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『ロートケプシェン、こっちにおいで』/相沢沙呼 [東京創元社]

(作品紹介)

酉乃との距離が縮まったような、そうでないような。悶々と過ごす、ポチこと須川くんが遭遇した学園内外の出来事。女子高生マジシャン・酉乃初のたおやかな推理第二集。 (東京創元社 ウェブページ「http://www.tsogen.co.jp/np/author/1644」より)

(感想)

須川くんと酉乃さんの織りなす(甘酸っぱい恋の)学園ミステリ、第二弾。前作、『午前零時のサンドリヨン』が非常に面白い作品だったので、楽しみにしていたのですが、期待していた以上に面白い作品となっていました。この作者、本当に素晴らしい。

さて、今作は前作との大きな違いがあります。それは、一つの話が「Red back」と「Blue back」の二つのパートに分かれていること。そしてそれぞれ描かれるものが違います。Blue backは前作から引き続き、須川くんと酉乃さんの物語。須川くんが感じた疑問を、酉乃さんが見事に謎とく、と言うパート。相変わらずの須川くんの恋する漢女(おとめ)っぷりが堪能できますw今回は、酉乃さんに告白した、と言う場面から始まっています。そこから、二人の関係がどうなっていくのだろう、と言うところが大きな見所だと思います。帯に「なかなか進まない」とありますが、本当になかなか進まない恋の行方。それに悶々としつつ、ちょっとしたことで一喜一憂する須川くんの姿が非常に楽しかったです。これが青春だよね、という感じで、初々しさを存分に楽しむことができました。

そして、Red back。Blue backが青春の「陽」の面を描いているとしたら、このRed backは「陰」の面を描いているように思いました。学校生活での人間関係。その人間関係の残酷さがここでは描かれていました。このパートが、個人的には非常に辛かったです。自分とは異質なものを排除しようという残酷さ。一人で気にしないで生きていくことができたら楽なのでしょうが。高校というある意味閉鎖空間の中では、なかなかそう強く生きていくのは難しく。仲間から外れされてしまうことに対する恐怖。そして、外されてしまった苦しさ。すれ違いうことの辛さ。Blue backが明るければ明るいほど、このRed backの持つ重苦しさが際立つようでした。

このRed backとBlue backのコントラストが際立っていて、物語に深みを与えていたように思います。一見、違う世界を描いていた二つのSTORYがだんだんと絡まってくる描き方は見事でした。

Red backの苦しさ。それに、Blue backの苦悩が合わさって迎えるラストの物語。そこで描かれる結末。そこにはほんの少しの、驚きを呼ぶ叙述トリックが隠されていました。これはまた見事に勘違いしていたな、と。ただ少し残念だったのが、その自分の勘違いがイマイチ分かりづらかったことかな。これは私の理解の度合いの問題かも知れませんが、私の場合は、この場面にいたって「えっ?えっ?」という感じになってしまい、結局確かめるために最初からそれに関する部分を読み直すことに。分量的にはたいしたことなかったので問題なかったのですが、この辺、うまく処理してくれたらなぁ、と言う思いがしました。

そこまでが重かったからこそ、ラストに見える燈が非常に明るく感じました。おそらく、二人は大丈夫。そして、きっと二人もうまくいく。そう思わせてくれました。

この展開から行くと、次の巻で綺麗なラストを迎えてくれそうかな、と言う印象を受けました。だんだん酉乃さんの態度に変化が見えてくるのが、何ともじれったいですが。次に一体どういう謎と恋愛を見せてくれるのか、非常に楽しみです。この作者、本当に凄いと思わせてくれました。ミステリ好きにはもちろん、ラノベ読みにもおすすめしたい作品です。それ故に、やはり1900円+税、と言う値段はネックですね。この辺、早めに文庫にするとか、対応して欲しいと思いました。

ロートケプシェン、こっちにおいで

ロートケプシェン、こっちにおいで

  • 作者: 相沢 沙呼
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2011/11/19
  • メディア: 単行本

 


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『午前零時のサンドリヨン』/相沢沙呼 [東京創元社]

(あらすじ)

内容紹介

第19回鮎川哲也賞受賞作

ポチこと須川くんが、高校入学後に一目惚れしたクラスメイト。不思議な雰囲気を持つ女の子・酉乃初は、実は凄腕のマジシャンだった。放課後にレストラン・バー『サンドリヨン』でマジックを披露する彼女は、須川くんたちが学校で巻き込まれた不思議な事件を、抜群のマジックテクニックを駆使して鮮やかに解決する。それなのに、なぜか人間関係には臆病で、心を閉ざしがちな酉乃。はたして、須川くんの恋の行方は──。学園生活をセンシティブな筆致で描く、“ボーイ・ミーツ・ガール” ミステリ。

