『芸人ディスティネーション』/天津 向 [小学館]
作品紹介
1巻
お笑い芸人のリアルがここに!?僕、鳴雲俊史は芸歴十年の元漫才師。俗に言う、お笑い芸人だ。ずっとコンビ漫才をやっていたのだが、解散して今はピンで活動している。最近いろいろ言われるんだよ……「あの人、十年もやってるのに売れてないんだぜ?」とかね。そんなの言われなくてもわかっているのに、周囲は事実を残酷なまでに突きつけてくるのだ。『この世界は僕を十年求めなかったんだ』とう事実を――。 お笑いコンビ・天津の向が綴る、芸歴十年の売れないお笑い芸人と芸人養成所一年生の美少女が巻き起こす、リアルなお笑い物語が開演!
文庫版
2巻
芸人の世界に必要なものって何だと思う?僕、鳴雲俊史は芸歴十年のお笑い芸人。二年前にコンビが解散し今はピン芸人として活躍している・・・・・・すみません嘘です。芸人としての仕事だけでギリギリ生活できているレベルです。そんな僕に今や売れっ子芸人の仲間入りを果たした元相方が出演するゴールデン番組からオファーが舞い込んできた。あんまりあいつに会いたくないけど、僕だって成長してるんだって証明してやる!! 売れている芸人と売れていない芸人の違いはなんなのか。テレビなどでも活躍中のお笑いコンビ『天津』の向が綴るリアル芸人物語の第二巻。
文庫版
感想は追記にて
はじめに
芸歴10年、バイトせずにお笑いの仕事だけで生活はできているけど、売れていない芸人を主人公にしたライトノベルが本作になります。最近のラノベの中にあって、なかなか面白い設定の作品だと思います。主人公が芸歴10年の28才、というところからして、最近のライトノベルとしては異例といっていいでしょう。
そんな本作を描くのは、本職の芸人・お笑いコンビ天津の向さんです。天津と言えば、エロ詩吟で一発当てた木村さんを思い浮かべるのではないかと思いますが、そっちじゃない方です。
1巻の発売が、2014年5月。最近はラノベを電子書籍で読むことが圧倒的に多いので、電子書籍化されていない本作は完全にノーマークでした。そんな折に、ライトノベル作家の森田季節さんが、「ライトノベル業界に近しいところ云々」と呟いておられたので、興味を持って読んだ次第です
芸人が描いたラノベ
作者が現役芸人、ということで、一体どんな内容になっているか期待半分不安半分といったところで読み始めたのですが、すぐに不安はなくなりました。というのも、下手な新人作より読みやすい文章だったからです(最近はそこまで酷い新人さんもいない気がしますけども)。ギャグやネタの下りなんかは流石芸人、と思わせてくれつつ、それ以外の部分も面白い。これで出版ペースが上がったら、結構驚異に感じる作家さんもいるんじゃないでしょうか。
作者が現役芸人となると、その世界の裏話的な部分を期待してしまうでしょう。私もどのように描かれるか、若干気にしていましたし、その部分は興味深く読みました。特に、2巻の芸人学校の合宿。
ただ、この作品を読んでいると、その部分というのはどうでもいい部分だな、と感じさせられました。
主人公の再生の物語
この作品の主人公は、売れない芸人です。コンビで活動してきたものの、解散。その後、相方はブレイクして売れっ子に。かたや、自分はアルバイトせずに芸人として生活できているものの、売れっ子になってやろうという気概も忘れてしまっている。所々、作者を思い起こさせるような設定があるのが、妙にリアルさを感じさせる要因になっていると感じました。
自分の今の境遇に対して、周りのせいにしたり言い訳をしたりととことん自分に向き合わずいた主人公。そこに出会ったのが、かつての自分の相方を思い起こさせるような芸人志望の女の子。その子と向き合い、また主人公に巻き起こる変化に対して、改めて夢に向き合おうと立ち上がるのが、本作の最大の見所です。主人公を28才、と設定したことをうまくいかしたテーマであり、おっさんの自分には突き刺さるものがありました。反面、ライトノベルの本来のターゲットであろう中高生にどう届くか、というのは気になるところですが。反面教師として捉えるといいかもしれませんね。
なにかと型にはまりがちなライトノベルにあって、こういう作品を出せるのが、ガガガ文庫の強みだなぁ、と改めて感じさせてくれた作品でした。3巻も期待したいところですが、いつになるか。そもそも3巻が出るのか。
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