SSブログ

『ワールズエンド・ガールフレンド』/荒川工 [小学館]

「ねえ、『ここが世界の果てなら』、って。そう考えたらいいと思う」。君の奇抜な提案に、俺はつい言葉に詰まる。「ねえ、そしたらその先は、誰もが初めて見る景色だから。誰も見たことないならさ、それは自分だけのものじゃない?」世界の果て、世界の終わりーー果てと終わりの向こうには未知が広がるーー君はそう言いたいのだろうか。主人公の少年・慎司。幼なじみの双子の姉妹、まひると真夜。それぞれに恋心を抱きながら育ち、三人が高校生になったある日、真夜は事故により記憶を失い、日常はゆるやかに崩壊をはじめる。(作品紹介より)

(感想)

完全に表紙買いだったのですが。久しぶりに心をわしづかみにされた上でガシガシと揺さぶられるような作品に出会いました。読み終えた今、まだ心臓がどくどくと早鐘を打っています。何とも言えない力をもった作品だなぁ、という印象です。プロローグに始まって、プロローグに帰って来たくなる物語でした。

本作は、3つの時間軸で物語が描かれます。一つは、事故により記憶を失った日月真夜と幼なじみの一二三慎司の物語。これがメインになります。二つ目がそれから数日前。日月真夜が事故に遭う前の物語。そして最後に、日月真夜と日月まひる、そして一二三慎司が小学生の頃の物語です。

次々に入れ替わる時間軸で翻弄されるように読み進めました。物語の核心は、真夜の失われた記憶を取り戻すことか事故の真相か、と予想を立てて読み進めますが、肝心なことはなかなか描かれずに謎は謎のママ。ただ、日月真夜と一二三慎司二人の関係。そして、周りの人物達の関係に興味が惹かれていきました。

ただ、読み進めるうちに核心に迫ってきて、この物語に隠された部分が見えてくることで、事件の真相が見えてきて。この辺、オチの部分についてはある程度予想が付くのではないだろうか、と思います。ただ、それがこの物語の重要な部分ではありませんので、がっかりしなくても良いです。この物語の重要な物語はラストに描かれる主人公達の決断にあると思います。

この展開の作品が過去なかったワケではないと思います。ただ、しかしまさかこっちの展開で来るとは思っていなかったために、ラスト部分で心を撃ち抜かれたような気がしました。確かに、この結末を外部から批判するのは簡単であると思います。しかし、自分がこの決断を迫られたとき。果たして私はどうするだろうか。そう考えたときに、私は簡単に批判できないと感じました。あまり多くを語るとネタバレになってしまいますが。物語を読み終えたとき、このタイトルの持つ意味の重さ。表紙のライトさに隠された重さを感じるようでした。

作品全体が淡々と描写されていることが、またこの作品のもつ重さというか、儚さというか。淡い印象をさらに引き立てていると思います。さらに挿絵。最近は見開きの挿絵も増えているのですが、この作品は全ての挿絵が見開き。この素朴なイラストが見事に作品世界を彩っていました。全ては、このラストを演出するために、という印象です。

何とも難しい作品だなぁ、と思います。決してライトではないな、と言う印象。いわゆるライトノベルを求めている人には向かない作品だと思います。しかし、時にはライトノベルっぽくない作品、変化球気味の作品を、と思っている方にはよいのではないかと感じました。解説の田中ロミオ氏が「ストーリー志向の作品だと言える」(P.305)とありますが、まさにそんな感じです。


ワールズエンドガールフレンド (ガガガ文庫)

ワールズエンドガールフレンド (ガガガ文庫)

  • 作者: 荒川 工
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2011/12/17
  • メディア: 文庫



ブログパーツ
nice!(14)  コメント(2)  トラックバック(1) 
共通テーマ:

『うちの魔女しりませんか?2』/山川進 [小学館]

(ショート感想)
前作と同じ時間に起こっていた、もう一つの少年と魔女の出会いと別れの物語。物語の中に、『ローマの休日』をみているシーンがありますが、それを彷彿とさせるような。ちょっといいお話でした。


(あらすじ)
「今日、地球上から魔女が絶滅しました」--。魔女が、絶滅危惧種として保護されている世界。学校をサボってばかりの俺のもとに、ある日、空から降ってきたのは、ちょっと不思議な女の子。変なことばかり言うし、なぜか偉そうだし、ちっとも素直じゃないし、猫としゃべるし……!?誰かと仲良くすることなんて、無いと思っていた独りで生きていくと思っていた。そんな俺に「ヒメ」と名乗るその娘は言い放った--「私がデートしてあげる!」……恋をすると世界は変わる?第2弾はボーイ・ミーツ・リトルプリンセス!(作品紹介より)


(長文感想)
1巻が綺麗に終わっていたので、どんな展開になるのかと思っていましたら。前回と同じ時間、同じ町で起こっていたもう一つの、少年と魔女の出会いと別れの物語となっていました。ということで、プロローグも1巻と同じ文章で始まり。どこか懐かしさを感じました。

