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『生者の行進』/石野晶 [早川書房]

(あらすじ)

あなたの罪は全部私が引き受ける――少年少女を繋ぐ昏い絆とは?

美しく奔放な従妹の冬子に、隼人は高校生にいたる今まで、悩まされていた。冬子は友達を作らず、隼人が親しい友人を作れば恋を仕掛けて奪い捨て る。そんな冬子が初めて連れてきた女友達が美鳥だった。だが隼人の目前で、美鳥がドッペルゲンガーを見たと言って倒れ……喪った命と絶望の記憶に苛まれる 少年少女が出会うとき、幼い心に刻まれた罪の時間が動き出す。痛ましいまでに繊細な、煌めく若者たちの青春群像ミステリ。(ハヤカワオンラインより)

生者の行進 (ハヤカワ文庫JA)

生者の行進 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 石野 晶
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2012/06/05
  • メディア: 新書

(感想は追記にて)

 

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『夏の王国で目覚めない』/彩坂美月 [早川書房]

(あらすじ)
父が再婚し,新しい家族になじめない高校生の美咲。だから,幻想的なミステリ作家,三島加深のファンサイトで加深が好きな仲間を知ったことは大きな喜びだった。だが〈ジョーカー〉という人物から【架空遊戯】に誘われ,全てが一変した。役を演じながらミステリツアーに参加し,劇中の謎を解けば,加深の未発表作がもらえる。集まったのは7人の参加者。しかし架空のはずの推理劇で次々と人が消え……(背表紙より)

(感想)
非常にファンタジックで印象的な表紙に,印象的なタイトル。そして,帯に書かれた「有栖川有栖さん推薦」の文字に釣られて購入に到った本書。気になるところもありますが,個人的には大当たり。いろいろな要素がちりばめられていて,それが絶妙に絡まり合い,非常に素晴らしい味を醸し出していました。

本作の特徴として,作品中で登場人物達がミステリツアーで演じている,と言うところが挙げられます。新刊案内の小冊子には,「多重構造の推理劇」と本作の紹介が為されていました。語りは,参加者の一人で,ミステリツアーでは九条茜という役が与えられた高校生の少女・美咲の視線。始めはただのミステリツアーという様相で,ヒロインもどこか余裕を持って目の前で演じられる物語を楽しむ,と言う感じがしました。そのためか,読者である私はどこかしらゲームを見ているような,そんな奇妙な感覚で読み進めていきました。

そこが一転するのが,密室からの消失事件。そして,遂に起きてしまう殺人事件。そして,エスカレートしていくジョーカーからの演技の要求。ここに到るにつれ,登場人物達はいつ犯してしまうかも知れないミスにおびえ,如何に役割を演じるか,演じきるか。そして,ミステリツアーを終えるか,と言う事に意識が向いていきます。始めは軽い感じで読み進めていた私も,ここに到って物語り世界に惹き付けられ,どっぷりとはまっていました。

そして訪れるクライマックス。この辺の推理については,オーソドックスな展開をとっているため,ミステリになれている人には簡単に読めてしまうのではないか,と思います。ただ,私が本作を好きだ!と思えたのは,ラストがミステリツアーの種明かしだけでは終わらなかったところにあります。

それは,物語の最初から提示されていた謎。時折提示されていた,物語にふせられたいた部分。そこがクリアになった時,自分のミスリードに気づかされました。しかし,それは不快なわけではなく。ある意味,ヒロインが自分の心の中に鍵をかけ封印していた部分が明かされたことで,ヒロインが一つ成長する切っ掛けとなったことを感じ取ることができました。そのヒロインの成長が心から祝福できました。

そして,さらにさらに。若干のスパイスとして加えられた,ラブストーリーとしての要素。これが非常に絶妙で,刺激的でした。この要素があったからこそ,この明るく美しいラストを生むことに成功していたように思います。個人的にはこのラストは,見事,としか言いようがありませんでした。このラストを見るために,この物語があった,と言っても過言ではない気がしまた。「あぁ,良い物語を読んだ」と感じさせてくれる,爽やかで素敵なエンディングでした。

展開が唐突すぎると感じる部分もあり,若干要素の詰め込みすぎかな?と思う部分もあります。とはいえ,ミステリ,成長,そしてラブと3つの要素を絡み合わせたことで,この物語のすばらしさが生まれていました。確かに,この作品は推薦に値する作品です。余談ながら,こういう作品こそ「本屋大賞」で取り扱って欲しいなぁ。そう思わせてくれる作品でした。この作品が作者の3作目。ここから成長できたら,さらに素晴らしい作品が生まれそうだ,と楽しみです。また一人楽しみな作家さんが増えました。

