『小説の神様 あなたを読む物語(上)』/相沢沙呼 [講談社]
〈あらすじ〉
もう続きは書かないかもしれない。合作小説の続編に挑んでいた売れない高校生作家の一也は、共作相手の小余綾が漏らした言葉の真意を測りかねていた。彼女が求める続刊の意義とは…。その頃、文芸部の後輩成瀬は、物語を綴るきっかけとなった友人と苦い再会を果たす。二人を結びつけた本の力は失われたのか。物語に価値はあるのか?本を愛するあなたのための青春小説。
著
文庫版
Kindle版
前作 文庫版
前作 Kindle版
感想は追記にて
当ブログは小説家・相沢沙呼さんを応援しております。
前作の『小説の神様』から2年。なんと続編が刊行されました。これは予想していなかっただけに嬉しい驚きです。
さらに、今回は上下巻の構成。少なくともあと1冊は読むことができることは、ファンとして喜ばしい限りです。
さて、今回はサブタイトルに「あなたを読む物語」と付けられています。前作の内容をあまり覚えていませんが、小説を綴る人の物語だったと記憶しています。それに対して、今回は、小説を書く人の物語でもあるのですが、それ以上に小説を読む人の物語であったように感じました。目次が「第一話 物語の価値はどこにあるのか?」「第二話 書かない理由はなんなのか?」「第三話 物語は人の心を動かすのか?」(以上、上巻)「第四話 心が動いたそのあとで」「第五話 読書に意義は存在するか?」「第六話 物語は誰のために生まれるのか?」(以上、下巻)となっているところにも、小説を書く人の物語であり、小説を読む人の物語であることが読み取れます。
ここから、個人的なことなのです。とあることから、「文学の価値とは何なのか?」ということを考えたことがありました。物語のおもしろさを楽しむためのものならば、それは小説でなく漫画でも構わない。それでは、小説だけしか持たない価値とは何なのか、と。そんな事情があったので、今回の物語はいつも以上に興味深く読むことができました。
内容に関しては、前作でもそうだったんですが、この物語も作者が自分の身を削って書いているのが伝わってきました。とはいえ
「(前略)ついに二年ぶりに新刊が出たってわけ」
作者の事情があるとはいえ、二年も待つことになってしまったら、わたしなら、きっとやきもきしてしまうだろうな、と考えた。
作者の事情があるとはいえ、二年も待つことになってしまったら、わたしなら、きっとやきもきしてしまうだろうな、と考えた。
なんて、本作をネタにする部分があり、作者も少し余裕が生まれているのかな、なんて判断したのですが。
個人的に目を見張ったのが、「売れる物語論」を今回もぶつけてきたこと。というのも、前作『小説の神様』への感想として、「主人公が語る売れる物語論が浅くてがっかりした」というものが散見されたことがあったからです。個人的には、主人公は高校生なんだから、そんな高尚な論を持っていなくても仕方ないのではないだろうか?と考えるので、気にならなかった部分であります。しかし、そこを突く人がいたんですね。
しかし、今回は「この業界(小説家界隈)で名を知らぬ者はいないほどの若手天才作家」という設定の人物が、自分の売れる作品論を語る場面があります。前作に対する感想に対して作者なりの反応、という訳ではないでしょう。しかし、私としてはあえて自分を追い込むような設定を与えたキャラに売れる作品論を語らせることに、作者の本気を感じてしまいました。このことが読者に一体どのような感情を与えるのか、興味深いところです。
なお、私は小説家ではありませんし、人にはその人の分析した論があると考えているので、これも一つの考えとして興味深く捉えました。私自身、ライトノベルを中心に読んでいますが、「あー」と思い浮かぶ作家さんがいました。
この巻は、前作からの登場人物である「成瀬秋乃」が自分の過去と向き合う場面で終わります。この控えめのヒロインの悩み、苦しみは共感できる部分もあり、共感しながら読むことができました。「自分は……」ということは、物語を読む人は誰でも感じることではあるのかもしれませんが。
下巻「心が動いたそのあとで」、彼女が「読書に意義は存在するか?」という問いに対して、どのような答えを出すのか、非常に楽しみであります。私自身、物語を読む価値については、北村薫さんの語った「小説が書かれ読まれるのは、人生がただ一度であることへの抗議からだと思います」ということばにこそあると信じています。しかし、現在物語がエンターテイメントとして、もっというと防衛機制の「逃避」のために物語が楽しまれていることが増えているように感じることがあります。一つの例として、我が市の市立図書館ですが、利用者からのリクエストで中年のリクエストを積極的に導入していたら、「小説家になろう」発の書籍が大量に増えていた、ということがあります。これは、物語をエンターテイメントとして楽しみたい、という流れの表れではないでしょうか。
私自身、疲れているときは軽いものを楽しみたいと考えますし、納得できる部分でもあります。これは、時代の流れでしょう。それに対して、作者が一体どのような答えを出すのか、非常に楽しみにしています。
最後に、この物語で私が一番気に入った言葉を挙げて終わりにします。
「だって、優れた刃は何度も槌で打たれて、その身を溢れる炎で焦がしながら生まれるものなのだから――」
私自身、はっきりいって叩かれ続けるような人生を辿ってきた面があるので、このことばは、とても心に響きました。満足しているわけではないですし、後悔も大きいですが、少しは頑張れそうかな。そんなことを考えました。
さて、下巻はいつ発売になるかは分かりませんが、楽しみに待ちたいです。
そういえば、今回はオフショルダーの描写は目に入ったものの、太ももの描写に気づかなかったような。といっても、普段からあまり太もも描写に気づいていなかった人間ではあるのですが。あとで、前作と一緒に読み返さないとですね。
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