さて、前作が親子、あるいは兄妹のような二人の物語だとすれば、今回は恋の物語でした。多分作者も意識して書いていると思いますが、感じとしては
ような。実際、作中で主人公とヒロインは何度も『ローマの休日』をみているシーンがあります。映画は身分違いの二人、でしたが、本編は種族違いというところでしょうか?ヒメは本当に姫様らしいので、身分違いでもあるかも知れませんが。それプラス、主人公の成長の物語、と言った様相でした。

個人的な印象としては、主人公の成長の側面が強かったかな、という気がします。人相が凶悪(挿絵ではとてもそうは見えませんが)で、見た目だけで悪人と決めつけられてしまう主人公。母親の言葉も合って、「最後に頼れるのは自分だけ」と不良の道を歩んでいた主人公。それが、魔女の「ヒメ」と出会い、交流を重ねることで、自分の周りにもいい人がいたことに気づく。ちょっといい話だなぁ、と思えました。

ヒメと主人公の交流はどことなくもどかしかった気がします。主人公がヒメのことをなかなか意識していなかったせいかな、とも思いますが。ただ、最後の場面は凄く綺麗だったなぁ、と。特にラストの言葉は、予想どおりではありますが、この言葉を待っていた、と思えるだけによかったです。主人公はこれから強く生きていけるでしょうし、ヒメもきっとこの思い出を大切に生きていくだろう、と思えるラストでした。

主人公がどこか好きになれない点など、気になったり引っかかったりするところはいくつかありましたが、ラストのあの場面でチャラかな、と思います。ラストのあの台詞のための物語、といったら言い過ぎでしょうけども。いい話だなぁ( ;∀;)とは私としては言い切れませんので、ちょっといいお話だった、という感じです。

2巻ですが、1巻とは内容が殆ど関係が無いので、こっちから読み始めても大丈夫です。1巻を読んでいたら、嬉しくなる場面もあります。人間と魔女の恋の物語、いかがでしょうか?


うちの魔女しりませんか? 2 (ガガガ文庫)

うちの魔女しりませんか? 2 (ガガガ文庫)

  • 作者: 山川 進
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2011/08/18
  • メディア: 文庫



ブログパーツ
nice!(14)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

『とある飛空士への追憶』(新装版)/犬村小六 [小学館]

劇場版アニメ公開に合わせて、文庫版に加筆修正を加えたモノが新装版として発売。久しぶりに読みましたが、やっぱり面白かったです。劇場版が楽しみだ。

とある飛空士への追憶

とある飛空士への追憶

  • 作者: 犬村 小六
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2011/08/09
  • メディア: 単行本

「美姫を守って単機敵中翔破、1万2千キロ。やれるかね?」レヴァーム皇国の傭兵飛空士シャルルは、そのあまりに荒唐無稽な指令に我が耳を疑う。次期皇妃 ファナは「光芒五里に及ぶ」美しさの少女。そのファナと自分のごとき流れ者が、ふたりきりで海上翔破の旅に出る!? 圧倒的攻撃力の敵国戦闘機群がシャル ルとファナのちいさな複座式水上偵察機サンタ・クルスに襲いかかる!  蒼天に積乱雲がたちのぼる夏の洋上にきらめいた、恋と空戦の物語。(小学館『とある飛空士への追憶』webページより)

 

『とある飛空士への追憶』を読むのは3回目だと思います。本当に大好きな作品で、アニメ化して欲しいなぁ、と思っていたので劇場版になったのはとても嬉しく思います。そして、ここで新装版のリリース。劇場版前に復習がてら読んでみましたが、「やっぱりいいなぁ」と感じました。最後はやっぱり涙ぐんで。本当にいいお話だと思います。

読んでいて感じたのが、構成が面白くなるように適度に配置されていること。物語の始まり。空戦。身分の離れた二人の数日間の安らぎの時間。そして、別れ。どの場面も長すぎることがなく、性急でもなく。ちょうど良いところで次の場面が来て、読者が飽きることなく読み進めることが出来るようになっていると感じました。

そして、この物語。身分の離れた二人の恋の物語であるとともに、ファナの変化の物語であると感じました。特にファナの変化が顕著だな、と。自分が贈り物と言う意識が心に根を張ってしまったために、どこか現実の世界に実感を感じる事ができなかったファナ。その彼女が、シャルルと出会い(再会し?)、空の旅を通して元の自分を取り戻して、そして「西海の聖母」と呼ばれるまでのカリスマ性を手に入れるまでの。一種「成長」とも呼んでいいような、そんな変化が読み取れました。彼女が人生を通して為す成果。その全ては、このたった数日間の空の旅の影響だったのだ、というのがハッキリ分かり、感慨深いモノを感じました。

物語の展開や内容自体、オーソドックスだと思います。しかし、その分安心して、楽しんで読むことが出来ました。

さて、加筆修正部分ですが。基本的に所々加えられている程度かなぁ、という感じがしました。特に目立った変化としては、

○千々石飛空中尉 → 千々石武夫特務中尉に修正。

○千々石の一人称が「わたし」から「おれ」に修正。

○真電の機銃が「20ミリ」から「30ミリ」に修正。

○シエラ・カディス島のキャンプの内容が加筆。

○ファナがシャルルの母から途中まで聞いていた話の内容が、物語の最後にふさわしい内容に修正。

○別れのシーンでの二人の心情が加筆。

○終章前半に、ファナが皇紀として為したことを加筆。

と言ったところでしょうか。細かいところだと、唐突でつながりがないように感じられた会話を修正したり、といった感じでしょうか。物語の展開自体は変わっていませんが、一般書籍として発売されることと、劇場版公開に合わせて加筆修正が行われた、という感じです。千々石に関しては、『とある飛空士への夜想曲』執筆に当たって、増えた設定の影響、という感じがします。しかし、

