『砕け散るところを見せてあげる』/竹宮ゆゆこ [新潮社]
〈あらすじ〉
死んだのは、二人。その死は、何を残すのか。大学受験を間近に控えた濱田清澄は、ある日、全校集会で一年生の女子生徒がいじめに遭っているのを目撃する。割って入る清澄。だが、彼を待っていたのは、助けたはずの後輩、蔵本玻璃からの「あああああああ!」という絶叫だった。その拒絶の意味は何か。“死んだ二人”とは、誰か。やがて玻璃の素顔とともに、清澄は事件の本質を知る……。小説の新たな煌めきを示す、記念碑的傑作。
感想は追記にて
『太宰治の辞書』/北村薫 [新潮社]
〈作品紹介〉
時を重ねて変わらぬ本への想い……《私》は作家の創作の謎を探り行く――。芥川の「舞踏会」の花火、太宰の「女生徒」の“ロココ料理”、朔太郎の詩のおだまきの花……その世界に胸震わす喜び。自分を賭けて読み解いていく醍醐味。作家は何を伝えているのか――。編集者として時を重ねた《私》は、太宰の創作の謎に出会う。《円紫さん》の言葉に導かれ、本を巡る旅は、作家の秘密の探索に――。《私》シリーズ、最新作!
単行本
以下、円紫さんと私シリーズ
感想は追記にて
『スキュラ&カリュブディス: 死の口吻』/相沢沙呼 [新潮社]
(あらすじ)
ねぇ、私を殺せる? 背徳の新伝奇ミステリ。初夏。街では連続変死事件が起きていた。まるで狼に喰い千切られたような遺体。流通する麻薬。恍惚の表情で死んでいく少女たち。自らも死を求める高校生・此花ねむりは、鈴原楓との出会いをきっかけに事件を調べ始める。だが、そこには3年前の殺人事件に繋がる驚愕の真実が隠されていた――。性(エロス)と死(タナトス)、その果てに垣間見える少女の戦い。逸脱者たちが繰り広げる戦慄の新伝奇譚。
感想は追記にて
『何者』/朝井リョウ [新潮社]
あらすじ
「あんた、本当は私のこと笑ってるんでしょ」
就活の情報交換をきっかけに集まった、拓人、光太郎、瑞月、理香、隆良。学生団体のリーダー、海外ボラン
ティア、手作りの名刺……自分を生き抜くために必要なことは、何なのか。この世界を組み変える力は、どこから生まれ来るのか。影を宿しながら光に向いて進
む、就活大学生の自意識をリアルにあぶりだす、書下ろし長編小説。(新潮社ウェブページより)
感想は追記にて。
『楽園のカンヴァス』/原田マハ [新潮社]
(あらすじ)
それは真っ赤な贋作か、知られざる真作か? 傑作アートミステリー!
ニューヨーク近代美術館(MoMA)の学芸員ティム・ブラウンは、スイスの大邸宅でありえない絵を目にして
いた。ルソーの名作『夢』とほとんど同じ構図、同じタッチ。持ち主の富豪は真贋を正しく判定した者に作品を譲ると告げる。好敵手(ライバル)は日本人研究
者、早川織絵。リミットは七日間――。カンヴァスに塗り籠められた真実に迫る渾身の長編!(新潮社ウェブページより)
感想は追記にて
儚い羊たちの祝宴/米澤穂信 [新潮社]
「あらゆる予想は最後の最後で覆される―― ラスト一行の衝撃にこだわり抜いた、暗黒連作ミステリ」(帯より)
これは多少言い過ぎな気がしますね。確かに、ラストの方での衝撃はあったのですが、ラスト一行の衝撃はそうでもなかったような。まあ、「山荘秘聞」はラスト一行の衝撃はすごかったのですが。ほかに関しては、正直うまく落としたなぁ、といった感じで。
とはいえ、かなり面白かったです。始めは、今までの米澤作品との文体の違いにかなり戸惑いました。しかし、それも作品のおもしろさに気にならなくなり、どんどん読み進められました。いや、むしろこの文体もいいかな、と思ったりして。
また、米澤作品は「日常のミステリ」を扱う感じがしたのですが、この作品に至っては盛大に殺していますね。まあ、『インシテミル』でも盛大に殺しているのですが。これからは、シリーズものでは日常を扱い、ノンシリーズものでは殺人を扱うのかな、と思いました。それも楽しそうですが。
この作品を読んでいて感じたのが、米澤穂信と言う作者の読書教養の確かさ。最近はラノベ作家でも、自分の読書歴に基づいた作品を書く人が増えてきた感じがしますが、レベルが全然違います。これは正直笑えます。
「ライトノベルばかり読んでいたのけど、大衆作品はやはり面白いなぁ」と感じさせる作品でした。多くの人に読んでもらいたいです。で、このまま順調に書いていくと、そのうち某文学賞とれるのではないか、と思ったりしました。まあ、ミステリ作品なので難しいですね。
しかし、『秋季限定マロングラッセ事件』はまだでしょうか?早く読みたい!!