小説的な技術性は候補作中もっとも高い。──笠井潔

高校を舞台にしながら、筆致から感じられるのは若さ以上にむしろ《老練》。──北村薫

赤いリボンのかかったケーキの小箱のように愛らしい作品。文章の巧みさと、終始発散される吸引力の強さは、候補作中随一。──島田荘司

『うる星やつら』のあたるとラムを連想させられた。これは「日常の謎」というよりも、ちょっとビターでスイートなラブコメではないのか。なにしろセンスがいい。──山田正紀

東京創元社webページ「http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488024499」より 2011年10月22日)

 

(感想)

chokusinさんの感想を読んで気になり購入したものの、積み本と化し。暫く放置していたのですが、ミナモさんの感想を読んで読むことを決め、ようやく読み終わりました。読み終わって思ったのは、「どうして今まで積んでいたのだろう?」と言うこと。非常に綺麗で、甘酸っぱく、面白い作品でした。

描かれるのは、日常の謎のミステリ。舞台は高校。文体も軽妙。というか、この会話の展開。主人公のどことなく頼りない男の子の一人称による書かれ方。非常にライトノベル的文章だと感じました。そして、その書き方はなかなかに手慣れた感じで。うまい文章だなぁ、とかんじました。ただ、主人公の思考パターンは好き嫌いが分かれそうかな?とは感じました。私は、悩める高校生っぽくて好ましく思いましたが。

さて、ジャンル的には「ミステリ」ということになりますが。この小説は実は恋愛小説なのではないかな、と感じました。むしろ、日常の謎はあくまでも彩りであって、メインで書きたかったのは高校生の恋愛では無いのかなぁ?と感じさせるほどに、そちらに魅力を感じました。

4つの連作短篇で描かれるこの物語。窓際の席で頬杖を突いて青空を眺めていた少女に恋した少年が、失敗をしながらも少しずつ少女と心を近づけていく様子が見られました。少年がいかにも青臭い感じに対して、少女はどことなく儚げなような。そこに静かにたたずんでいるような印象を受けました。内側を見せようとしない、という感じもしました。その彼女が、その内側に隠した本当の自分を見せた時。そこまでも十分に良い感じだなぁ、と感じていた彼女がさらに魅力的に感じられました。何とも人間的なんだ、と。主人公はさんざん苦しんで、結局彼女の傍らにいるだけの選択でしたが。あれ、私だったら実行していますね。彼女に拒絶されようと嫌われようと。その辺、主人公はライトノベル的なへタレ主人公かなぁ?という印象を受けました。

設定やキャラ設定もライトノベル的で、非常にライトノベルに親和性がありそうな作品だなぁ、と感じました。どことなく、米澤穂信さんの「古典部」シリーズや「小市民」シリーズを思い出すような。こう言う作品は、本当は中高生に向けてアピールすべきではないのかなぁ、とも感じるのですが。ハードカバーであったり定価が1900円+税、というのは、ちょっとなぁ、と感じました。

ついでに言えば、表紙も何か違うような気がするんですよね。私は暫く表紙観ていなかったので読み終わってブックカバーを外して改めて表紙を見たのですが。この彼女を見て、果たして少年は一目惚れをするのか?という気がしました。どこへ向けて売り出したいのかイマイチよく見えてこない感じがしました。ライトノベルみたいな表紙にしろ、とは言いませんが、「小市民」シリーズのような、ポップな表紙で売り出すべきでは無かったのかなぁ、と残念に思いました。この辺は、文庫落ちする時に何とかして欲しいところであります。

高校生の恋愛の甘酸っぱさが堪能できる、魅力的な作品でした。ラストが何とも幸せで、ほほえましいところで終わりましたが。この二人がこの後どうなっていくのかなぁ、と思っていたら、2011年11月、続編の『ロートケプシェン、こっちにおいで』が発売されるようです。二人が一体どうなっていくのか、非常に楽しみです。

午前零時のサンドリヨン

午前零時のサンドリヨン

  • 作者: 相沢 沙呼
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2009/10/10
  • メディア: 単行本
ロートケプシェン、こっちにおいで

ロートケプシェン、こっちにおいで

  • 作者: 相沢 沙呼
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2011/11/19
  • メディア: 単行本