とある飛空士への夜想曲 上 (ガガガ文庫)

とある飛空士への夜想曲 上 (ガガガ文庫)

  • 作者: 犬村 小六
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2011/07/20
  • メディア: 文庫

この千々石(左)、「女と見まがうような端正な顔をした飛空士」(P.36)かな、と思ったり。千々石に対して、どうも違和感を感じていたのですが、再読してその理由が分かったような気がします。

ラストシーンのシャルルとファナの気持ちに関しての加筆。シャルルに関してはファナへの思いが強く感じられるようになっていて、ファナに関しては、この物語の旅が如何に彼女にとって支えになろうとしているか感じられるようになっていると思います。より感動的になっているかなぁ、と感じました。

ラストに描かれた一文。どう解釈するか難しいところです。『とある飛空士への恋歌』を読了しているので、ある予想も立つのですが。ただ、それがいいことなのか、といわれると悩むところであります。この辺、読者の想像に完全に任せているのでしょうね。

再読して、改めて物語のすばらしさを感じました。今回の新装版で、ライトノベルに拒否反応を示す人でも手に取りやすくなり、ライトノベルに興味のない層にも手にとってもらいやすくなったかな?と思います。劇場版も公開されますし、是非とも多くの人に読んで貰いたいです。


ブログパーツ
nice!(15)  コメント(6)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

『九十九の空傘』/ツカサ [小学館]

最近のガガガが勢いがある、と聞いてはいましたが。これもなかなか面白かったです。

九十九の空傘 (ガガガ文庫)

九十九の空傘 (ガガガ文庫)

  • 作者: ツカサ
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2011/07/20
  • メディア: 文庫

気が付くと、空色の傘を手に朽ち果てた家の中で立ち尽くしていた少女。自分は誰なのか、なぜここにいるのかーー少女の記憶は曖昧だ。誰もいない町を彷徨い、ようやく出会った青年・シグ。少女は自分が人間ではなく、モノに宿る「九十九神」だと教えられる。「きっと、お前は傘の九十九神なんだろう」とシグ。そして少女はカサと名付けられる。人間がいなくなった町を舞台に、置き去りにされたカミ=「九十九神」たちが人間の真似事をして暮らす、ノスタルジック・ファンタジー。大人気シリーズ「RIGHT×LIGHT」の著者が送る完全新作!(裏表紙より)

 

買ってはいたものの、読む優先順位としては低かった本作なのですが、何の気まぐれかたまたま手に取り読み始めたのですが。これが大正解。優しさが感じられる、非常によい作品でした。

人間がいない世界で、九十九神として目覚めた少女・カサ。九十九神とは、モノに宿った持ち主の生前の思い残しが形を得たモノ。そして、九十九神はその思い残しを叶えたら消えてしまう、という存在です。

この作品では2話構成となっていて、1話はカサが自分の心残りを思い出そうとする話。2話が、カサがシグの力となるためにがんばる話となっています。私がいいなぁ、と思ったのはなんと言っても2話。1話もそれなりによかったのですが、それはあくまでもプロローグといった感じ。この作品の魅力は2話だと思います。

シグの役目を知ったカサ。しかし、彼がそれを本心では望んでいないのではないか、ということを感じたカサがシグの役に立ちたいと思い行動する話なんですが。その結果がもたらすモノが優しくて、胸が温かくなる感じがしました。カサはそれが自分がやりたいことだから、とうそぶいて自分のことを「悪人」と言いますが。なんて優しい「悪人」なんだろう、という感じがしました。ある意味、偽悪なのかな?と。

そして、カサが願いを叶えるために作り上げたモノがまた優しくて。描写不足は否めませんでしたが、その結末の持つ優しさがまた心を温かくするようで、満足できました。

設定で、なんとはなしにですが都合の良さを感じてしまいました。しかし、作品の持つ良さがそれを補ってあまりあるモノだと感じました。この前に読んだ『テルミー2』と比べると、若干質は落ちるように思いましたが、それは似たような作品故に感じたことかな、と思います。ライトノベルと言えば、厨二病、ハーレム、俺TUEEEE、へタレ主人公etc.といったイメージがあると思いますが、この作品や『テルミー』のようなハートウォーミングな作品の流れが出来れば、またライトノベルの可能性が広がるのではないか、と感じます。

続きがどうなるかは不明のようですが。世界観の謎を筆頭に、気になる点もあるので是非とも続きを読みたい作品であります。


ブログパーツ
nice!(13)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

『花咲けるエアリアルフォース』/杉井光 [小学館]

帯の紹介が「ライトノベル史上最も美しく衝撃的な戦争ボーイ・ミーツ・ガール物語」。史上最もかどうかは別問題として,美しく,衝撃的で,儚い物語だったなぁ,と思いました。

