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『花咲けるエアリアルフォース』/杉井光 [小学館]

帯の紹介が「ライトノベル史上最も美しく衝撃的な戦争ボーイ・ミーツ・ガール物語」。史上最もかどうかは別問題として,美しく,衝撃的で,儚い物語だったなぁ,と思いました。

花咲けるエリアルフォース (ガガガ文庫)

花咲けるエリアルフォース (ガガガ文庫)

  • 作者: 杉井 光
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2011/02/18
  • メディア: 文庫

日本が東側の皇国と西側の民国に分かれた時代。4月7日。主人公・仁川祐樹は空襲に遭い,またその時目の前でソメイヨシノが壊死するのを目撃する。家も学校も全てを失ったものの,命は助かった祐樹。その後,各地を転々とする祐樹の目の前に,桜色に輝く不思議な飛行兵器とパイロットの少女が現れる。彼は,ソメイヨシノの最後を看取り,思いを重ねたことで桜とリンクした戦闘機「桜花」の適合者となっていたのだった。桜花のパイロットとして選ばれ,学校に通いながらも訓練を重ねる祐樹。戦いは激化していくばかりで。彼らの先には何が待つのか。

 

非常に感想が書きにくい話だなぁ,と言うのが正直なところ。特徴としては,心情表現は絞り込んで,ただただ主人公達の置かれた状況,その時の様子を描写することに注力した書きぶりではないでしょうか。主人公である祐樹の怒りや戸惑いのような描写はないわけではないですが,ただ淡々とした書きぶりのため,どことなく他人事のような印象を受けました。主人公が流されている,と言うところにも影響はあるかも知れませんが。

内容自体は,もう絶望と言うか希望のない未来しか待っていない感じがしました。桜花の設定自体はかなりユニークでおもしろいと思いましたが。その特性の反面,限界を超えた時の反動も恐ろしくて。最強の戦闘機である反面,最悪の戦闘機でもあるような印象でした。主人公達の載るマシンはそんなもの。特性上,防衛にしか使えない,と言うのがまた,希望のなさを助長しますね。攻撃することができれば,一気に自分の側の有利になるのですが。

周りの状況も,大人の汚い駆け引きのために戦いが続いている,と言うのがですね。現場にいるものは,自分たちを守るために,自分たちの命をかけて戦っている。そして,自分たちの有利な条件を引き出すためであるが故に,互いに決定打を打てない状況では泥沼しか待っていないのが分かります。果たして,主人公達は何のために戦っているのか,と言う気にもなってきます。

結末もまた,救いのなさを表しているような感じがしました。一体,彼らの戦いには意味があるのか。戦いには終わりはあるのか。戦いに終わりの見えないまま終わってしまいましたが,一体どうなるのか,と言う気がします。2巻以降については何の言及もないのが気になるところです。一応,続けられる要素はあるのですが。ただ,この救いのない物語を続けて,どこを終わりとするのか。戦争を終わりとするのが妥当なところでしょうが,一体どうやって戦争が終わるのか。先が見えないだけに,恐ろしくあります。

で,本題から少し離れるのですが。この作品,何か危ないものも含んでいるなぁ,という感じがしました。まぁ,具体的に言うと,本編でしょっちゅう「靖国で会おう」って台詞が出てくるところですが。死んだものは靖国に必ず還ってくる,とかそちらの人が読むと,「軍靴の音がする」とか言って発狂しそうな感じだなぁ,と思いました。まぁ,その辺は大目に見て貰いたいなぁ,という感じですが。

淡々とした感じ故に,儚さを感じ,美しさを感じました。面白いかどうか,と言われると非常に難しいです(^^ゞ私はかなり惹き付けられました。ガガガ文庫って,こういう作品を出してくるから侮れない,と再認識した一冊でした。


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コメント 2

ロック

これは舞台が古いわけではなく、
新しい(未来)なんですよね?

by ロック (2011-02-26 22:21) 

takao

ロックさん,コメントありがとうございます。

舞台は,どうなんでしょうね(^^ゞ
おそらく近未来だと思います。
多脚砲台とか出てきますが。
新華は人海戦術しかできないし,って書かれている部分があったので,さほど遠くない未来かな?と言う印象です。
by takao (2011-02-26 22:32) 

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