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『柘榴パズル』/彩坂美月 [文藝春秋]

〈作品紹介〉

“あたしは自分の家族が好きだ。こんなこと云うとイタい娘って思われるかもだし、自分でも恥ずかしいヤツとかちょっと思うけど、いかんせん事実だから仕方ない”

優しい祖父と母、しっかりもののイケメンな兄、そして甘ったれの妹に囲まれ、愛情ゆたかな日々を送る19歳の美緒。東京下町、昭和テイストな「山田家」をめぐる謎は、意外な展開を見せて、ひと夏の記憶をかけがえのないものに変えてゆく――。当たり前の幸福が切ないほど愛おしくなる短編連作集。

単行本 


柘榴パズル

柘榴パズル

  • 作者: 彩坂 美月
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2015/08/25
  • メディア: 単行本


 
Kindle版 
 
柘榴パズル (文春e-book)

柘榴パズル (文春e-book)

  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2015/08/25
  • メディア: Kindle版

 

感想は追記にて。 

 

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『羊くんと踊れば』/坂井希久子 [文藝春秋]

(あらすじ)

期待の新鋭が描く妖しい愛の世界

孤独死した祖父の遺体一面に残されていた女の名前と梵字の刺青。祖父の交友関係を探り始めた薫の前につぎつぎ怪しい人々が現れる(文藝春秋ウェブページより)

(感想)

明るくポップ調な表紙ですが。見事なフェイク、という感じでした。よくよく見ていたら、ちゃんと内容と関係ある表紙に仕上がっているんですが。

主人公はある日、孤独死した祖父を発見。その祖父の遺体には女性の名前と梵字の入れ墨が残されていて。祖父の貯金通帳には、死ぬ前に600万円が引き出された後が。主人公は叔母にその600万円の行方を追うことを命令されることからこの物語は始まります。そういう意味では、ある意味ミステリ作品と呼べるかも知れません。しかし、個人的にはミステリとしての訴求力が弱くて、ミステリではないなぁ、と言う印象。

それでは、と言う事で。この作品には、主人公の高校教師と、4年前に卒業した女子生徒との、4年越しの恋の行方、と言う要素があります。しかし、だからこそこの小説は恋愛小説なのか、と言われると首をひねりたくなります。恋愛要素は確かに物語の芯を貫く要素なのですが、それが決して強い印象を残す、というワケではないと感じました。ただ、ジャンルワケしようと思ったら、恋愛小説なのかなぁ?作品の中に、第2次世界大戦に関しての描写があったり、物語に入れ墨が深く関わっていたり、とごった煮の印象です。

さて、読み終わってみて「何とも言いがたい作品だなぁ」と感じました。正直に言うと、そこまで内容的に「面白い」と感じたわけではありませんでした。しかし、つまらないと感じていたわけではなく。作品の持つ不思議な魅了に魅せられて、気づいたら読み終わっていた、と言う印象でした。物語は上記の二つの要素を追うことで展開されるのですが、途中まで作品中でこの二つがつかず離れず、という感じで。決して深く関わり合うことがないため、どっちかの要素をなくしてもよいのではないか、という印象すら覚えました。

ラストまでそれは続いていく感じで。祖父の謎の解明のために翠が必要だったのですが。最後まで微妙な位置関係を保ったままなのは何とも不思議でした。

肝心のラストは過不足ない、という印象。なのですが、なんだか余韻に残るラスト。特に、見せ場となる二つのシーンはそれまでの描写と違って、ひたすら妖艶で印象に残りました。そして訪れる本作のラスト。望んだものとは違うラストでしたが。なんと言うか、ハッピーエンドとは言い切れないけども、お互いがぴったりはまっているようで良いのかなぁ、と。何にせよ、二人の行く末が全く見えないなぁ、と思いました。

個人的に印象的だったのは、登場人物の一人、長治郎さんが主人公に投げかける台詞。

「戦争が終わって私らは、二度とあんなことは起こすまいと頑張ってきた。そのおかげでこの国は、見違えるほど自由になったと思っていた。でもな」
 そこでいったん言葉を切って、長治郎は心底不思議そうに、薫の目の色を覗き込んだ。
「アンタら本当に、自由なのかね」(P.198)