花咲けるエリアルフォース (ガガガ文庫)

花咲けるエリアルフォース (ガガガ文庫)

  • 作者: 杉井 光
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2011/02/18
  • メディア: 文庫

日本が東側の皇国と西側の民国に分かれた時代。4月7日。主人公・仁川祐樹は空襲に遭い,またその時目の前でソメイヨシノが壊死するのを目撃する。家も学校も全てを失ったものの,命は助かった祐樹。その後,各地を転々とする祐樹の目の前に,桜色に輝く不思議な飛行兵器とパイロットの少女が現れる。彼は,ソメイヨシノの最後を看取り,思いを重ねたことで桜とリンクした戦闘機「桜花」の適合者となっていたのだった。桜花のパイロットとして選ばれ,学校に通いながらも訓練を重ねる祐樹。戦いは激化していくばかりで。彼らの先には何が待つのか。

 

非常に感想が書きにくい話だなぁ,と言うのが正直なところ。特徴としては,心情表現は絞り込んで,ただただ主人公達の置かれた状況,その時の様子を描写することに注力した書きぶりではないでしょうか。主人公である祐樹の怒りや戸惑いのような描写はないわけではないですが,ただ淡々とした書きぶりのため,どことなく他人事のような印象を受けました。主人公が流されている,と言うところにも影響はあるかも知れませんが。

内容自体は,もう絶望と言うか希望のない未来しか待っていない感じがしました。桜花の設定自体はかなりユニークでおもしろいと思いましたが。その特性の反面,限界を超えた時の反動も恐ろしくて。最強の戦闘機である反面,最悪の戦闘機でもあるような印象でした。主人公達の載るマシンはそんなもの。特性上,防衛にしか使えない,と言うのがまた,希望のなさを助長しますね。攻撃することができれば,一気に自分の側の有利になるのですが。

周りの状況も,大人の汚い駆け引きのために戦いが続いている,と言うのがですね。現場にいるものは,自分たちを守るために,自分たちの命をかけて戦っている。そして,自分たちの有利な条件を引き出すためであるが故に,互いに決定打を打てない状況では泥沼しか待っていないのが分かります。果たして,主人公達は何のために戦っているのか,と言う気にもなってきます。

結末もまた,救いのなさを表しているような感じがしました。一体,彼らの戦いには意味があるのか。戦いには終わりはあるのか。戦いに終わりの見えないまま終わってしまいましたが,一体どうなるのか,と言う気がします。2巻以降については何の言及もないのが気になるところです。一応,続けられる要素はあるのですが。ただ,この救いのない物語を続けて,どこを終わりとするのか。戦争を終わりとするのが妥当なところでしょうが,一体どうやって戦争が終わるのか。先が見えないだけに,恐ろしくあります。

で,本題から少し離れるのですが。この作品,何か危ないものも含んでいるなぁ,という感じがしました。まぁ,具体的に言うと,本編でしょっちゅう「靖国で会おう」って台詞が出てくるところですが。死んだものは靖国に必ず還ってくる,とかそちらの人が読むと,「軍靴の音がする」とか言って発狂しそうな感じだなぁ,と思いました。まぁ,その辺は大目に見て貰いたいなぁ,という感じですが。

淡々とした感じ故に,儚さを感じ,美しさを感じました。面白いかどうか,と言われると非常に難しいです(^^ゞ私はかなり惹き付けられました。ガガガ文庫って,こういう作品を出してくるから侮れない,と再認識した一冊でした。


ブログパーツ
nice!(11)  コメント(2)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

『うちの魔女しりませんか?』/山川進 [小学館]

魔女と少年のやりとりが優しくて,ほほえましくて。切ないけれども,心温まるストーリーでした。

うちの魔女しりませんか? (ガガガ文庫)

うちの魔女しりませんか? (ガガガ文庫)

  • 作者: 山川 進
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2011/01/18
  • メディア: 文庫

人間とそっくりの外見を持ち,しかし人間と違う形の進化を遂げた謎の生命体。魔女。その魔女が絶滅危惧種として保護されている世界。しかし,その保護をしていた地球上最後の魔女は,ある日死んでしまう。しかし,まだ生き残りの魔女がいると信じる魔女オタクのリョータにつれられて最後の魔女が見つかった森を探索した文哉は,その森の中で小さな魔女を見つける。その子にミラと名前をつけた文哉は,その魔女と一緒に暮らすことになって……。

 

イラストとタイトルにつられたわけですがw非常に良質の物語でした。読み切りの作品ですが,非常に綺麗に終わっているなぁ,と満足です。「読み切りで面白い作品に巡り会いたい」と思っていたら,年明け早々に『レイヤード・サマー』やら,この『うちの魔女しりませんか?』やら,非常に豊作だなぁ,と嬉しい限りです。『とある飛空士への恋歌』最終巻も含めると,面白い作品が多くて嬉しい限りです。