 

 


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『叫びと祈り』/梓崎優 [東京創元社]

(作品紹介)

砂漠を行くキャラバンを襲った連続殺人、スペインの風車の丘で繰り広げられる推理合戦、ロシアの修道院で勃発した列聖を巡る悲劇……ひとりの青年が世界各国で遭遇する、数々の異様な謎。選考委員を驚嘆させた第五回ミステリーズ!新事象受賞作「砂漠を走る船の道」を巻頭に据え、美しいラストまで一瀉千里に突き進む驚異の連作推理誕生。大型新人の鮮烈なデビュー作!(作品より)

(感想)

ミナモさんが紹介されていて、面白そうだったので購入、読了に到りました。読み終えて「あぁ、面白かった」と満足感がありました。ミステリ、と意気込んで読むと少し肩すかしを食らう面もあるかも知れませんが、「物語」として上質に出来ていました。

この物語は、「砂漠を走る船の道」「白い巨人(ギガンテ・ブランコ)」「凍れるルーシー」「叫び」「祈り」の全五篇の短篇からなる連作短篇集。そして、四篇が最後の「祈り」への伏線となっていて、その描かれ方は何とも見事でした。

ミステリとしてみると、ホワイダニットになるのかな?「白い巨人」は果たしてそれに当たるのか、ミステリに疎い私には分かりませんが。ミステリとしてみると、「砂漠を走る船の道」が一番よかったように思います。無駄のない文章の中で起こる殺人事件。果たして、犯人は?目的は?そのあまりの力にただただ圧倒されて、読まされるばかりでした。

個人的に好きなのが「白い巨人」。他の四篇が、人の悪意や利己的な面を描いた物語であるのに対して、この「白い巨人」だけは、明るい、希望溢れる物語でした。そして、この短篇が一番叙述トリックが効いていたように思います。人の心理の思い込みをうまく生かして。ラストの場面、「そういうことだったのか」と思わず言ってしまうようでした。そして、最後の終わり方が何とも幸せでした。まさか、こう言う展開が来るとは思わなかったので。

「凍れるルーシー」「叫び」に関しては、面白かったのですが、ラストの終わり方には不満があるかも知れません。というか、私程度の読解力では「凍れるルーシー」のオチの意味が分かりませんでした。

そして、「祈り」ですよね。ここでまた、作者のうまさが引き立っていたと思います。なるほど、だからあそこではあの表記だったのか、と納得させられるような。この短篇のタイトルが「祈り」ですが、この話が「叫びと祈り」であるように感じました。遂に「叫び」をあげてしまった心。その心を癒すのは、あくまでも「祈り」しかない。そんな思いが伝わってくる物語でした。物語の締めとしては、最良だったのではないでしょうか。

何でもこれが作者のデビュー作とのこと。確かに、文体からは、新人かなぁ?と感じるような堅さのようなものも感じられましたが。それを補ってあまりある作品の魅力に、本を捲り続けました。これはこれからが楽しみな人だなぁ、という感じ。この作者、暫く追い続けたいなぁ、と思わせてくれる作品でした。

叫びと祈り (ミステリ・フロンティア)

叫びと祈り (ミステリ・フロンティア)

  • 作者: 梓崎 優
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2010/02/24
  • メディア: 単行本

 


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秋期限定栗きんとん事件 下/米澤穂信 [東京創元社]


秋期限定栗きんとん事件 下 (創元推理文庫 M よ 1-6)

秋期限定栗きんとん事件 下 (創元推理文庫 M よ 1-6)

  • 作者: 米澤 穂信
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2009/03/05
  • メディア: 文庫



小市民シリーズ第3弾の後編。上の発売からさほど間を置かずに発売されたのは嬉しい限りです。でも、どうせなら上下間同時発売が良かったかな、とも思いますが。それは贅沢というものかもしれませんね。

今回は前巻からに引き続き、連続放火事件の解決編となります。そしてその中で、気になる小鳩くんと小佐内さんの再会も描かれている、といった感じでしょうか。

今回は、謎解きパートは連続放火事件の解決のみ。そのため、謎解き部分を期待している人には、少し不満を感じるかもしれません。まあ、反面連続放火事件に関しては、様々な推理要素があって満足な感じでした。まあ、犯人に関してはある程度予想の範疇でしたが。個人的には瓜野君の的外れ予想はなかなか楽しめました。