悲惨な戦争についての描写があるからこそ、また平和と言われるいまを生きるからこそ考えさせられる台詞でした。

わずか221ページと内容はコンパクト。この長さもまた絶妙だったように感じます。作品の持つ不思議な空気感に引きずられて最後まで読み進める、絶妙なページ数、と言うか。「独特」という言葉が、この作品にはぴったりだと感じました。この人の次の作品も読みたいかな、となんとなく思わせてくれる作品でした。

羊くんと踊れば

羊くんと踊れば

  • 作者: 坂井 希久子
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2011/11
  • メディア: 単行本

 


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『武士道エイティーン』/誉田哲也 [文藝春秋]

と言う訳で、ちゃんと?週末に長崎に帰ったときに紀伊國屋で買ってきました。

武士道エイティーン

武士道エイティーン

  • 作者: 誉田 哲也
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2009/07
  • メディア: 単行本

 

香織と早苗もいよいよ高校3年生。最後の夏。そしてふたりは約束の全国大会の舞台で向き合って。

本当に素晴らしい物語でした!今思い出しただけで泣けてきます。私の涙もろさが異常、と言う説は否定しませんが。ふたりが、迷い、決めて、また迷い、それでも進んできた結末が描かれる時が来た、と考えると、感慨無量です。

ただ、香織と早苗。ふたりの結着、ということだけに期待すると、かなり期待はずれになるかも知れません。香織対黒岩の勝負、と見た上でも。それくらいにこの二つはあっさり描かれています。それは、期待していた私が、拍子抜けするくらいに。

では、この『武士道エイティーン』の見所は何か、と考えると、それは「ふたりの成長」という点につきると思います。ただただ力を追い求めていた香織が、勝つことに頓着せず、楽しい剣道ができたらいいと考えていた早苗が、ふたりが出会ったことで開かれた武士道という道。その道を歩み続けてきたふたりのなんとまぶしいことでしょうか。いつの間にか、部の中心として、後輩を厳しく指導しつつ、部を引っ張っていく香織。思わぬ事態に見舞われ、重大な選択を迫られることになる早苗。しかし、今まで迷ってきたから、迷いのなかから自分たちの道を決めてきたから、彼女たちは迷うことはない。本文に書かれた「わたしたちは、もう迷わない」という言葉のなんと強く響くことでしょうか。3年間という短い間に、ココまで成長することができる。青春って、本当に羨ましい。おっさんになってしまった私は、それが素直にうらやましく、まぶしく、あこがれてしまいます。

さて、さらに今回はいつもと違った趣向があります。今までは、香織の視点と早苗の視点、交互にふたりの視点から物語が描かれてきたのですが、今回は、早苗の姉・緑子、香織の師匠・桐谷玄明、早苗の部活の顧問・吉野、そして香織と早苗の後輩である美緒の物語が描かれます。これがまたおもしろかった。実は、それぞれが微妙にリンクしていて、その縁ににやりとしたり、緑子の決意に涙したり、美緒の気持ちを応援したくなったり。確かに、本編とは大きく関係があるわけではない、と言われたらそれまでです。しかし、この4編を入れることで、物語の理解度が、思い入れがぐっと強くなった気がします。

とにかく、本当におもしろい話でした。これ、高校生は絶対に読んだ方が良い!と思えるくらいに。少なくとも、剣道をしている中高生は絶対に読むべきでしょう!私も、この話と高校生の時に出会っていたら、少しは変わっていたかもなぁ、と思いました。それがまた少し口惜しいw

物語はこれで終わりですが、ふたりの人生はこれからも続いていきます。しかし、「わたしたちは、もう迷わない」という言葉の通り、武士道という大きな、長い、険しい道を歩んでいくんだと思います。そんなふたりに負けないように、自分ももっと歩んでいかないとならない、そう思わせてくれたお話でした。


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『武士道セブンティーン』/誉田哲也 [文藝春秋]