序盤は,表紙にふさわしい雰囲気の,非常にほほえましいエピソードで展開。文哉につれられて人間世界にやってきた魔女・ミラが人間世界ではじめて触れることをどんどん吸収して,失敗したりいいことしたり。それを飼い主である文哉が困ったり,可愛いなぁと思ったりしながら見守ったり。そして,ミラが魔女だとばれてはいけないので,口から出任せたり。一人暮らしで穏やかな生活をしていた文哉は一変してしまうのですが。ただ,それが非常に楽しそうで,少し羨ましいなぁ,と思ってしまいました。とにかく,この辺はミラが愛らしいw可愛いw感情にあわせて,アホ毛がピコピコ動く,っていう設定も,想像してしまうともうたまりませんでしたw全くしゃべれない状態から3日でコミュニケーションをとれるようになる,という才能を見せたかと思うと,あれが苦手だったりwもう,にやにやが止まりませんでした。

このまま,何気ないけども,愛おしい日常が続くのかなぁ,と思った後半からが急展開。今までのまったりな展開から一転したため,「物語を盛り上げるため?」とも考えましたが。まさか,こんなハードな展開になるとは,と驚きでした。少しぐろいのがwグロ苦手で可愛い作品が大好きな人が表紙で騙されて買ったらどうするんだろう,と少し思ってしまいましたw

しかし,この展開は文哉とミラ。2人の絆が試されるような展開でした。この展開があったからこそ,文哉にとってミラが,ミラにとって文哉が,かけがえのない,家族と言うべき存在なのだなぁ,と感じられました。たとえ,ぼろぼろになろうともミラと一緒にいるために奮闘する文哉がかっこよくて。心打たれました。ミラもそれに応えて。最後に2人の場面は心が洗われるようでした。

ラストは,確かに悲しいけども。でも,ミラのことを思えば,文哉の決断は当然のことなんですよね。今後を思うと,もう一方の道は困難きわまりない,と言わざるを得ませんし。そんな中で,ミラが幸せでいられるか。確かに文哉にとって,またミラにとって辛い選択なのですが,よくその選択ができたなぁ,という感じでした。

ただ,確かに別れは辛いのですが,別れって生物にとって避けることのできないものなんですよね。だからこそ,それまでにどれだけのものを相手に残せるのか。どれだけの絆を築くことができるのか。それが大切なのだと思います。そういう意味では,この二人は一生忘れ得ない,大切な思い出をお互いに残すことができていると思います。だからこそ,切ないけども,素敵なラストだなぁ,と感じました。うん,思い出すと泣いちゃいそうですw基本的にコメディでそれまでは笑えるシーンが多いのに,ラストは感動的でしたw

まぁ,欲を言えば,もう少し余韻があっても良かったかなぁ,とは思います。数ページでも良いので,後日談的なものが。それで,文哉があの日々を思い出す,みたいな展開があればなぁ,と。まぁ,確かにべたべたな構成なんですけども,感動が増していたのではないかなぁ,と言う気がしました。何か,少しだけ尻切れトンボ,と言うか,あっけなさを感じてしまいました。

とはいえ,作品自体大変素晴らしい作品でした。おススメです!


ブログパーツ
nice!(21)  コメント(6)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

『とある飛空士への恋歌 5』/犬村小六 [小学館]

「少年少女の出会いが世界を変え,はじめての恋が未来を切り開く。冒険者にとって,これ以上の結末はない。感無量だよ」(P.316)

とある飛空士への恋歌 5 (ガガガ文庫)

とある飛空士への恋歌 5 (ガガガ文庫)

  • 作者: 犬村 小六
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2011/01/18
  • メディア: 文庫

 

イスラを攻撃し,危機に追いやった空の一族が休戦の条件として提示したもの。それは「風呼びの少女」を差し出すことだった。イスラの民を救うため,自らの身を差し出すことを決めたニナ・ヴィエント。引き渡しのその日,イグナシオの手引きを得てニナと最後に逢う機会を得ることができたカルエルは,その思いをニナにぶつける……。革命の旗印として担ぎ上げられた少女。革命によって,愛する母を失い,地位を奪われ,全てを失った少年。二人の迎える結末は。

 

以下,かなりのネタバレを含んでおります。まだ読んでいない方,これから読もうと思っている方はご用心下さい。

 

と言う訳で,待ちに待った『とある飛空士への恋歌』5巻,完結編です。3巻からの怒濤の展開,圧倒的な迫力の物語で魅せてくれた物語も遂に完結です。3巻以降,その展開に涙涙でしたが,最後まで涙涙でした。もう,かなり良かったです。展開としては,こうなるだろうなぁ,と予想していた展開でした。まぁ,そうなるしか考えられない展開でしたし,王道であると思います,が,やっぱり分かっていても,良かったです。

まず,最初から泣かせよう,としているのがですねwカルエル,クレア,そしてアリエルのそれぞれの言葉が綴られているのですが。アリエルの言葉,これ反則ですよ(ノД`)そう,カルエルとクレアの恋の歌が奏でられる,と言う事は,アリエルの恋の歌が奏でられない,と言う事になるのですが。こんな感じでいきなり持ってくるとは思いませんでした。確かに,この物語はカルエルとクレアの恋の物語でしたが,ほんの少し違っていたら分からなかったんだなぁ,と感じました。カルエルとアリエル。近くにいすぎたんですよね。そして,思いが強いからこそ,ああして接することしかできなかった,と。それを考えると,アリエルが切ないです。なんだ,イグナシオに「ツンデレ」って言っていたけども,自分こそツンデレだったんじゃないか,と。