そして、今回の最大の見せ場とも言えるのが、小鳩くんと小佐内さんの再会でしょう。上では、お互いに別の恋人ができたのですが、まあ、予想どおりの展開でしたね。こちらの望むような展開で何よりです。小鳩君の言うように、「たったひとり、わかってくれるひとがそばにいれば充分」(P.212)だと思います。まあ、そのひとりを見つけるのが何より難しかったりするのですが。ただ、今の段階では小鳩くんと小佐内さんの間に温度差があるのが気になるところ。これは次回以降で解決する、といったところでしょうか。しかし、小佐内さんはやはり恐ろしい。

個人的には、瓜野君の顛末が興味深かったです。まあ、結果を見れば恋人の手で踊らされているだけ。友達が放火犯で奇しくも友達の放火を助長するようなことをしていた。友達と思っていた人間が放火犯で、実は見下されていた、と哀れな感じですが、全然かわいそうに思いませんでした。ただ単に、私が嫌いだからなんですが。パトカーの巡回を見て

 どちらにしても、あんな目立つ光を投げられたのでは、犯人が萎縮してしい かねない。言うまでもないが、放火犯には何かアクションを起こしてもらわないと、撮ることも捕らえることもできない。(P.21)

ってのは、どこのクズ人間かと。まあ、普通の友達だったら、そんなことをやめるように止めると思うのに、止めもしないということに何も感じないのがその程度というか、他愛ないというか。結局、自分が有能だと思い込んだ人間というのは哀れだなぁ、という感じでした。

『夏期限定トロピカルパフェ事件』から約三年ぶりの新作となったわけですが、非常に大満足でした。きっと、『冬季限定~』もあると思うので、それを気長に楽しみにしたいと思います。
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秋期限定栗きんとん事件 上/米澤穂信 [東京創元社]


秋期限定栗きんとん事件〈上〉 (創元推理文庫)

秋期限定栗きんとん事件〈上〉 (創元推理文庫)

  • 作者: 米澤 穂信
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2009/02
  • メディア: 文庫



小市民シリーズの最新作。前作が非常に気になる終わり方だったので、待ちに待った最新作の刊行です。

こういう上下巻ものの定番ですが、待てる人は下巻の発売まで待った方がいいかもしれません。下巻もすぐに発売される予定だったと思うので。「続編を待っているけど、いつまでも続編が出なくて驚愕」みたいな最悪の事態も避けられますし。……本当にでないのかな?驚愕?

閑話休題。小市民シリーズの本作でありますが、今回のメインの登場人物は新登場の瓜野君。高校一年生。新聞部員。小佐内さんの交際相手となります。そう、何と今回は小鳩君と小佐内さんに恋人ができます。それもわりとあっさりと。なんともうらやましい話で。まあそれはおいといて、この瓜野君が、木良市で頻発する放火事件を追いかけるのが、上巻のメイン。ということで、あまり小鳩君と小佐内さんの出番が実は多くありません。それは少し残念。

今回、瓜野君が中心となって物語が進んでいきますが、正直、この瓜野君が個人的には苦手。というか嫌いとさえ言えるかもしれませんでした。なにがそうかというと放火事件を追いかけるのですが、その理由が、健吾のように正義感から、という訳でなく、小鳩君のように興味本位でもなく(まえこれもどうかなと思いますが)。ただ単に、高校に自分の名前を残したいから、という完全に自己中心的な目的で。何か、事件が起こって視聴率アップ、的な思考が、ワイドショーレポーターのようで嫌でした。まあ、若いと言えば若いのでしょうが。小市民的でないというか。

それに反して、健吾の成長っぷりがすごかった。「おいしいココアの作り方」からのイメージか、健吾=ずぼら、のイメージがあったのですが、とんでもない。いつの間にか、自分たちの行動に対して、どのような反応が起こりうるか、しっかり考えられるようになっていて、正直「こんなやつだったかな」という思いすらしました。いや、純粋にかっこよかったです。

小鳩君は、前述のように出番が少なくて残念。自然と、小鳩君の謎解きショーの場面も少なく。もっと、意気揚々と謎解きして反省する小鳩君を見たかった気がします。とはいえ、彼女とデートしていて、いけないと思いつつ意気揚々と謎解きをしちゃうのが小鳩君らしくてほほえましかったです。小市民はほど遠そうな感じです。

さて、今回はこの放火事件とあることについて、小鳩君が予想を立てることで終了しています。果たして、それがどのような物か、非常に楽しみです。また、今回結局出会うことがなかった小鳩君と小佐内さん。再びであった二人の関係がどのようなものとなるか、楽しみにしたいと思います。
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