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魔王/伊坂幸太郎 [講談社]


魔王 (講談社文庫 い 111-2)

魔王 (講談社文庫 い 111-2)

  • 作者: 伊坂 幸太郎
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2008/09/12
  • メディア: 文庫



最近、ラノベばっかり読んでいたので、気分の切り替えに読んでみました。ちょうど文庫版が届いたばかりだったので。余談ですが、3ヶ月くらい前にドラマの『魔王』が始まったとき、これのドラマ版かと思ったら、全然違ったというのはいい思い出です。ついでにその時は(今もかも)「魔王」と言えば、福山潤声の魔王を思い浮かべたものでした。と思ったら、本編でもシューベルトの『魔王』に言及してあったのは少し笑えました。まあ、『魔王』という文字がタイトルにつく以上、外せないものでありますが。

閑話休題。以下紹介文。

会社員の安藤は弟の潤也と二人で暮らしていた。自分が念じれば、それを相手が口に出すことに偶然気がついた安藤は、その能力を携えて、一人の男に近づいていった。五年後の潤也の姿を描いた「呼吸」とともに綴られる、何気ない日常生活に流されることの危うさ。新たなる小説の可能性を追求した物語(裏表紙より)

とありますが、超能力は特に関係ありません。本文中では、政治について語られていますが、政治批判、と言ったわけでもありません。では、この作品の角は何か。私の非常に拙い読解力で判断するには、安易に流されやすい大衆の心を描いているような気がします。そして、大衆のもつ力、それが『魔王』なのではないか、と思いました。

本編を読んでいて、確かにインターネットによって簡単に知識を得ることはできるようになりましたが、それを自分で判断できているのかあまり自信はないな、感じました。もちろん、メディアリテラシーの大切さは痛感しているのですが、まだまだ自分に都合のいい、気持ちのいい情報だけ選んで信じている気がします。このままだと、私も大衆に流される人になっていそうだと思いました。本書の犬養みたいな人間が相手だとしたら、多分私の変なアレルギーのようなものが出て、反対派に回っていそうな気がしますが。それも、自分で考えて判断しているわけではないのが問題でしょう。

『魔王』という作品では、明確な結論が書かれていません。しかし、あえて結論を出さないことで、その人なりの『魔王』像などを考えさせるようにした作品かな、と思いました。まあ、本作のテーマは、どっちが正しい、どっちかが間違いと言った二元論で語ることができないものですが。

同時収録の『呼吸』は、『魔王』ほど考えさせられる部分はなかったと思います。ただ、一つの思想に対して、賛否両方の意見を描いていたのが印象的でした。この二つの意見を比較する、と言う面では、考えさせられました。ちょっと前に読んだ『となり町戦争』も、このように、片一方の意見を、疑問の形で読者に投げかけるのではなく、両方の意見を書いていれば、もっと面白く読めたのかな、と考えながら読み進めました。ただ、最後が少し肩すかしを食らった感じでした。もう少し先まで書いて欲しかったです。ただ、『魔王』とのリンクを考えると、ここで切るのがベストかな?

『魔王』は考えさせられ、『呼吸』は純粋に楽しめ、非常に満足しました。直接的な続編ではない、とはいうものの、『魔王』の舞台から50年後の日本を描いたと言う『モダンタイムス』が来月あたり出るらしいので、そっちも読みたいです。でも、潤也が何か成した、とかなさそうだなぁ。

最後に、また余談。非常にすばらしい作品だったので、「何で、これで直木賞とれなかったんだろう」、と下世話なことを考えて調べてみたら、『魔王』ではノミネートされていなかったのですね。ただ、これがノミネートされていても、今の審査員だったら、直木賞あげてなかった気も。
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野球の国のアリス/北村薫 [講談社]


野球の国のアリス (MYSTERY LAND)

野球の国のアリス (MYSTERY LAND)

  • 作者: 北村 薫
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2008/08/07
  • メディア: 単行本



大好きな北村薫さんの新作。早速読んでみました。

文体としては、かなり柔らかい印象を受けました。元々、北村薫さんの文章からは、「上品」という印象を持っていましたが、そういうわけでなく。非常に読みやすいという感じでした。「かつて子どもだったあなたと少年少女のための―」とあり、少年少女が読むことを意識したのだろうと思います。まあ、少し言い回しが気になることもありましたが。そして、さくさく読めました。

あらすじは、小学校まで野球少女として活躍していた少女・アリスがひょんな事から鏡の国に入り込み、そこで鏡の国の野球大会の在り方のため、試合を行う、というもの。本文中では、アリスが非常に生き生きと魅力的に描かれていました。なにげなく、脇役の兵頭君と五堂君がいい味出してました。兵頭君は、出番が少ないながら結構良かったです。

気になったのは、肝心の野球シーンがあっさり終わることと、これまた相手チームの監督があっさりしすぎていることでしょうか。特に、相手チームの監督は簡単に改心しすぎなのが。まあ、ここが北村薫さんの描くキャラクターのいいところかな、と思います。反面、弱点でもあるのですが。あと、装丁が凝っているのはいいですが、値段が高すぎる気が。もうちょっと安くして、それこそ少年少女にも手が出るような値段にして欲しかったなぁ。

まあ、気になるところはありますが、なかなか楽しい小説であり、何とも言えない、さわやかな読後感を覚えました。この暖かな感じも北村薫さんの作品のいいところですね。ただ、物足りなく感じる人も多いかも知れません。

個人的には、次はベッキーさんシリーズの新刊が読みたいなぁ。
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