『碧空のカノン 航空自衛隊航空中央音楽隊ノート』/福田和代 [光文社]
(あらすじ)
楽器の腕前はピカイチだがドジな主人公と、
個性派ぞろいの仲間たち。
彼女らが奏でる音は、謎も不協和音も調和します!
音大卒業後、航空自衛隊の音楽隊に入隊した鳴瀬佳音(なるせかのん)は、
定期演奏会などの任務に向けて練習に励んでいる。
自衛隊という未知の世界に戸惑いつつも鍛えられていく。
ある日、「ふれあいコンサート」で使う楽譜を用意したところ、
佳音が担当するアルトサックスのパートの楽譜が
楽譜庫から紛失していた。いったい、どこに消えたのか?
ちょっとドジな佳音が呼び込む不思議な“事件”を、
仲間たちとともに解決する!
テロや大停電などをテーマにしたクライシス・ノベルで
注目を集める著者が、軽やかな音楽ミステリに挑む意欲作!!(光文社ウェブページより)
Kindle版も出ています。
感想は追記にて。
『ココロ・ファインダ』/相沢沙呼 [光文社]
(あらすじ)
覗いたファインダーが写し出すのは、
少女たちのココロの揺らぎとミステリー
高校の写真部を舞台に、女子高生たちが構えるカメラに写るのは
ともだち、コンプレックス、未来、そしてミステリー。
自分の容姿に自信がもてないミラ、クラスの人気者カオリ、
「わたし」というしがらみに悩む秋穂、そして誰とも交わろうとしないシズ。
同じ高校の写真部に所属する4人は、性格も、好きなカメラも違うけれど、
それぞれのコンプレックスと戦っていた。
カメラを構えると忘れられる悩み。
しかし、ファインダーを覗く先に不可解な謎が広がっていて……。
少女たちは等身大の自分を受け入れ、その謎に立ち向かう!(光文社ウェブページより)
(感想)
こうやって、大好きな作家さまの本が短いインターバルで届けられるのは、非常に嬉しい限りです。前作、『マツリカ・マジョルカ』から2ヶ月で届けられた作品は、青春のほろ苦さと輝きが感じられる、素敵な青春の物語でした。
この物語、まず読み始めて気づくことは、文の印象が非常にさばさばしているかな、ということ。そう、この物語は、作者の作品で初めて?、女性の視点から描かれる物語なのです。「コンプレックス・フィルタ」「ピンホール・キャッチ」「ツインレンズ・パララックス」「ペンタプリズム・コントラスト」の全4編から構成されたこの物語は、それぞれが写真部の別の女性の視点で語られた物語です。
そこで描かれるのは、彼女たちの内面に抱えた苦悩。外見、輝き、過去、期待。それぞれが目というファインダを通して見たとき、相手がいかにも素晴らしいものに思える事がある。しかし、その内面、ココロをファインダ越しに覗いてみると、実は誰でも何か苦悩を抱えている。揺らいでいる。そんな物語かな?と感じました。その苦悩も、ある意味青春時代だからこそなのかな、と感じました。
また、周りの無遠慮かつ無遠慮な視線が、物語の登場人物を苦しめる一つの要因となります。これは、人生経験の少ない、また「集団」という意識が強くそこから外れる者を排除しようとする、中高生独特な雰囲気から生まれるような感じがしました。
ただ、周りの友だちと比べて落ち込むこともあるけれども、周りの友だちがいるからこそ救われる。これも青春の一ページかな、と感じられました。自分一人で抱えきれない悩み、乗り越えられない苦しみがあるけれども、でもそんなときこそ、友だちの助けを借りればいい。そんなことを感じました。それこそが、青春の一ページとして輝くのかな、と。
相沢沙呼さんと言うと、鮎川哲也賞受賞作家ですし、帯にも「ミステリー」と描かれています。しかし、あくまでもこの物語のメインは、帯前面に書かれた「青春“写真部”物語」であると思います。ミステリはあくまでも物語の一要素。その謎がそれぞれの登場人物の内面を描き出す効果を生んでいると思いますが、あくまでもそれは「青春」を描き出すためのもの、という風に感じました。また、4つの章が、それぞれ4人の女子高生の視点で描かれているので、今回の物語は最後に一つの大きな衝撃が隠されている、と言う事はありませんでした。
しかし、それぞれの苦悩を抱えた少女たちが、その苦悩を乗り越えて自分の道を進んでいく姿こそ、この物語のメインであると感じました。そして、そのラストの美しさ。非常に素晴らしい物語でした。前作『マツリカ・マジョルカ』もそうでしたが、ミステリ、というよりも、青春時代の苦悩と、そこからの立ち直りと、そこから生まれる輝きを描くのが巧みな作家さまだ、と感じました。これからも、青春時代をメインに描くのかな?と感じますが、非常に楽しみに感じました。
最後に、おっさんから一言言わせて貰うとすれば。自分が本当に好きで、本当にやりたいと思うのならば、それに思いっきり挑戦すればいいよ、と感じました。それこそ周りの人が何を言おうと。周りの人の視線が気になってやめるのならば、その程度の思いだった、といえるかも知れませんが、それで諦めてしまっては後々後悔してしまうよ、と。自分が好きなことだからこそ、苦しいことにも耐えられるはずだから、頑張ればいい。そんな事を作中で感じました。
