『メイド様の裏マニュアル トラブル1:俺より強くなった場合』/高木敦史 [角川]
(あらすじ)
役立たず御曹司と暴走メイドの主従逆転の異世界クエスト!
ある夜トージは一族繁栄のための使命を知る。それは神が創った異世界で様々なトラブルを解決すること。ところがいざ異世界に行くと、使えるはずの特殊能力がドジッ娘メイドのツギハに与えられていて!?(スニーカー文庫ウェブページより)
メイド様の裏マニュアル トラブル1:俺より強くなった場合 (角川スニーカー文庫)
- 作者: 高木 敦史
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2012/10/31
- メディア: 文庫
感想は追記にて
(感想)
今から2年前のことです。ラノベ業界初、発売前に全文公開。そして文庫版発売で話題になったライトノベルがありました。その作品の名前は、『菜々子さんの戯曲』。2巻発売されたその作品は、菜々子さんの歪な魅力と後味の悪さが残るラストで、いわゆるライトノベルとは違った魅力を放っていたように思います。
(感想リンク)
『”菜々子さん"の戯曲 Nの悲劇と縛られた僕』/高木敦史
『”菜々子さん"の戯曲 小悪魔と盤上の12人』/高木敦史
それから早2年。初期こそ続きを気にしていたものの、日々リリースされるラノベに押し流され、作品自体時々思い出す程度になっていました。そんなある日、書店で見つけたのがこの作品。「高木……。どこかで聞いたような?」と既刊リストを見たら、菜々子さんの作者。凄くイメージが変わった表紙だなぁ、と思いつつ購入にいたりました。
さて、菜々子さんがそこそこ好きだった私は、この作品にはダークさを期待していました。しかし、読んでみるといたって普通のライトノベルでした。あとがき見る限り、これは作者の発案のようですが、少しがっくりきました。
とはいえ、内容が面白くなかったか、と言われるとそんなことはなかったと思います。キャラクターの味付けは時折見かけるものでしたが、愛らしいキャラクターに仕上がっていたと思います。特に好感が持てたのが、主人公の紋刀次ことトージくん。日本の一代コンツェルンの跡取りとして生まれたトージくんは、その例外に漏れず性格は尊大。ですが、催眠術にかかりやすかったり、アホみたいに素直だったり。どこかしら抜けていて、愛らしい性格になっていたと思います。ヒロインのツギハは、力を手に入れたことでトージに優越感を感じるようになっているところは少しイヤミを感じましたが、最終的にはトージのことを思っているのが伝わってくるのはよかったです。
ストーリーは、ミスをなかったことにして貰うために、神様から出される指令をクリアするのがメイン。ちょっと頭を使うところが見られたり、しょうもないものをうまいところで活用したりでなかなかうまい展開でした。
そして、この作品の一番の魅力は、と聞かれると、多くのラノベがそうであるように、「キャラクターのやりとり」だったと思います。トージとツギハのやりとりもそうですし、トージとその許嫁、粋花(すいか)。ツギハと粋花。それぞれのキャラクターが思惑を持って接しており、なかなか楽しい会話劇を繰り広げられていました。ツギハは、明らかに罰を楽しんでいるよね、とか、粋花に操られすぎだろう、とか。この辺は、普通のライトノベルとして魅力十分だったように思います。
と、なかなか楽しめた作品ではあるのですが。個人的に一巻で打ち切られた某作品をどことなく連想してしまいました。あの作品自体、悪くなかったのですが……。
そして、これまた個人的な思いになるのですが、「菜々子さんの作者らしい作品を読みたかったな」という思いがあります。これだけライトノベルがあふれてくると、そろそろ飽きが出てくるのかな、と。そこで強さを発揮するのが、このジャンルだったらこの作者、と言うイメージじゃないでしょうか。例えば、ホラーラノベだったら甲田学人さん、歌もの異世界ファンタジーだったら細音啓さん、と言った感じの。
せっかくラノベ初のプロモーションで、どことなく奇妙な、後味の悪いラノベというイメージがついていると思うので、それを生かさない術はなかったのではないかな、と思います。これは、作者がどう思ったかでしょうし、作者が前回の路線では書きにくかった、というのなら仕方ないと思いますが。
個人的な感想はおいとくとして、よい作品であったと思います。今回見られた少しの知能戦が継続して描ければ、楽しみな作品になるのではないかな、と思います。前回は2巻を無理して出していたと記憶しているので、今回は無理がないように描いてくれれば、と思います。
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