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耽美な百合物語 『どろぼうの名人サイドストーリー いたいけな主人』 [小学館]


どろぼうの名人サイドストーリー いたいけな主人 (ガガガ文庫)

どろぼうの名人サイドストーリー いたいけな主人 (ガガガ文庫)

  • 作者: 中里 十
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2009/03/19
  • メディア: 文庫



帯によると、「大ヒット百合物語『どろぼうの名人』からもうひとつの”恋の物語”」と言うことです。とはいえ、今作は『どろぼうの名人』とほとんど関係がない、というか、全然関係ありません。作者のあとがきによると、『泥棒の名人』はボツになった作者企画のPCゲームの縮尺ノベライズ版。この『いたいけな主人』はそのサイドストーリーだそうです。

この物語、何と表現しようか、と考えたとき、思いうかんだのが「耽美的」ということばでした。で、タイトルにつけてみたのですが、我ながら語彙がなくて、何とも恥ずかしいです。

内容は後で触れますが、文体は、所謂「文学」的だなぁ、という感じ。純文学的というか。極力、大げさな表現を抑えて、静かな表現で物語を描く感じがしました。文体だけなら、某有名文学賞にもノミネートされそうな感じがしました。精神的な百合のつながりを描く上で、効果的だったと思います。

内容は、凄くおおざっぱに言うと、惹かれ合う者同士が、様々な苦難を経て、最後に一緒になる、といった感じでしょうか。毎回、おおざっぱすぎてすみません。読んでいる途中、『ナタラージャ』を思い出したのですが、よく考えると、全然関係ありませんね。多分、最近読んだ本で、ちょっと展開が似ていたので思い出したのだと思います。

本作のテーマは、主人公の光(女性)とヒロイン(?)の陸子、それとそれを取り巻く人との、精神的なつながりですが、とにかくエロい。私が百合小説にそんなに触れていないせいもあるでしょうが、ひたすらエロかったです。何かで、「場面描写がなければ、ラノベ的にはOK」みたいなことを見たことがあります。本作もこのガイドラインに沿っているのか、肉体関係を匂わす表現はありますが、直接表現はありません。でもなぁ、エロいんですよね。これは、文体を抑えめにした成果でもあると思います。

で、主人公の光ですが、最初の方に自分でも無意識に陸子の衣服の匂いをかいでいる、って。『まりあ†ほりっく』のかなこさんと行動が同じじゃないか。でも、かなこさんは笑えるド変態(アニメ版しか見てない人間のイメージ)なのに対して、こちらの光は変態は変態だけど、ド変態とまでは思えない不思議。まあ、かなこさんは意識的にそれをしているのに対して、光の方は無自覚、と言うのがあるのかも知れないです。また、肉体目当てのかなこさんに対して、外見ではなく、精神的に惹かれている光という違いもあります。でも、一番は作風のおかげでしょうね。ギャグアニメとシリアスなラノベの違い。かなこさんには、たぐいまれなる妄想癖もありますし。

で、章のサブタイトルはまるで『WHITE ALBUM』みたいだなぁ、と思ってしまいました。それで、自分がすっかりアニメに染まりきっていることを自覚しました。でも、こちらは様々な文献からの引用ですが。作中でも、様々な文献からの引用などがあり、作者の教養の深さのようなモノを感じました。ここら辺は、賛否両論ありそうですが、私は学がないので、素直に凄いなぁ、素晴らしいなぁ、憧れるなぁ、と思いました。

しかし、最後の章のサブタイトルが「僕の身体を 天使の姿が見えないように してほしい」で引用が『ぴたテン 8』なのが笑えました。まさか、ここからも引用するとは。まさかの『ぴたテン』。いや、好きでしたよ『ぴたテン』。

閑話休題。まあ、純文学的な、耽美的な文体だけに、意外なところからの引用で笑えたわけです。

 「護衛官やってたときも、通販ばっかりしてたな」
 「昔のドラえもんはつくえの引き出しから出てきたけど、いまなら通販で届くかもね」
 「それ、『ローゼンメイデン』」(P.333)

とか。そして、作品の雰囲気を壊すことなく、さりげなくこういうギャグを入れたりするのは素晴らしいと思います。

422ページ、税込み700円とそれなりのボリュームがあったのですが、非常に楽しんで読むことが出来ました。ラノベっぽくない文体なので、そこで好き嫌いが出そうですが、『どろぼうの名人』を読んだ方は是非とも読んでもらいたい。でも、『どろぼうの名人』の方はこんなにエロかったかなぁ?
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takao

chokusinさん、nice!ありがとうございます。
by takao (2009-05-04 21:56) 

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