(関連リンク)
『午前零時のサンドリヨン』/相沢沙呼
『マツリカ・マジョルカ』/相沢沙呼
美女と竹林/森見登美彦 [光文社]
これはあくまで私の私見ではありますが、森見登美彦さんの作品は、ライトノベルに近い雰囲気があると思います。北村薫さんの『覆面作家』シリーズがライトノベルからミステリへのよい導入になるように、森見登美彦作品はライトノベルしか読まない人間を大衆作品に向かわせるような力があると思います。ラノベ好きは是非とも、森見登美彦作品を読んで欲しいな、と思います。来月、傑作『夜は短し歩けよ乙女』の文庫版が出ることですし。ま、そんなこといわれなくとも、読んでいる気もしますが。
前置きが長くなりましたが、この『美女と竹林』、森身作品の魅力である森見節が炸裂していました。とにかく筆者の妄想炸裂。ことば遊びも楽しかったです。知人の竹林の手入れを行おう、とするところから始まるのですが、いきなりこけて、だんだん「竹林」と関係ない話になっていくのはご愛敬。時々、本題に戻ってきて竹を切る場面が入ったりして、読んでいる方としては、「この作品、この先どうなるのか」とどきどきしながら読み進めました。最後には、大団円っぽく治めているのは、見事かな。
随筆集ということですが、実在の人物を使ったフィクションのような感じを受けました。特に、最後の方は完全に妄想で書かれていますし。ただ、万人に勧められるか、といわれたら「ムツカシイ」かも知れません。とりあえず、文庫で出ている『太陽の塔』『四畳半神話体系』を読んでみて、森見登美彦さんがすごく好きだ、という方にはお勧めします。
個人的には、私も文房具が好きなので、文房具あさり、と言うところに親近感を感じました。年も近いし、今後もがんばって欲しい、と思います。……早く、新作の小説が読みたいなぁ。『有頂天家族』の続編がかなり読みたいですが、気長に待つことにします。
ぼくは落ち着きがない/長嶋有 [光文社]
高校の図書館を舞台に、図書部の日々を描いた青春小説です。帯には「文化系”部室小説”の誕生!」とありますが、まさにそれ。何度か近所のコンビニが出て来ましたが、ほぼ図書館が舞台となっています。
個人的なことですが、私は高校時代図書部だったので、この小説には非常に親近感を覚えました。とにかく懐かしい!私の高校も、貸出などは図書委員がやることになっていたのですが、ほとんど来ないから、図書委員が、ってところは「そうそう」と頷いたり。私の時は、図書の購入などはやっていなかったのですが、これを読んでいると、やりたかったです。それと、図書便りの発行も。あのときの私は今ほど本を読んでなかったので、書評とか紹介とか書けなかっただろう、とも思いますが。
当然のことながら、この小説ほどドラマティックなことはなかったのですが、高校時代の思い出がふつふつと蘇ってきました。ああ、嫌な先生に図書館で怒られたこともありました。
また、この小説は登場人物の設定が見事だと思いました。基本的に私がライトノベルに浸りすぎ、という前提があってのことでしょうが、登場人物の性格を大げさにならない程度に、でも本当にいるような人間に落とし込めていると思います。登場人物も少なくないのですが(私の高校時代の図書部はもっと部員が少なかった……)ちゃんとキャラを立てることができていました。
高校時代をふり返ると、進学校だったこともあり、勉強に追われた記憶しかなく、「人生をやり直せても高校時代は飛ばしたい」が口癖なのですが、この小説を読むと、「高校でいいこともあったな」と思うことができました。懐かしいです。
鼓笛隊の襲来/三崎亜記 [光文社]
正直に白状しますが、直木賞ノミネートと言うことで本作品を買ってみましたが、あまり期待はしていませんでした。というのは、三崎さんのデビュー作『となり町戦争』を読んで、「アイディアはとても面白いけど、作品を通して描きたいことにうまく反映できていないな」と感じたからでした。もう一つ、『となり町戦争』の主人公が、あまりに傍観者だったのが気になったのも、影響しています。
1つめの「鼓笛隊の襲来」は、アイディアはとても面白いものの、やはりアイディア先行で、それが描きたいこととうまく絡んでいない感じを受けました。しかし、2つめからが違いました。その作品中のアイディアを描きたいこと、言いたいことにうまく生かされていました。特に、「覆面社員」「象さんすべり台のある街」は、アイディアと描きたいことをうまく絡ませて描けていて、非常に面白かったです。
とはいえ、一番好きなのは、「遠距離・恋愛」や「同じ夜空を見上げて」のようなベタ(?)な恋愛ものなのですが。特に書き下ろしの「同じ夜空を見上げて」が一番のお気に入り。短いながらも、アイディアあり、ベタな展開ありと大満足。
この作品を読んで、三崎亜紀さんの評価がかなり上がりました。私のように、『となり町戦争』がイマイチだったと言う人にこそ読んで欲しい作品です。今回は、残念ながら直木賞を逃しましたが、そんなに遠くない時期にとれそうですね。