(H21.1.6追記)
知っていて更新しなかったのですが、『秋期限定栗金飩事件〈上〉』が今年の2月に発売予定だそうです。ソースは本人のホームページ。上下巻と言うことで、非常に楽しみです。書き上がっているんだったら、上下巻一緒に出してくれたら嬉しいです。
切羽へ/井上荒野 [新潮社]
静かな島で、夫と穏やかで幸福な日々を送るセイの前に、ある日、一人の男が現れる。夫を深く愛していながら、どうしようもなく惹かれてゆくセイ。やがて二人は、これ以上は進めない場所へと向かってゆく。
「切羽」とはそれ以上先へは進めない場所。宿命の出会いに揺れる女と男を、緻密な筆に描ききった哀感あふれる恋愛小説。(帯より)
第139回直木賞受賞作。舞台が私の故郷の県であり、非常に興味を持っていたのですが、今回ようやく読了しました。
全体で204ページ。それが4月から2月、そして4月の12章に分かれています。そして、それぞれの月が大体2つのエピソードで綴られています。
読み始めてすぐ気付いたのが、方言の存在。私が今まで一番慣れ親しんだものであるので、心地よいとともに、それだけで面白いと感じてしまいました。単純だな、自分。
読了後の感想としては、頁数も少なく、細かく区切られているため、文体と相まってそれぞれの話が非常に簡潔に表現されているということ。悪く言えば、不親切と言えるかも知れません。紹介文では、「どうしようもなく惹かれてゆくセイ」と書かれていましたが、あまり惹かれているように感じませんでした。ただ、某作品の言葉を借りれば「僕は恋愛に向いていない」と思うので、しょうがないかも知れません。恋愛経験も少ないですし。ついでに、なぜセイが東京から来た石和に惹かれたのかもよく理解できませんでした。これは、自分の理解できないものに惹かれたのか、と何となく推測しました。だから、最後の場面もなにか納得できない感じがしました。印象的ではありましたが。
非常に読みやすい文体で書かれており、スルスル読めました。ただ、前述のとおり、一つのエピソードに割かれているページ数が少ないので、行間をしっかり読まないと理解できない感じがしました。そして、私はスルスル読んでしまったために、あまり理解できていないかな。作品の空気は、今まで読んでいなかったのを後悔するくらい面白かったので、それなりに満足ではありますが。
しかし、一般向け小説の中で100年後に残っている作品がいくつあるのかな、とも感じました。申し訳ないですが、これは残らないだろうなぁ。
海の仙人/絲山秋子 [新潮社]
いろいろなところでのおすすめを見て、絲山さんの作品をいくつか買ってみたものの、『イッツ・オンリー・トーク』が私に全然合わなかったので、今まで積んでいました。ただ、同時収録の「第七障害」は結構面白かったので、もう一作読んでみよう、と思い今回に至りました。
宝くじで3億円あたった主人公、河野勝男が、ファンタジーと名乗る不思議な人物(実は神様らしい)と出会うことから始まるこの物語。勝男の周りの人物との関係を描きながら、物語は進んでいきます。
まず、「イッツ・オンリー・トーク」が合わなかったからといって、今まで避けていてごめんなさい、と謝りたくなるくらい、面白かったです。これもまた、解説そのままになりますが、「よくぞこのページ数でこの内容を描いたな」と感心しました。ページ数は、手元の文庫本で約160ページ。短いために、もう少し描いて欲しい部分と思うところもあるのですが(最後の主人公のところなど)、無駄が全くない。普通の長編などを読んでいると、「ここは必要ないかな」と思い、だれてしまう部分があるのですが、この作品に関してはそれがなく、最後まで一気に読むことができました。
また、関西弁のテンポがいいのか、会話のやりとりが面白かったです。時に意味深な内容を含みながら、ぽんぽんと交わされる会話が、非常に小気味よかったです。
作品の内容として、近親相姦、恋人の病気(もちろん癌)と言った、字面にすると「何だかな」というのも含んでいますが、いいスパイスになっていたと思います。
終わり方に関しては、これもまた、例のパターンに近く、賛否両論ありそうです。最近読んだの、こんなのばかりな気がしますが。個人的には、あれから先を描くのは、森見登美彦さんのことばを借りれば「成就した恋ほど語るに値しないものはない」(『四畳半神話体系』より)というもので、それこそ無粋の極みだと思います。「成就したか(するか)」という問題はありますが。だから、あの余韻を残すような終わり方で大正解だと思います。
いろいろな人が、絲山秋子さんを押すのがよくわかる、すばらしい作品でした。まだ、積んでいる絲山さんの文庫があるので、順調に消化しよう、と思います。