夏の王国で目覚めない (ハヤカワ・ミステリワールド)

夏の王国で目覚めない (ハヤカワ・ミステリワールド)

  • 作者: 彩坂 美月
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2011/08/10
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

 


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『天体の回転について』/小林泰三 [早川書房]

つい先日の話。毎月のように言われているライトノベルの表紙の話題で,9月に発売されたライトノベルの表紙一覧,と言うのがありました。

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画像サイズの都合で見難くなっていますが御了承を。で,この中で納得できなかったのが,小林泰三さんの『天体の回転について』が入っていること。私も彼の作品は『玩具修理者』しか読んだことないですが,それを読めば,彼の作品がライトノベルではない,と分かりそうなものを,と。まぁ,表紙があれだからなんでしょうけども。

 

天体の回転について (ハヤカワ文庫 JA コ 3-3)

天体の回転について (ハヤカワ文庫 JA コ 3-3)

  • 作者: 小林 泰三
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2010/09/10
  • メディア: 新書

 

 

 

と言うわけで読んでみました。まぁ,久しぶりに小林泰三作品を読んでみたくなった,というのがあるんですがwぐろいかなぁ,と。

 

この作品,2008年に単行本で出ていたものの文庫版。

「天体の回転について」
「灰色の車輪」
「あの日」
「性交体験者」
「銀の舟」
「三〇〇万」
「盗まれた昨日」
「時空争奪」

の全八編からなる短編集となっています。

作者が,自分は本質的にSF作家であると思っている,と言うように,SF的なアイディアを生かした作品群でした。まず,表題作である「天体の回転について」から,軌道エレベーターがあって,それで月に行く青年?,と言う話ですし。

その表題作である「天体の回転について」は非常に,さわやかな話でちょっと意外でした。軌道エレベーターが建造されて,それが作られたことも忘れられてしまった未来。科学を否定するようになった時代において,軌道エレベーターに乗り込んだ青年が,軌道エレベーターで月に至るまでの短い話。吊橋理論と言うか,そんな感じの話だったかな?と。面白かったかと言われたら,正直微妙ですw

ただ,それ以降は『玩具修理者』を彷彿とさせるようなグロ作品あり,絶望を感じさせる話あり,不思議な話ありで。非常に楽しむことができました。

個人的にお気に入りは,「銀の舟」と「盗まれた昨日」です。火星の人面岩に惹かれた少女。その少女が成長し,人面岩に行きたい一心で宇宙飛行士になり,人面岩を目指す。そこでの彼女の未知との遭遇を描いた「銀の舟」。北と呼ばれる国の実験失敗によって全ての人間が長期記憶できなくなってしまった未来。人々は長期記憶できなくなった代替えとして,メモリを使うようになっていた。そんな時代,少女に襲いかかる悲劇を描いた「盗まれた昨日」。

「銀の舟」は,別にぐろくもないですし,不思議でもないですし,よくある話,という感じもします。しかし,誰かの一歩が道を開いて,その後の人間の進む道を開く,と言う話は好きなタイプであります。その辺が,凄く明るくてよかったなぁ,と。

「盗まれた昨日」は,一体人間の魂とは何なのだろう,と問いかけられているような作品。記憶がメモリとなったことで,何がその者であるかを証明するのか,と言う事を問いかけられた気がします。SFをモチーフにして,哲学している,と言うか。決して明るい結末ではありませんが,余韻を残す終わりだったと思います。

グロに関しては,「性交体験者」がなかなかよかったです。ネタバレになるのであまり詳しくはかけませんが,ラストの場面の人体をあれする描写は,グロが苦手な人には要注意,と言う感じで,満足でした。こういう,グロを徹底的にグロく描く,と言う力が素晴らしいですね。今更私なんかが言うのもおこがましいですが。

表題作の「天体の回転について」はちょっとなぁ,という感じでしたが(小林泰三さんが,こんな萌えキャラクターを描いた,と言う点では十分に驚きですが),他の七編は非常に楽しめました。SFのおもしろさを見せて貰った,と言うか。とはいえ,グロいところもありますので,免疫がない人や,グロが苦手な人は避けた方が良さそうですね。表紙に釣られて購入すると,痛い目に遭うかも,という感じです。最も,「ハヤカワ文庫JA」作品ですし,普通のラノベ読みが手に取ることはないと思いますが。

表紙はライトノベル的かも知れませんが,全然ライトノベル作品とは感じさせない,素晴らしい作品でした。

<「本が好き」へのリンク>


天体の回転について
  • 小林泰三
  • 早川書房
  • 819円
Amazonで購入

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