いつものように、本屋さんに突貫したらおいてあったので、衝動的に購入してしまいましたw本当は、森見登美彦『ペンギン・ハイウェイ』とか、米澤穂信『ふたりの距離の概算』が欲しかったのですが。『ペンギン・ハイウェイ』はあったけど、再版だったし、『ふたりの距離の概算』は入荷してないしで、結局こちらだけ購入しました。文庫落ちして読んだ、『武士道シックスティーン』が凄くおもしろかったですしね。

武士道セブンティーン

武士道セブンティーン

  • 作者: 誉田 哲也
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2008/07
  • メディア: 単行本

 

さて、『武士道シックスティーン』で分かれてしまったふたりですが。相変わらず、香織は自分の道を進んで、早苗が悩む、と言う構図はあまり変わらなかった感じがします。早苗は、転校して、新しい環境に身を置くことになってしまった、と言う影響がありますが。香織にしても、以前のただただ強さを求めて突き進む、と言う訳でなく、周りを見て、自分の武士道を追求する、というスタンスへと変化しているのですが。

 

タイトルにもありますが、今回のテーマもあくまでも武士道。香織の前には、武士と侍の違いとして、早苗の前には、東松と福岡南の剣道の違いとして立ちふさがります。

やはり、青春って良いな。そう感じさせてくれました。もう、読み始めたら、ページを繰る手を止められませんでした。それくらいのめり込めましたよ。壁にぶつかって、悩んで、それでも進んでいく。それこそ青春ですよねw

「(前略)そんな当てっこ剣道に、あたしたちの剣道が負けていいわきゃないだろうが』

『武士道だろうが。忘れんなよ。武士道があるから、剣道は武道なんだろうが(攻略)』(どちらも301ページ)

ここら辺の叫びが気持ちよかったですね。以前、日本と某国の剣道のスタンスの違いを聞いたことがありますが、それを思い出しました。あくまでも、精神修養を、武士道をメインにおいているのが日本の剣道なんだよなぁ、と。だからこそ、今でも剣道が残っているんだろうなぁ、と思いました。勝ちを追求するのが悪い、と言いませんが、日本人としてそこを忘れてはいけない、と感じもしました。剣道ではありませんが、いつぞや某有名選手が「勝つための」と言っていて。私はそれに違和感を感じましたことがあります。それの根底には、やはり、武道というものは精神を修めるためのもの、と言う考えがあるからだろうなぁ、と読みながら感じました。そういえば、その人は福岡出身だったなw

 

閑話休題。迷いながらも、悩みながらも、自分の今置かれた場所で、自分の武士道を追い求めることを決めたふたり。そして、いよいよ舞台は、高校最期の年、『武士道エイティーン』へと。武士道という道の右端と左端を歩み始めた香織と早苗。ふたりが武士道の中心で再びまみえるとき、一体そこに何があるのか。それが楽しみで仕方ありません。

お互いがお互いを高め合っていけるふたりって素敵だなぁ、そんなことを感じさせてくれました。本当におもしろかったです。


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底抜けに明るい青春小説 『少年少女飛行倶楽部』/加納朋子 [文藝春秋]

あらすじ(帯より)
中学1年生の海月(みづき)が幼馴染の樹絵里に誘われて入部したのは「飛行倶楽部」。メンバーは2年生の変人部長・神(じん)、通称カミサマをはじめとするワケあり部員たち。果たして、空に舞い上がれるか!?

やたらポップな表紙だなぁ、と言うのが第一印象。あとがきで「底抜けに明るい、青春小説が書きたくなりました」とありますが、内容もそのように。なにか、今までの加納朋子さんのイメージとはかけ離れた、非常に良質の青春小説でした。と言うか、非常にライトノベルに近いモノを感じました。個性的な(と言っても、所謂「ラノベ」の登場人物より常識的ですが)の登場人物、そして、名前。語りも、主人公・海月の一人称視点で書かれており、中学1年生と言う設定から非常に軽妙なノリでした。

非常に読みやすかったのでサクサクと読み進めることが出来ました。やっぱり青春小説は良いなぁ。思うに、大人が失ってしまったモノがいろいろ詰まっているんだろうなぁ。上手く言えないので、逃げてみました。まぁ、大人が思い出すより、中学生も複雑だとは思いますが。子どもでもない、でも大人でもない微妙な時期、というのが良いのでしょう。

