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『昨日は彼女も恋してた』&『明日も彼女は恋をする』/入間人間 [アスキー・メディアワークス]

(あらすじ)

小さな離島に住む僕。車いすに乗る少女・マチ。僕とマチは不仲だ。いつからかそうなってしまった。そんな二人が、なぜか時空を超えた。
はじめは二人はどこにいるかわからなかった。島の風景なんて、十年やそこらじゃ変化しないから。『過去』に来たと分かったのは、向こうから自分の足で走ってくる『小さいマチ』を見たからだ。
僕は驚き、そして思いつく。やり直すことができると。ずっと後悔していたことを、この、過去という『現在』で。『明日も彼女は恋をする』と上下巻構成。(『昨日は彼女も恋してた』裏表紙より)

『過去の改変』から戻ったわたしに待っていたのは、彼の消失だった。そして、もうひとつ。わたしの歩けなかった足が、元通りになっていた。わたしが歩き回る姿に、島の住人は誰も驚いていない。慣れきっている。そして、この世界の『現在』では、彼は九年前に死んでいた。その蔓延する常識がわたしを苛み、蝕んでいく。わたしが歩ける毎日。それは彼が死んだ現代。決めた。わたしは必ず取り返す。わたしと彼がいた世界を。必ず。
『昨日は彼女も恋してた』と上下巻構成。(『明日は彼女も恋をする』裏表紙より)

(感想)

初、入間人間です。今回は上下巻構成、と言う事でまとめて感想を書きたいと思います。大いにネタバレが含まれていますことを、御了承下さい。

さて、まず入間人間という作家ですが、わたしはなかなか手を出さないでいた作家でした。『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』や『電波女と青春男』、それぞれ1巻は買っていたりしますけども。それは、ちまたの評判で「『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』1巻で切った」とか「文章が○○」とか「劣化○○○○」(一応、伏せ字にしておきます)というものを見ていたからです。しかし、あらすじ、タイトル共に惹かれるものを感じて、今回初めて作品に触れました。割とさらっと読める、と言うか、クセみたいなものはあんまり感じられないという印象。ただ、作品の展開は面白かったです。

この作品の最大の良さは、作品の展開ではないでしょうか。上下巻を一つの作品としてみたとき、序盤、中盤、後半で全く印象が違うように感じました。

まず序盤。かつてはお互いが好きでいたものの、些細な出来事から心を通わせることができなかった二人。そんな二人が、博士が作った片道切符のタイムマシンに乗って訪れたのは、九年前の島。そこには、元気に走り回る小学生の二人。このパートはひたすらのんびり、と言った感じ。人口500人前後の島。そこには緩やかに時間が流れています。そこで、二人は幼い自分たちと交流を持ちます。そこで向き合うのは、お互いの本心。かつては好きでいた。しかし、九年前の数日後に迫った自転車大会での出来事で、お互いの気持ちがずれてしまって元に戻すことができなくなって。

のんびりした雰囲気の中で、自分と向き合い。そして過去の改編を経てお互いの気持ちを、九年越しに確認しあうという展開は、心地よく、ハッピーになれる展開でした。この空気がいいなぁ、と。特に、上巻268ページのマチの台詞はかっこよく、かつ素敵すぎました。ここで、完全にハートを撃ち抜かれた感じです。

ここで終わったら素敵なのになぁ、と言うところで舞台は現代に帰ってきます。そして、帰ってきて待っていたのは、マチには受け入れがたい現実。過去の改変によって現れたその現実をさらに改変するために、二人がさらに動くのが中盤でした。一体、二人はどうなってしまうのか。読み手としては、二人の幸せな結末を祈りながら読み進めました。時間改変、と言うタイムスリップものの醍醐味が十分に感じられたのではないか、という気がします。

そして明かされる驚愕の真実。とはいえ、これについては、巧妙に仕組まれているなぁ、とは思いますが、ある程度展開を鑑みれば十分に予想できうることなので、衝撃の度合いは人によって変わってくるかも知れません。わたしは、ちょっと違っていたものの、おおむね予想どおりのことだったので、衝撃はあまりありませんでした。しかし、ここまでうまく話を持ってきたなぁ、と作者の力量に感心してしまう感じでした。

そこから描かれる結末。ある意味、相手を思う気持ちがあふれているエンディングではありましたが。そこで描かれていたのは、上巻で予想した幸せな結末ではなく。時間改変をしたことによって、時間の流れから外れてしまった者に対する、残酷な現実、というべきでしょうか。それが、たとえそのものが望んだことだとしても、胸が苦しくなってしまいました。

そして、ラスト。そこで描かれていたものは、恐怖でした。思わず背筋が凍ってしまいそうな恐怖が、作品のラストに待っていて。これが、時間を改変した者に与えられた罰だとしたら、残酷としか言いようがない。

この物語。途中まで「映画かアニメにしたら面白そう」だと思いましたが、読み終えると映像化は不可能な種類の作品だなぁ、と感じました。文学だから表現できる作品でした。そして、上巻で幸せな結末を予想させておきながら、ラストに待っているのは幸せではなく、過酷な運命。タイトルには偽りはないですが、読者の想像していた方向ではない、と感じました。なので、幸せな恋の物語を読みたい、と言う人にとっては不向きな作品だと思います。面白い作品ではありますが、読む際は心地よい読後感はない、と言う事を覚悟して読んで欲しい作品です。

 

昨日は彼女も恋してた (メディアワークス文庫)

昨日は彼女も恋してた (メディアワークス文庫)

  • 作者: 入間 人間
  • 出版社/メーカー: アスキーメディアワークス
  • 発売日: 2011/11/25
  • メディア: 文庫
明日も彼女は恋をする (メディアワークス文庫)

明日も彼女は恋をする (メディアワークス文庫)

  • 作者: 入間 人間
  • 出版社/メーカー: アスキーメディアワークス
  • 発売日: 2011/12/22
  • メディア: 文庫

 


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コメント 4

chokusin

この作家の著作は一冊も読んだことがないんですが、これは面白そうですね。
by chokusin (2012-03-11 18:02) 

takao

chokusinさん、コメントありがとうございます。

私は、この作者の悪い評判ばかり聞いていましたが、読んでみると意外と読みやすく、またおもしろかったです。
「食わず嫌いはいかん」と改めて感じるばかりです。

展開については、表紙見たりとか、展開読んだりすると、割とどうなっているのかわかりやすい作品ではあると思います。
ただ、ラストは苦い、苦しい、そしてつらい感じでちょっと意外でした。
ハッピーエンドじゃないのか、とw

その辺意識して読めば、なかなかおもしろい作品であると思います。
by takao (2012-03-11 18:22) 

る〜

こんばんは~。
自分もこの小説の前編だけ読んでました。
なので、takaoさんの感想は読み終わった後に改めて読ませて頂きますね。
でも、前編は面白かったですし、後編が気になりました。
by る〜 (2012-03-15 23:14) 

takao

る~さん、コメントありがとうございます。

後編、全編で予想していた方向とは全く違った方向に転がっていって、凄く面白いですよ。
ある意味、全編読み終わった時点で、作者の罠にはまっている、と言う。
是非是非楽しまれて下さい。
by takao (2012-03-17 10:06) 

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