『僕は友達が少ない 12』/平坂読 [メディアファクトリー]
〈あらすじ〉
リア充の時間の流れは速い。三年生に進級し、友達や恋人と過ごす充実した日々を駆け抜けて、卒業式の日に小鷹は思う。結局俺は物語の主人公のような劇的な青春は送れなかった。恋や友情や家族や夢といったありきたりで切実な問題は、勝手に成長したそれぞれが各自でなんとなく解決したり、解決しないまま時と共に乗り越えた。だからって、別れが寂しくない理由にはならない。劇的でないことが大切でない理由にはならない。この涙を止める理由にはならないのだ――。残念系青春ラブコメ、エピローグ。この「今」はきっと、いつまでも俺の心に残るだろう。
文庫版
感想は追記にて
残念な最終巻
一世を風靡してアニメも2期放送されたラノベ、『僕は友達が少ない』。帯によるとシリーズ累計発行部数が700万部ということから、その人気の高さがうかがえます。そして今年、10巻から1年以上かけて遂に完結しました。
とは言え、この11巻は丸々エピローグ宣言されていた上に、内容自体理科の告白をピークに面白さが下がってきていただけに、一体どうなるか、という感じでした。個人的に、このまま終わってしまったら「駄作」という認定になってしまうな、と言う程度に。そして読み終えた今、やはり「駄作」だったな、と言わざるを得ません。
作者の描きたいもの
ある方がブログ上で森見登美彦さんに対して、「『ええじゃないか』しか書けない作家〜」と書いていました(うろ覚え)そして、これは平坂読という作家に対しても当てはまっていると感じました。
私が読んだ氏の作品は『ラノベ部』『僕は友達が少ない』『妹さえいればいい。』ですが、基本的な内容は「一定の理由で集まった仲間たちのバカ騒ぎ」。そして、その部分は確かに面白いと感じます。流石に、『妹さえいればいい。』の3作連続となると、閉口したくもなりますが。ただ、これが作者の武器なんだろうな、というのは納得できます。
しかし、どうも作者はそれだけでは満足できないのかな、と思う部分があります。それは、『僕は友達が少ない』の理科の告白から始まる展開であり、『妹さえいればいい。』の2巻のラストの展開である部分。どうも、文学的な内容こそ作者は描きたいのではないかな、と思うところがあります。
ただ、これがうまく描けているかというとはなはだ疑問。本作の場合は、理科の言葉を受けて主人公が葛藤して自分を向き合うまではよかった。問題はそこから主人公の成長が描けていなかったことです。それもこれも、本来成長を描くための部分を全てエピローグとして流してしまったことが失敗だったと考えます。
驚きを提供するのはよいが
確かに理科のあの言葉にせよ、10巻のラストの展開にせよ、驚きはありました。しかし、それを収拾する筆力が、決定的に欠けていたという印象です。それ故に、本作は駄作になってしまったな、と。
特に幸村に対する展開が酷い。交際宣言をしてのこの最終巻でしたが、その部分がほぼ描かれない。挙げ句の果てにあのクリスマス。「幸村とくっつける必要があったの?」という疑問が浮かんできます。
で、交際を始めたはずの幸村との日々が描かれずに何が描かれるのか、と言われたら、隣人部との日常。ある意味、当初の展開に立ち戻った、とも言えますが、これまた最後の最後にやることがそれ?と。
ラストの言葉から判断すると、この作品は「残念な青春」を描く事がテーマだったような気もしますが。果たしてそれを「エンターテイメント」であるラノベで描く必要があったのか。そもそも、この残念な青春で誰かの心に爪痕を立てられたのか。そんなことを考えてしまいました。
私は何も心に残りませんでした。それ故に「残念な作品」。エンターテイメントとしても文学としても中途半端な「駄作」という認識です。
作者のスタンスも疑問
この作者ですが、敵が多いのでしょう。そういえば、「最近のラノベの文章が酷い」みたいな内容でこの作品のページを見かけたことがあります。
しかし、その怒りを作品の中にぶつけるのはいかがなものかと。思い返せば、『妹さえいればいい。』の1巻でも安置に対する悪口が書かれていました。2巻ではKADOKAWAをネタにする部分がありました。
しかしこの部分。Amazonのレビューでも散々指摘されていますが、作者の感情をそのまま描きすぎて、皮肉やブラックジョークとして昇華できていません。結果どうなるか。それを読んだアンチは「効いてる効いてるwww」となるでしょうし、アンチでない人間からしたら「なんでこんな悪口読まなきゃいけないの」と嫌な気分になってしまいます。まさに「チラシの裏にでも書いてろ」な内容です。正直、作品の中で書きたいならブラックな笑いに変えられるように努力すべきだろう、と思うのですが。果たして作者は読者がこれで笑ってくれると思ったのか、疑問で仕方ないです。これも作者の筆力のなさ、と言えるかもしれません。
おまけの突っ込み
どうでも良いことを一つ。
実に結構なことだと思うが、ラブコメ的には、これこそが最も残念なバレンタインの在り方だったのかもしれない。(P.71)
とありましたが、なんで主人公が自分の青春のことをラブコメと認識しているのか疑問で仕方ない。
最後に
途中でも書きましたが、シリーズを振り返って見ると非常に中途半端な作品でした。それを考えると、『ラノベ部』は(誰得な恋愛要素があったとは言え)、まだ楽しいうちに終われた幸せな作品だったと思えるようになりました。長く続いていれば、確実にこのシリーズのようにグダグダになっていたでしょうから。
だからこそ、心配なのは『妹さえいればいい。』早くも恋愛によるドロドロの展開が見え始めています。これがどう作用するか。
個人的に言えば、下手に色々書こうとせず、仲間内のバカ騒ぎを描いた方がいい気がします。作家としての寿命を考えると厳しい面がありますが、でもここ3作描いているパターンが一緒ですからね。
個人的には、まだ平坂読という作家に飽きていないので、『妹さえいればいい。』がどうなるか、心配しながら読もうと思います。
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