そして,メインのカルエルとニナ。互いに互いを思い合い,心を通わせ,誰よりも近くにいたい二人。しかし,それを運命が許さずに。二人の知らないところで,大人の駆け引きによって引き離されてしまう二人が切なかったです。「愛する人を取るか,世界を取るか」で,世界を取ることしか許されなかった二人。しかし,二人の思いが変わらなければ,いずれ出会える時が来る,そんな言葉が伝わってくるようでした。そして,それを信じている二人の気持ちが胸に来ました。P.109の眩しいまでのクレアの笑顔。自分とカルエルの再会を信じ切っているその笑顔。それが素晴らしく,かなり印象に残りました。

また,ちゃんとイスラの夢を託し,消えていったもの者たちへの思いを引き継ぎ,旅する場面がまた涙を誘いました。クレアの犠牲を経て続けられることになった,空の果てへの旅。その場面場面で,今は亡き仲間への思いが伝わってきました。そう,彼らはイサラを守るためにその身を散らせましたが,でも,その思いはみんなの中で生き続けているんだなぁ,と感じました。聖泉を抜ける時,空の果てへと辿り着いた時。そこにいつもみんながいるんですね。

そして,前作『とある飛空士への追憶』からのファンとして嬉しい要素として,前作キャラの登場もありました。悲しい別れを経たファナ。その別れを経て成長した彼女の見事な手腕。感慨深いものがありました。そして,カルエルの危機を救い,カルエルのあこがれであった海猫。彼とカルエルとの邂逅がもう,感無量で。シャルルとファナの思いは叶いませんでした。しかし,その叶えられなかった思いが,カルエルを後押しする形になったのは,もう何とも言うことができませんでした。わずかな出番でしたが,彼の果たした役目の大きさは測り知れません。

最後は,もう何とも言えませんでした。大人の思惑で引き裂かれたカルエルとクレア。それが今度はその大人を逆に利用して,と言うところにカルエルのたくましさを感じました。もう少し,と思う人もいると思うかな,とも感じますが。ただ,余韻の残る,幸せな結末が想像できる最後が至高だと個人的には思っています。その点では,この物語は最高の形で締めくくってくれたと感じます。そして,全てが終わった今,空族の創世神話で語られていたあの予言。つまりはそういうことだったんだ!と気づかされました。とくれば,もうこれは結末は一つしかあり得ないなぁ,と。

『とある飛空士への追憶』の続編としてスタートした『とある飛空士への恋歌』。偉大な前作を受けた本作ですが,その期待を十分以上に応えてくれた,と感じます。とにかく,素晴らしかったです。5巻とコンパクトにまとまっていることですし,多くの方に読んでいただきたいなぁ。そう思える作品です。もう,この最終巻に到っては,何気ない一言が胸に突き刺さって,涙腺を刺激してくれました。本当に,読んで良かったと思える作品です。

最後に。ここまで物語を魅せてくれた犬村小六さんに感謝を。


ブログパーツ
nice!(26)  コメント(6)  トラックバック(1) 
共通テーマ:

『スーパーロボッ娘 鉄刃23号』/舞阪洸 [小学館]

もう,ロボ物好きとしては見逃せないでしょうw

スーパーロボッ娘 鉄刃23号 (ガガガ文庫)

スーパーロボッ娘 鉄刃23号 (ガガガ文庫)

  • 作者: 舞阪 洸
  • イラスト:ゴロボッツ
    出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2010/10/19
  • メディア: 文庫

 

両親の離婚に伴う親権争いから,一人暮らしをすることになった高校生の春日井鷹斗(かすがい・たかと)。心の中に物足りなさを感じつつも,高校生活のルーティンを繰り返していた彼の目の前に,ある日一人のメイド服を来た少女が現れる。彼女は,鷹斗を「ご主人様」と呼び,自分のことを「鉄刃斎弥茂祢(てつじんさい・みもね)。通称鉄刃23号」と告げる。そして,自分はロボットで鷹斗にテレコンで呼ばれたので駆けつけた,とも。
結局,彼女を家に招き入れる鷹斗。はじめは彼女に振り回されていたものの,だんだんとその生活も悪くないと感じ始めて。そんなとき,弥茂祢に一つの指令が下る。それは・・・・・・。

 

もう,非常に面白かったです。この作者の作品,初めてですが確かにいろいろな出版社から,いろいろな作品を出すだけの力量があるなぁ,と今更ながら納得させられました。

とにかく,鷹斗と弥茂祢の会話のやりとりが非常にテンポよく,しかも面白かったです。弥茂祢が現れるまでは,非常に静かな,と言うか冷めた感じの文で書かれていたので(鷹斗の冷めた感情を表現していたため,でしょうが),もっと落ち着いた作品となるのかなぁ,と思ったのですが。弥茂祢が下ネタ機能標準装備のロボッ娘,と言うのが作品を面白いものとしていました。

ギャグは基本的に下ネタかな?ただ,ドの付くほどの下ネタでもないので,「下ネタは苦手」という人でも十分に楽しめるのではないか,と思います。と言うか,何か普通の高校生の下ネタ会話,という感じがしないでもないですwパロネタや危険そうなネタもありはしますが,それはギャグのアクセントとして使われている,という感じで下ネタを引き立てるのに役立っていたと思います。と言うか,微妙に古いネタもあったようなw

