が詰め込まれていて、詰め込みすぎかな、という印象が強かったです。作品の空気自体、耽美的というか陰鬱というか倒錯的というか。かなりダークな印象。果たして、レーベルのカラーに合っているのかな、という気すらしました。

作者が好きなことを全部詰め込んだ、と言うことのようです。それはそれでいいと思います。しかし、詰め込むと八方美人的、というか各要素が中途半端になってしまう危険性があります。この作品も、若干そうなってしまったかなぁ、という印象でした。

作品自体も、何も言及がないので舞台を現代のつもりで読んでいたら、

『蛍光灯? LEDじゃないの? いつの時代だ?』(P.58)

なんて描写があったり、ARが身近な存在であったりと「?」と引っかかって読み進めたら、実は時代設定が2020年以降であったり。もう少し最初に説明が欲しかったです。

というわけで、評価が芳しくない理由は理解できるつもりです。では、私はどうして私は楽しめたか、というと、この物語が、少女の内面にかなり踏み込んで描かれている百合物語である。これにつきると思います。作者の印象として、思春期の少女の内面の闇を描くことがうまい、というイメージがあります。ですが、この作品はこれまで以上に内面の闇にこだわって描いた作品で、作者の良さが出ていたように思います。描かれるのは、求めてはいけないと分かっていながら、どうしても求めてしまうという葛藤。それがあったからこそ、ラストの心の言葉が引き立っていました。ねむりという少女が背負っているものの重さが分かると、作品から漂うダークなイメージにも納得でした。 

私は作者の作品が好きですが、それはここまで作者が好きなものが一緒だからなのだろうなぁ、そんなことを感じた作品でした。個人的に、百合作品にとって重要なのは内面世界の描写だと思っています。明るい百合作品も好きですが、葛藤を描いた百合作品はもっと好きです。だからこそ、この作品は自分の好みに合っていて、楽しめました。欲を言えば、方向性をもっと百合に絞って欲しかったなぁ、とは思いますが。

作者のTwitterを見ていると、今後どのようにしていくか気になるところですが。個人的には、10人中2,3人が「この物語は大好きだ」と感じてくれる作品は良い作品だと思います。商売的には難しいのだろうな、とは思うのですが、そのような路線もあるんじゃないかな、何て思う次第です。より多くの人が楽しめる作品を目指すのも一つの方法だとは思います。しかし、それで自分の武器が生かせるか、というのは難しいところだと思いますし。

何はともあれ、私はまだ読んでいない作者の作品を読みつつ、次の作品を楽しみにしたいと思います。 


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