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劇場版アニメ『ハーモニー』感想 [映画]

先日、劇場版『ハーモニー』を見に行きたいので、今回はその感想です。なお、多分にネタバレを含みますので、原作未読の方でこれから映画を見に行こうと思っている方はご注意ください。

それでは、感想は追記にて。

 

 

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ハーモニー〔新版〕 (ハヤカワ文庫JA)

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「Project Itoh」の第2弾の本作。第1弾の『屍者の帝国』も楽しめたので、今回も期待して見に行きました。なお、原作未読です。

前作の『屍者の帝国』が原作の長さ故か多少駆け足気味に感じられて、「原作読めばもっと面白いんだろうなぁ」と感じたので、今回はどうかなぁ、というのが唯一の不安というところでした。

しかし、今回はアニメ自体が非常によくできており、ひたすら物語り世界に没入できました。私自身、落ち着きがないせいか、上映中に時間を確認することが結構あるのですが、この「ハーモニー」に限っては、1回だけしか確認しませんでした。それくらい、物語を楽しめました。

『屍者の帝国』では、お話を見せながら、要所要所でアクションも見せてくれた作品であるのに対して、『ハーモニー』はアクションシーン皆無、とまではいわないまでも、非常に少ない。主人公が突如現れた世界の脅威に迫る中で、自分の過去に迫るという内容故に、お話を見せる映画になっていたように感じました。ただ、その物語が非常に見応えがあり、考えさせられる内容でした。だからこそ、集中して映画を見ることができたのかもしれません、

この作品、ジャンルがSFですし、世界観ではSFのアイディアがふんだんに盛り込まれています。「大災禍(ザ・メイルストロム)「Watch Me」「ハーモニープログラム」。物語を形作る部分では、正しくSFしている感じです。ただ、この物語の中心となるストーリーは、あくまでも人間を描いた、ある意味文学的な内容ではないか、と感じました。そして、それが私にはこの物語の魅力に見えました。

この物語について、一言で言うと、とてもエゴイスティックな物語だな、と感じました。というのも、集団自殺事件を引き起こした犯人が望むことは、本来の自分に戻ること。しかし、それを成し遂げるためには、封印されている「ハーモニープログラム」を実行させる状況を作らなくてはいけない。だから、世界の危機を引き起こして、「ハーモニープログラム」を実行させよう、というのがこの物語の核心。確かに、不幸な形でこの世界に産み落とされてしまった彼女の憎悪の行き着く先として、正しい形かもしれません。でも、自分一人のために世界を犠牲にしよう、というのは、エゴイスティックです。

かたや、その犯人に迫る主人公。臆病だったが故に心中できず、生きのこってしまい、その人生をミァハが辿るであろう道をたどって生きてきた彼女。ある意味、彼女の全てを自分の中に受け入れてきた彼女が、最後に下した結論。これまた、非常にエゴイスティックでした。余談ですが、これって極端に言うと「僕が好きになった君が醜く老いていくのは我慢できないから」という選択をしてしまう心境というか、すごくエゴイスティックだなぁ、と感じる次第です。とは言え、彼女の歩んできた人生を辿っていくと、その選択は必然であったと思うのですが。相手の物語を全て自分の中に受け入れる愛、というべきか。

世界観では、誰もが相手を思いやる優しい世界を描いていながら、世界の未来を決める部分では、エゴとエゴのぶつかり合いというのは、興味深いと思います。そして、「結局、人間はエゴイスティックな生きものだ」というのを、ここで描いているように感じました。

また、同時にこの物語は、伊藤計劃という人間の思いが描かれている物語でもあるように感じました。パンフレットの「人という物語」にはこう書かれています。

人間は物語として他者に宿ることができる。人は物語として誰かの身体の中で生き続けることができる。
そして、様々に語られることで、他の多くの人間を形作るフィクションの一部になることができる。

これは、まさに主人公のキァンが選択したことでしょう。つまり、彼女が生き続ける限り、彼女が大好きだった彼女は物語として行き続けることができる。そして、ハーモニープログラムが発動した後でさえ、キァンという物語に触れた誰かの中で、キァンと彼女の大好きだったミァハは生き続けることができる。物語の中では、それがエゴイスティックな愛、という形で描かれているように感じましたが、これこそ、伊藤計劃がこの物語に託した思いでしょう。

作中でも、また「人という物語」というエッセイでも、ヘミングウェイの「人は死ぬ。しかし死は敗北ではない」ということばが書かれていますが、まさにこのことばを実感できる物語でありました。

余談ですが、この「人という物語」。私は今回初めて読んだのですが、おそらく自分の死が近づくのを感じている(初出が2008年12月1日発行の「WALK」。その後、2009年3月20日死去)伊藤計劃という人が、どんな心境でこのエッセイを書いたのか、と想像すると、涙が止まりません。これを読むためだけでも、この思いを感じるためだけでもパンフレットを買う価値があると思います。

という感じで、愛について、人間の本質について、人という物語について、考えさせられました。それが物語のコアにあったからこそ、私は惹き付けられるのでしょう。

内容については、この辺で。だいぶ長くなってきたので、他の点についても軽く触れておこうと思います。

作画についてですが、個人的には『屍者の帝国』ほどのすごみは感じませんでしたが、劇場版にふさわしいクオリティだったと思います。キャラを回りこむような部分では、3DCG作画?と思う部分もありましたが、どうだったんでしょうw

演出については、最初と最後に出てくるモニュメント。なかむらたかし監督曰く「“ハーモニー”という物語を記述している白いコンピュータ」ということですが、私には、それが「霧慧トァン」の墓標に感じられました。この辺、面白い表現であったと思います。

最後に音楽。これはもう「Ghost of a smile」を映画館の音響で聞けたのがよかったです。この歌、優しいメロディと相手のことを慈しむような優しい歌詞(エゴイスティックな内容と正反対なのが面白い。相手を大事に思っている、という部分では同じなのかもしれませんが)で大好きな歌なのですが、劇場で聞くと臨場感が感じられて、すごくよかったです。CDでもライブでも再現できない、映画館ならではの聞こえ方でした。正直、これだけでこの映画を見る価値があるとさえ思ってしまいます。

最後に、話の構造について。主人公が求めるものを追って世界各地を旅していき、最後に物語の黒幕に出会う、という形ですが、『屍者の帝国』と殆ど同じ流れだと感じました。この辺は、単純にエンターテイメントの基本だからそうなっているのか、作者が意識しているのか分かりませんが、興味深かったです。

総括すると、全ての面で大満足できる映画でした。これは『屍者の帝国』にも言えるのですが、急遽上映が前倒しになったにもかかわらず、このクオリティで仕上げてきた制作会社には、大賛辞を送らざるを得ません。時間と予算の都合がつくなら、もう一度劇場で見たいと思える映画でした。また、まだ原作を読んでいないので、これから是非とも本来の物語の形を確かめたいとも思います。

さて、残されたのは『虐殺器官』。制作会社の問題で公開が2016年中、ということです。『屍者の帝国』のBDが2016年2月3日発売決定、ということで、このままだと『屍者の帝国』『ハーモニー』のBD発売が先になっちゃいそうですね。とはいえ、「Project Itoh」最後の作品だけに、期待して待ちたいです。
 
 
 
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