最後は超展開という感じになっていましたが,ありだと思いましたね。もう少し盛り上げられたのになぁ,と思うので,ちょっと残念に感じはしました。しかし,それでも今までとは打って変わった少しシリアスがよかったですね。シリアス展開なのに,会話の内容は基本的に変わらない,と言うのがまた面白かったです。この辺は,弥茂祢が鷹斗を不安にさせないようにわざとしているのかなぁ,とちょっと思ってしまいました。そして,会話は同じなので笑えるのですが,胸が熱くなってくるのがまたよかったですね。展開としては,お約束,ありがちと言われるようなものですが。とはいえ,これは心が震える展開だったなぁ,と読み終わって思いました。

いやぁ,この弥茂祢,無表情だったので最初はあまり可愛いと思わなかったのですが,最後には可愛いと思えるようになっていましたよ。挿絵で,笑顔のものが入っていた,という影響も否めませんが。ただ,こんなロボッ娘がいたら面白いだろうなぁ,と思いました。確かに,これなら鷹斗の冷めた感情もとかされてしまうなぁ,と納得。私も,弥茂祢とは友だちになりたいですw

残念な点を挙げるとすると,最後の場面。もう少し描いてもよかったのかなぁ,と言う事かと思います。ただ,この作品って,鷹斗と弥茂祢のやりとりとか,関係を描いていく物語何ですよね。だから,弥茂祢一人の場面では駄目。鷹斗一人の場面では駄目。二人がいないと,物語が進まない,というのがあるのだろうなぁ,と感じました。だからこそ,ああなったんだろう,と納得しました。

 

とにかく,非常に面白い作品でした。ガガガ文庫を盛り上げるためにも,是非とも多くの方に買って読んでいただきたいです。それと共に,続きを激しく希望したいです!おススメです。


ブログパーツ
nice!(24)  コメント(2)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

『くくるくる』/一肇 [小学館]

今回はこちらです。

 

くくるくる (ガガガ文庫)

くくるくる (ガガガ文庫)

  • 作者: 一 肇
    イラスト:大朋めがね
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2010/09/17
  • メディア: 文庫

 

 

 

日常を,人生の全てを変えたかった少年・語木璃一(かたるぎ・りいち)は,桜咲く公園で一人の少女・密森(みつもり)なゆたに出会う。ソメイヨシノに荒縄をかけ自殺をしようとしながら未遂に終わった少女との出会いで,自分の日常が変わるのを感じた璃一は,彼女に告白。見事玉砕する。
しかし,璃一は諦めずに彼女を観察することに。彼女から公認記述者として認められることに。相変わらず自殺をしようとし未遂に終わるなゆたはある日,キリングKと呼ばれる暗殺者と出会う・・・・・・。

 

うーん,何ともあらすじが書きにくい物語ですねwとはいえ,凄く面白かったです。

読み始めたときは,主人公が気になる彼女をストーカーして彼女を観察,記録する,と言う設定で「何か森見登美彦さんの作品で,同じような主人公がいたなぁ」と思いつつ,読み進めました。

序盤は,なんだか読みにくいなぁ,と言う感じでした。章の切り替わりがわかりにくい,と言うのもあったんですが。ですが,キャラクターの良さに惹かれて読み進めることができました。そう,この物語の終盤までの魅力は,キャラクターの良さだと思いました。璃一はどちらかというと,引き気味のところにいるのですが,なゆた,キリングK,そして璃一の妹のありすのキャラが凄く愛おしかったです。

特にお気に入りはキリングK。連続殺人犯と思われているプロの殺し屋さんですが,中身はなんだか人間的でした。Kの言葉一つ一つが倫理的に見てどうか,と言うことは抜きにして,興味深いし面白いなぁ,と思いました。なんて厨二病の私w

で,一体どんなオチが待っているのか,と思ったら,残り50ページくらいになってから,まさかまさかの超展開。一瞬,一迅社文庫の『萌神』(十文字青)を思い起こさせるような超展開でした。この辺は,読み手によって印象は変わるでしょうが,私はかなり好きでした。ネタバレを避けるために多くは語れませんが,とにかく凄い!それまでに,そこに関する気になるところはあったので,まさかこう来るとは!と言う感じで。それでいて,ちゃんと落ちるところに落ちているし,「最初のあれはこういう意味だったんだ!」と思わされるところアリでした。

なんだか不思議な物語でしたが,良い物語でした。


ブログパーツ
nice!(14)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

『とある飛空士への恋歌 4』/犬村小六 [小学館]

戦場に響く、あの人への恋歌。もう、苦しくて、辛くて、切なくて、痛くて、でも忘れられなくて。もう、涙涙でした(ノД`)

とある飛空士への恋歌 4 (ガガガ文庫)

とある飛空士への恋歌 4 (ガガガ文庫)

  • 作者: 犬村 小六
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2010/08/18
  • メディア: 文庫

