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『聞こえない君の歌声を、僕だけが知っている。』/松山剛 [アスキー・メディアワークス]

〈あらすじ〉


声なき君の歌声を辿って、大切な物を僕は見つけた。


 動画サイト上に投稿された「歌声だけがない歌う少女」の動画。様々な憶測を呼び、いつしか彼女は「無声少女」と呼ばれ、社会現象となった。

 ある日、大学生の青年・永瀬は、突然なぜか世界でただ一人「無声少女」の歌声が聞こえるようになってしまう。彼は彼女の歌詞をヒントに「無声少女」を探そうとする。

 動画の少女は誰……? 彼女の歌は、何のために? 目の前に現れた「サクヤ」という女の子は何者――?

 すべての答え。それは『愛』。これは切ない『愛』の物語。



【文庫版】


聞こえない君の歌声を、僕だけが知っている。 (メディアワークス文庫)

聞こえない君の歌声を、僕だけが知っている。 (メディアワークス文庫)

  • 作者: 松山 剛
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2018/08/25
  • メディア: 文庫
【Kindle版】
聞こえない君の歌声を、僕だけが知っている。 (メディアワークス文庫)

聞こえない君の歌声を、僕だけが知っている。 (メディアワークス文庫)

  • 出版社/メーカー: KADOKAWA / アスキー・メディアワークス
  • 発売日: 2018/08/25
  • メディア: Kindle版
感想は追記にて。なお、感想にはネタバレが含まれますので、今後読む予定の方はお気を付けください。
〈感想〉


以下、ネタバレ感想です。




メディアワークス文庫の8月の新刊の中に、松山剛さんの名前を見つけました。松山剛さんと言えば、『雨の日のアイリス』で電撃文庫からデビュー。割と評判の良い物語を書く人、というイメージです。先日MF文庫Jから発売された『君死にたもう流星群』がすごく好印象の作品で、今回この作品を手に取ってみました。


この作品、読後感としては、「いい物語を読んだなぁ」という清々しいものでした。紹介文には、「これは切ない『愛』の物語」と書かれているとおり、それぞれの愛の形が描かれています。そして、この形はベタだけど、泣いちゃうよねぇ、というもの。「ちょっといい気持ちになれる作品」「泣ける作品」を読みたい人にはおすすめできる作品です。


ただ、「いい話」ではあるんですけど、それ以上ではない、とも感じました。私の先輩のことばを借りれば、「浅い」。登場人物の関係性は途中でなんとなく読めてきますし、それ以上でもない。物語に隠された秘密も、王道であり、意外性はない。


それ自体は悪いことではありません。しかし、読み終わった時「この物語のテーマは、何だったんだろう」というのが、私が考えたことでした。


物語について、考えていけばよく分からないところはたくさんあります。動画サイトが過去とつながっている、というのは納得するとして、なぜ特定の地点とつながっているのか。歌詞サイトに書かれたコメントで会話する、というのは、無声少女の行動が過去を改編しているから、という理由付けであるのかもしれません。ただ、読み終わってみると、元々この世界は無声少女の過去への介入ありきで成立している、という印象も受ける。しかし、私がこの物語を「浅い」と感じた一番の理由は、この物語には登場人物の成長も変化も感じられなかった、ということが大きいです。


無声少女が、自分の存在によって母の命が奪われることに耐えられず自分の命を犠牲にしようとしたように、サクヤが、自分が助かることによって無声少女の産まないという選択をしてしまうことに耐えられなかった。結局、お互いにとってお互いが大切なんだね、なんて考えないでもないのですが。ただ、イマイチ登場人物のフォーカスの仕方が弱いために、キャラクターの描写が不充分になってしまったように感じました。そもそも、最初の登場人物である永瀬の印象が、最後は若干空気気味とか、永瀬の視点から始まった物語なのに、最後は無声少女の視点で終わっている、とか残念な結果と見てしまった要因はいくつかあるような気がします。


少しうがった見方をすると、感動できるちょっといい話を描いただけ、という風にも見えないわけでもない。そんな見方をしたいわけではないのですが。メディアワークス文庫は、ライト文芸と今呼ばれるようなジャンルを切り開いた先駆け、という印象があるのですが、こんな感じでいいのかな、と考えてしまいました。


折角いいお話なんだから、もう少し内容が伴っていればなぁ、そう感じてしまう作品でした。非常に惜しい。

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