はじめは内申書で困るから、と言う理由で「飛行」することを考えていた海月が、だんだん周りを巻き込みながら、飛行を目指して頑張る姿がかなり良かったです。まあ、その主な理由がカミサマ部長を放っておけない、と言うことからだったと思いますが。そして、自分でも気付かずにカミサマ部長の存在が大きくなっていく様子がもうツボでした。最後の、部長の一言も凄く素敵でした。もちろん、部長は自分の気持ちに気付いてのことばで無いであろうし、だからこそ、何かの思いがあって言ったことではないと分かるのですが。でも、そのさりげなさがカミサマ部長らしくて良かったです。そりゃ、海月は口をパクパクさせるしかありませんね。

ミステリの要素が全くないのも意外でした。私が読んできた加納朋子さんの本は、どのシリーズでも「日常の謎」が入っていたのですが。まぁ、『てるてるあした』とか、買って読んでいない本もあるので何とも言えず。でも、加納朋子さんは元々、文章自体も魅力的であったのでこれはこれでいいなぁ、と思いました。

内容等から言って、中高生向けの本ではないかなぁ?と思いました。もちろん、大人にもオススメですが。それなのに、値段が1750円と少々値が張るのはいただけないかなぁ、と思いました。まぁ、学校図書館に入るのでしょうかな?出来るだけ多くの人に読んでもらいたい、非常に読後感の良い物語でした。


少年少女飛行倶楽部

少年少女飛行倶楽部

  • 作者: 加納 朋子
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2009/04
  • メディア: 単行本



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ベッキーさんシリーズ完結 『鷺と雪』 [文藝春秋]

xfyブログエディッタを使っての初投稿。はてはて、うまくいくかなぁ。

ベッキーさんシリーズもいよいよ完結。このシリーズは結構お気に入りだっただけに、ちょっと残念な思いもあります。

今読み終わったばかりなのですが、思っていたような結末ではなかったのですが、でも胸に染みるような終わりでした。個人的には、戦争に突入して終わりだと思ったのですが。まあ、あれは実質戦争に突入したようなものかな?

今回は「不在の父」「獅子と地下鉄」「鷺と雪」の3編からなっています。今回嬉しかったのが、この3編がすべて日常の謎だったことです。やはり日常の謎は良いなぁ。誰かが死ぬと、そこには憎しみがあったり悲しみがあったりと、人間の悪意が出てくるのですが、日常の謎にはそれが少ないですから。それこそ、「鷺と雪」のように、単なるいたずらですんだりするので。

ベッキーさんの秘密は前回明かされたので、今回特にベッキーさん関連の話はなく。と言うか、ベッキーさんの出番自体が少なかった気がします。このシリーズをベッキーさんの物語ととらえると、『玻璃の天』の方が最終巻っぽかったですね。ミステリの内容をとっても『玻璃の天』の方が、最終にふさわしかったかも知れませんね。

でも、このシリーズの真のテーマは戦争に突入する時代を描くことだったように思います。世間は戦争という時代に向かいつつあるのですが、そこには普段の生活があり。『リセット』の時も思ったのですが、たとえ戦争時であっても日常の生活がある、と言うことを忘れてはいけない気がします。

今回、個人的に一番良かったのが、ベッキーさんのお嬢様に対する想い。「何事も―お出来になるのは、お嬢様なのです。明日の日を生きるお嬢様型なのです」(P.244)ということばですが、これは、ベッキーさんの口を通して、北村薫さんが伝えたかったことなのかな、と思いました。今の若い人たちには、このことばを信じて欲しいなぁ。そして、自分がもう何事も出来る年ではなくなってきたのが悲しい。

最終巻にしては、静かな結末だったと思いますが、決して地味と言うことではなく非常に面白かったです。そして、相変わらずの北村薫氏の博覧強記ぶりにもうただただ圧倒されました。北村薫さんの目には、どのように世界が映っているのか。ライトノベルばっかり読んでいる自分には無理だとは分かっていますが、それでもその高みに少しでも近づきたい、と思いました。