いやぁ、個人的に表紙が素晴らしすぎましたwこれ、4巻のネタバレですよね、思いっきりwただ、そろそろこの展開は来そうだ、と思っていたので、予想どおり、と言うところですが。

で、帯が「超弩級スカイ・オペラ、驚天動地のクライマックス」って、え?と思ったら、作者紹介のところに「5巻で完結です」とハッキリ書かれていました。

この巻約381ページ。300ページ切ることもある昨今のライトノベルの中では結構厚い部類に入るのではないでしょうか。しかし、読み始めたら、ページを繰る手を止めることができませんでした。もう、早く続きが読みたくて。正直、このまま最後まで一気に読み終えたい!と言う気持ちでした。この状態で、また半年とか8ヶ月とか待たされたらと思うと。・・・・・・『フルメタ』は2年、『ダブルブリッド』は5年待たされたんだっけ?まじそれだけは止めて欲しい。ないと思うけど。

閑話休題。3巻では、聖泉で遂に空族と遭遇、戦火を開いたイスラ。多大な犠牲を払いながらも、何とか最初の戦闘を勝利することができました。それを受けての4巻。迫力を持って描かれる空戦。そして、その中で密かに繰り広げられる葛藤。クライマックスという名にふさわしい、最高に面白かったです。

まず、1章から、いきなりクライマックスでした。偶然出会い、そして偶然学校の飛空科で再会し、パートナーとして互いに思いを強めてきたカルエルとクレア。しかし、遂に2人の複雑な過去が牙をむくときが来てしまいましたね。まさかまさか、これが序盤にくるとは思わなかったたです。序盤から涙で文字が読めない、という感じでした。カルエルのことが大好きだから、嫌われたくないから会わないことを言い出すクレア
「・・・・・・わたしに関する・・・・・・思い出を・・・・・・消して・・・・・・」(P.85)
の台詞が悲しすぎます。空虚だったニナとしての過去。イスラに乗り込み、そこで出会ったカルエルの存在が彼女を救い、彼が彼女の心の支えとなっていた。それが分かるからこそ、このクレアの思いがもう切なくて。心が削られるようでした。そして、遂にカルエルも、自分が大好きな、ずっと一緒に居たいと思ったクレアは、自分を王子の座から追い落とし、最愛の母を死に追いやった「風の革命」の旗印であったニナ・ヴィエント出会ったことを知ってしまいます。このときのカルエルの混乱ぶり、と言うか狂気がまた、心にずっしり来ました。好きな相手が、6年間恨み続けた相手だった。この運命の皮肉がどれだけ心にダメージを与えたか、と考えるともうですね。

この過去を乗り越えるには、カルエルが過去を乗り越えることが必要だったのですが。もう、見事に乗り越えてくれましたね。これのきっかけとなったのは、母の最後の言葉。最初からもうこの展開を見据えたような言葉でしたが、それがもう最高の形で生かされていました。それまでカルエルを覆っていた闇が、光で打ち払われていくイメージがありありと浮かぶようでした。そして、それに応えるクレアのカルエルに対する恋歌。遂にタイトルの『とある飛空士への恋歌』の意味が分かるときが来ました!という感じで、心打たれました。もう、涙が止まらないってものです。ニナの風呼びの力が甦るとしたら、このタイミングでしかない、という感じでしたね。納得でした。不幸な互いの過去を乗り越え、遂に結ばれた2人の心が実に美しかったです。

と、メインは2人の恋の成就、と言うところなんでしょうが。4巻の素晴らしいところは、それ以外の、空戦でも魅せてくれる、と言うところ。もう、この空戦が圧巻で。互いの勝敗をかけた旗艦同士の砲撃戦。その勝敗を握るのは、カルエルの同級生2人の弾着観測。敵の圧倒的有利の状況の中、イスラを救うため、仲閒を助けるために勇気を振り絞って自分のできるところをする姿がもう熱かったです。手に汗を握るような展開でした。それこそ、「怒濤」という言葉が頭に思い浮かぶような。

戦いの中、遂に覚醒したカルエル。力を取り戻したクレア。そして、レヴァームと合流。もう、後は空の果てを目指すのみか、と言うところに来て、最後の最後に訪れた衝撃の展開。ようやく結ばれるかと思ったカルエルとクレアがどうなってしまうのか、もう気になって仕方がありません。でも、きっと覚醒したカルエルなら、きっとやってくれると信じています。もう、最終巻が待ち遠しすぎます!

 

気になる点もあることはあります。ここに来て、アリエルの出番が少なすぎる、とか。アリエル、カルエルのことが好きだと思っていたんだけどなぁ。ノリアキの突然の覚醒とか、ちょっと都合が良すぎるんじゃない?と言う展開とか。でも、そんなことも些細なことと思わせてくれるおもしろさがありました。私の中では、間違いなく今年NO.1の作品です!!4巻でこの圧倒的おもしろさ。最終5巻が面白くならないはずがない、と言うのがハッキリ分かります。ここに来て、前作である『とある飛空士への追憶』を越えた、と言っても過言ではないのではないでしょうか。これは、多くの人に読んで貰いたい、そんな作品だと思いました。私も、また1巻から読み直して、5巻まで首を長くして待ちたいと思いました。


ブログパーツ
nice!(19)  コメント(2)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。