『マツリカ・マジョルカ』/相沢沙呼 [角川]
(あらすじ)
柴山祐希、高校1年生。冴えない学園生活が、彼女ーーマツリカと出会い一変した。「柴犬」と呼ばれパシリ扱いされる憤りと、男子的モヤモヤした感情の狭間で揺れながら、学園の謎を解明する、ビタースイートなミステリ!(新刊紹介より)
(感想)
私が個人的にとても楽しみにしている作家様の一人、相沢沙呼さんの新作登場です。前作『ロートケプシェン、こっちにおいで』が11月発売でしたから、わずか3ヶ月でのリリース。嬉しい限りです。内容も非常に満足でした。これまた、最後で完全にやられたなぁ、と言う印象でした。
本作は、日常の謎の系列に属するミステリですが、個人的にはミステリは味付けかな、と言う印象でした。どっちかというと、『“文学少女"』シリーズを彷彿とさせるような、マツリカの鮮やかな想像。それが果たして正解かどうか、最後まで明示されない構成は、個人的にはアリだと思いますが、ミステリファンから見たらどうなのかなぁ、という気がしました。
それよりも個人的に面白かったのが、主人公である柴山祐希の成長かなぁ、と思いました。始めは、なんだかうじうじしている彼。対人恐怖症の気すら感じさせる彼の心情が、たまたま廃ビルで出会ったマツリカとの出会いで変わっていく。これが非常に興味深く感じました。
人とどう話していいか分からない。相手とどんな会話をしたらいいか分からない。どう受け答えをしたらいいのか。そんな思いに縛られてがんじがらめになってしまい、人と関わることができない主人公。私も少なからずそう思うことがあるので、彼の思いに痛々しさを覚えながらも、どこか共感を覚えてしまいました。
そんな彼が、廃ビルに住んでいる、と言う、どことなく現実離れしているマツリカと出会います。彼女に指令を与えられることだけに居場所を感じていた主人公。しかし、そのうちに自分の弱さを認めていき、人と関わることができるようになる成長の過程が非常にすがすがしく、読み応えがあり、面白かったです。
そして、ミステリ部分ですが、最後の最後に大きいのが待っていましたね。それまでの3編の謎に関しては、さほど驚きは感じていませんでしたが、ラストは凄かったです。最近読んだミステリは、最後の最後に作品にひたすらふせられていた謎が一気に表面化することで、大きな驚きを与えるものが多い、と思っていましたが、この作品でもありました。『ロートケプシェン、こっちにおいで』では多少わかりにくいなぁ、と感じていたものでありますが、この作品では非常にわかりやすかったです。すっとその驚きが入ってきて、大きく心を揺さぶられると言う感じでした。
謎が分かってしまうと、主人公の病的なまでの人に接することへの恐怖感。その原因となった過去。それが「そういうことだったのか」と納得してしまう力がありました。この展開は実に鮮やか。
主人公の性格故、どことなく暗いイメージがある作品でしたが、ラストはまばゆさがあふれるようなラストで、これまた大満足。まぁ、多少の物足りなさを感じないでもないですが。ただ、展開からこれで良かったのかな、と。あの出会いはきっかけに過ぎず、これからまた新しい世界を作っていく。それもまた一つの選択だと感じました。
主人公の成長、物語に秘められていた謎と満足度が高く、非常に面白い作品でした。だからこそ、もう少しこの作品世界に触れていたかったなぁ、と贅沢なことも思ってしまいました。マツリカさんに関しては、確たることが分からないまま終わってしまいましたし。「古典部」シリーズが角川にはありますが、それと同じように続いて欲しかったなぁ、と。3部作くらいにはできたのではないかなぁ、と思ってしまいました。
ただ、非常に綺麗に終わっていたのでこれはこれで正解なのだろう、と思います。お値段もお手頃ですし、表紙も素敵ですし。何より、青春の苦しさとそれを乗り越える、と言う良さを感じられる、良質な作品でした。おススメです。
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