鷺と雪

鷺と雪

  • 作者: 北村 薫
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2009/04
  • メディア: 単行本



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まほろ駅前多田便利軒/三浦しをん [文藝春秋]


まほろ駅前多田便利軒 (文春文庫)

まほろ駅前多田便利軒 (文春文庫)

  • 作者: 三浦 しをん
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2009/01/09
  • メディア: 文庫



初の携帯から更新です。今後増えるかも。

さて、先日第140回芥川賞・直木賞が発表されましたが、本作は第135回直木賞受賞作です。
本作が初の三浦しをんです。今月の『ダヴィンチ』の特集もあり、変な偏見があったのですが、大変失礼しました。非常に上手い作家だなぁ、と感動しました。いや、表現がいちいち上手いなぁ、と。

内容は、うーん面白いけど、私にはイマイチぴんと来ませんでした。『4teen』みたいだなぁ、とは思いましたが。この作品読んでて気づいたのですが、私は恵まれていて幸せだから、文学作品にピンと来ないのだと思います。だけど、日常以外の刺激が欲しいから、ラノベは大好き何だろうなぁ、と。

閑話休題。多分、文庫版解説のように、本作の主題は「幸福の再生」だと思います。だけど、まあピンと来ないのはまだまだ人生経験少ないからだろうと思います。面白かったからいいですけど。もう少し年をとったら、違う感想もつのかもしれません。多田や行天くらいの年になったら、再読してみようと思いました。

しかし、あからさまでないにせよ、多田と行天の関係の描き方は、流石だなぁ、と感心しました。
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荒野/桜庭一樹 [文藝春秋]


荒野

荒野

  • 作者: 桜庭 一樹
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2008/05/28
  • メディア: 単行本



『私の男』で直木賞を受賞した後の第一作。それが、ファミ通文庫で出たものに加筆修正したもの、というのは、桜庭一樹という人を象徴している、と言えばそうなのかもしれません。文藝春秋社の阿漕な商売、とも言えますが。

私にとって、桜庭一樹と言う作家は、面白いと思うものの引っかかる点があり、手放しで絶賛、とはいかない人です。直木賞からの新参者なので、偉そうなことは言えませんが。でも、面白いことは面白いので最近出版されたものは積極的に購入しています。そして、読まずに積む訳で、この本もずっと積んでありました。そして、今回読もうと思い立ったものの、あまり期待はしていませんでした。前置きが長くなりましたが、結論としては、非常に面白かったです。

『荒野の恋』は読んでいないので、比較はできませんが、まず文体がラノベっぽくないですね。堅いという印象を受けることもなく、良い感じだと思いました。内容も、「いかにもラノベ」というものでなく、ラノベ的要素を取り入れながら、一般向けとしても通じるような気がしました。『少女には向かない職業』とか『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』とかよりは遙かに。確かにこれは、受賞後第一作にしてもいいかな、という感じ。

内容としては、恋愛小説、のような形を取っていながら、少女・「荒野」の成長が中心だと感じました。そもそも、恋という面なら、1巻で完結している気がしますし。2部3部では悠也の出番が少ないですし。その点からタイトルを『荒野の恋』から『荒野』に変更したのは正解だと思います。まあ、2部読み始めたときは『あずきちゃん』みたいになるのではないかとひやひやしましたが。ちょうど、登場人物の配置も同じような似ているように感じましたし。

一人の少女が、一人の女へと成長していく姿は、非常に興味深いものがありました。これ以上発展がなさそうですが、もう少し読んでいたいと思いました。

しかし、恋愛の気持ちを「波」で表すのが好きだな、とつくづく思いました。それと、父の話し方が『GOSICK』のヴィクトリカに似ているなと感じ部分があり、少し苦笑い。本当に些末なことなのですが。

11月は、橋本紡さんの『猫泥棒と木曜日のキッチン』が新潮文庫ででるようですし、ライトノベルを一般向けとして表紙を変えて売り出すのは、もう少し続きそうな気配がしますね。どうなっていくか、ちょっと楽しみです。
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