『九十九の空傘』/ツカサ [小学館]
最近のガガガが勢いがある、と聞いてはいましたが。これもなかなか面白かったです。
気が付くと、空色の傘を手に朽ち果てた家の中で立ち尽くしていた少女。自分は誰なのか、なぜここにいるのかーー少女の記憶は曖昧だ。誰もいない町を彷徨い、ようやく出会った青年・シグ。少女は自分が人間ではなく、モノに宿る「九十九神」だと教えられる。「きっと、お前は傘の九十九神なんだろう」とシグ。そして少女はカサと名付けられる。人間がいなくなった町を舞台に、置き去りにされたカミ=「九十九神」たちが人間の真似事をして暮らす、ノスタルジック・ファンタジー。大人気シリーズ「RIGHT×LIGHT」の著者が送る完全新作!(裏表紙より)
買ってはいたものの、読む優先順位としては低かった本作なのですが、何の気まぐれかたまたま手に取り読み始めたのですが。これが大正解。優しさが感じられる、非常によい作品でした。
人間がいない世界で、九十九神として目覚めた少女・カサ。九十九神とは、モノに宿った持ち主の生前の思い残しが形を得たモノ。そして、九十九神はその思い残しを叶えたら消えてしまう、という存在です。
この作品では2話構成となっていて、1話はカサが自分の心残りを思い出そうとする話。2話が、カサがシグの力となるためにがんばる話となっています。私がいいなぁ、と思ったのはなんと言っても2話。1話もそれなりによかったのですが、それはあくまでもプロローグといった感じ。この作品の魅力は2話だと思います。
シグの役目を知ったカサ。しかし、彼がそれを本心では望んでいないのではないか、ということを感じたカサがシグの役に立ちたいと思い行動する話なんですが。その結果がもたらすモノが優しくて、胸が温かくなる感じがしました。カサはそれが自分がやりたいことだから、とうそぶいて自分のことを「悪人」と言いますが。なんて優しい「悪人」なんだろう、という感じがしました。ある意味、偽悪なのかな?と。
そして、カサが願いを叶えるために作り上げたモノがまた優しくて。描写不足は否めませんでしたが、その結末の持つ優しさがまた心を温かくするようで、満足できました。
設定で、なんとはなしにですが都合の良さを感じてしまいました。しかし、作品の持つ良さがそれを補ってあまりあるモノだと感じました。この前に読んだ『テルミー2』と比べると、若干質は落ちるように思いましたが、それは似たような作品故に感じたことかな、と思います。ライトノベルと言えば、厨二病、ハーレム、俺TUEEEE、へタレ主人公etc.といったイメージがあると思いますが、この作品や『テルミー』のようなハートウォーミングな作品の流れが出来れば、またライトノベルの可能性が広がるのではないか、と感じます。
続きがどうなるかは不明のようですが。世界観の謎を筆頭に、気になる点もあるので是非とも続きを読みたい作品であります。
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