『犬と魔法のファンタジー』/田中ロミオ [小学館]
〈あらすじ〉
「剣と魔法の大冒険」は遠く昔になりにけりかつて、偉大な始祖文明が大地に栄えていた。
だが滅びた。
かつて、剣と冒険と神秘の時代があった。
だが廃れた。
現在、『新大陸』はとても平和である。
未踏の地を夢見て、若者たちが冒険の旅に出たのも、今は昔。冒険なんて、時代遅れもいいところ。今の若者の夢は、無事に就職すること。
主人公・チタンは一生安泰の宮廷務めを目指し就職活動中。しかし、なかなか採用されず苦戦続きでやさぐれていた。
そんなチタンの前に現れ、冒険という悪の道に誘う中年男・ケントマ。しかし、今時、冒険者など流行らない。食べていけない。
冒険者の才能がある、としつこく誘うケントマから逃げ回るチタンだったが……。
さえない大男、あまり美しくないエルフ、そして一匹の白い犬が織りなす「ファンタジー世界」の青春とは?
文庫版
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2015/07/22
- メディア: Kindle版
感想は追記にて
かく書く私は、田中ロミオ作品は3冊しか読んだことがない(^^ゞ
田中ロミオさんの新作です。今回は、シリーズものではなく、『AURA』『灼熱の小早川さん』に続く、単巻読み切りものになります。
前2作は、高校を舞台にした痛い物語でした。今回は、打って変わって舞台は異世界。ただし、現代日本の就職戦線をそのまま異世界に置き換えた意欲作になります。そして、やはり痛い物語でした。
実は『何者』(朝井リョウ)の内容はあんまり覚えていない(^^ゞ
個人的に読んでいて思いだしたのは、朝井リョウさんの『何者』。これは「SNS」「就活」というキーワードの記憶からなんですが。現実の就活戦線を異世界に置き換えることによって、妙な置き換えがおきて、思わずにやけてしまう部分があります。意識高い系の登場人物なんて、思い浮かぶ人がいればにやけてしまうでしょう。
しかし、それだけで終わらせないのが田中ロミオ。あとがきで「絶対に就活なんかしたくねー!」と思っていただけたなら幸いです」と書いています。就活の(主に面接の)嫌な部分を描いているが故に、作者の思惑通りになっているのが面白いです。いや、読んでいてモヤモヤするのですが。
レーベルお得意の作品内容
就活に悩まされ、疲れ果ててしまう主人公は、超氷河期世代と言われる人たちにはかなり痛い物語です。まぁ、私の年代なんですが。ただ、それで終わらないのも田中ロミオ作品の魅力。思えば『AURA』も『灼熱の小早川さん』もそうでしたが、後半の盛り返しが素晴らしい。そして、今回もそれは健在。
就活に敗れ、自分の価値について悩む主人公。それが、立ち直り再生する姿は清々しいものでした。「自分は自分であれば良い」そんな田中ロミオさんのエールが書かれているようでした。
読み終わってみると、すごく文学的内容のある物語であったように思います。あえて舞台を異世界に置き換えることでライトノベルっぽくなってはいますが、それは作者の照れ隠しなのか、出版するレーベルの制約からか。ただ、ライト文学っぽい内容の作品を出してきたのが、やっぱりガガガ文庫であったことが面白いです。
レーベルスタート当時は悪評の多かったガガガ文庫。しかし現在、テンプレートに押し込んだ作品が氾濫する業界において、あえてテンプレから逸脱した物語を出版することで評価を見事に逆転させることに成功しているようで。果たして、ガガガ文庫の躍進はどこまで行くのか。できたら、このままの路線で突っ走っていって欲しいと思います。
終わりに
閑話休題。現実世界を異世界に押し込んだ違和感から生まれる愉快さ、現実を描いているから故の痛さ。そして、爽快さ。とても素晴らしい作品でした。作者曰く、「色物好きにおすすめの一冊」「直球の色物」ということですが、色物好きでない人にも読んで欲しい作品でした。
やー、痛いし、就活イヤになるし、そして、ちゃんとライトノベルになってる。、さすが田中ロミオって感じですよねー。
by cherryh (2015-08-16 23:12)
cherryhさん、コメントありがとうございます。
ほんとそれですよねw
痛い!就活怖い!でも面白い!
ラストの爽快感は素晴らしいですし。田中ロミオってすごいなぁ(小並感)なお話ですね。
by takao (2015-08-16 23:22)