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『レイヤード・サマー』/上月司 [アスキー・メディアワークス]

『れでぃ×ばと!』の続きが出ないので何しているのか,と思っていたら,この作品書いていたのですねw……なにこれ,面白すぎるんだけどもw

レイヤード・サマー (電撃文庫)

レイヤード・サマー (電撃文庫)

  • 作者: 上月司
  • 出版社/メーカー: アスキー・メディアワークス
  • 発売日: 2011/01/06
  • メディア: 文庫

ーー例えば,私が転校生で。
誰も知っている人がいないと言う状況に緊張してガチガチになりながら,先生に指示された席に着いたとする。
どうしよう,うまくやれるのかな,自己紹介は失敗していないよね,なんて不安に駆られていた時に,
『あんまり頼りにならないかもしれないけど,しばらくの間よろしくな』
偶然隣の席になった貴方が,そんな風に声を掛けてきてくれて。
まだ緊張が解けずガチガチのままの私といくつかの会話を交わした後で,
『あ,俺のことは気軽に涼平って呼んでくれればいいから。大抵のヤツはそう呼ぶし』
そんなことを,爽やかというよりは子供っぽい笑顔で,少し照れるようにはにかみながら言ってくれる。
ーーたぶんそれだけだと,恋に落ちるには弱いんじゃないのかな,と思う。
でも,きっと好意は抱くし,隣の席という親しみ易さも手伝って,異性の中では一番近い存在になっているはずだ。
毎朝挨拶を交わし,班別で何かを行う時にも同じグループになったりして,ふと気がつけば一緒にいる時間が当たり前になっていて・・・・・・
その頃には席替えもされていて,席が離れた貴方へ,自然と吸い込まれるように視線が向くことに気づきーーそこで初めて,自覚するのだ。
ああ,いつの間にか,私はあの人のことを好きになっていたんだな・・・・・・と。
そして,気恥ずかしくて,しばらくはろくに話すことも目を合わせることもできなくなって,なのに自分から開けてしまった距離感を寂しくも物足りなく感じる日々へと繋がっていく。
やがて自分の気持ちを抑えきれなくなった私は,何かの切っ掛けで思い切って告白をして。
突然のことに戸惑った貴方は,それでも私の想いを真っ直ぐに受け止めてくれて,真剣に考え込んでから・・・・・・・・・・・・『こんな俺でいいなら』と,応えてくれる。
そうして,ちょっと特別な友達という関係から,恋人という特別な関係になりーー

・・・・・・もしかしたら,そんな風になっていたのかも知れない。
何かが違って,どこかが噛み合えば,そんな未来もあって良かったんだと思う。
そうなっていたのかも,知れなかった。
ただーーそうならなかった,それだけの話。(プロローグ P.10~12より)

 

いつもなら,本のあらすじを参考にしながら,自分であらすじを書くのですが。今回は,プロローグを読んでいただいた方が,私がいくら言葉を尽くすよりも作品の紹介になる,と思いましたので,プロローグを引用させていただきました。問題があるようでしたら,該当部分を削除します。

私は,作者の作品,『れでぃ×ばと!』しか読んだことがなく,そんなノリかなぁ,と思ってページを開いたのですが。このプロローグを読んだ瞬間,鳥肌が立ってしまいました。そして,一気に読み終わるだけでした。その最中,何度プロローグを見返したか,という感じです。このプロローグが始まりであり,ある意味エピローグでもある,と言うのが素晴らしかったです。ある意味, 『テルミー』を思い出させてくれるような,そんな素敵なプロローグでした。

これだけだと説明不足ですので,少し補足と感想を。まず,ジャンルですがこのプロロープを読む限り,純愛ラブストーリー?みたいな感じがしないでもないですが。作者曰く,SF的な要素も「いくらか」含まれている青春小説,と言う事です。ただ,読んだ側からしたら,どこが「いくらか」だ,と言う気もしますがw

さて,そのSF要素とはなにか,と言うとタイムスリップです。本作のヒロイン・流堂庵璃(るどう・あんり)が未来からタイムスリップしたことから生まれる物語ですが。この作品のタイムスリップの概念はちょっと特殊でした(とはいえ,SFは全然知らないのですが)。この辺は,ちょっと文章では説明しづらいので,是非読んで欲しいところです。タイトルの『レイヤー』ってのは「Layer」から来ていますが,その辺はここに起因していると思われます。

一人の未来から来た少女と,一人の少年が出会ったことで生まれた悲劇。その過去を変えるために奮闘する少女。その少女の手助けをする少年。そこに絡んでくる,少年の幼なじみの少女。その関係が切なくて,儚くて,心を打ちました。

SF要素がちょっとややこしくて,それが物語に没頭するのを妨げていたかな,とか,描写がもう少ししっかりしていればなぁ,とか,今は冬なのに夏の物語かwと思う面もありましたが,最後まで一気に読ませるだけの力は十分にあったと思います。ラスト,非常に切ない結末でしたが,それでも大満足。心のそこから,面白かった!そう言える作品でした。新年早々,とても素敵な,これから大事にしたい作品に巡り会えたことに大感謝です。個人的には,傑作といってもいいかな?と思います。

この作品,読み切りでこれで完結していますので,気軽に手を出して欲しいなぁ,と思います。と言うか,多くの方に読んで貰いたい!Amazonでは,2011年1月11日現在(1がいっぱいw),在庫がないようですが。続きに関しては,出さない方が良いかなぁ,と言う気がします。この作品は,ここで終わっているから美しいし,おもしろいと思うので。色々想像したくなる終わり方です。ただ,サイドストーリーは短編集,と言う形で出して欲しいかなぁ,と思います。

しかし,電撃って時々,1巻で完結している,素晴らしい作品を出してくるなぁ,と思いました。そこがレーベルとしての強さかなぁ。そんな感じを受けました。


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ミナモ

上月さんは『カレとカノジョと召喚魔法』シリーズ以来ご無沙汰してますが、
読み切りのようですし、ちょっと気になってきました♪
by ミナモ (2011-01-12 01:18) 

つるぎうお

時間物は大好物なので、読んでみようと思います。期待!
by つるぎうお (2011-01-12 09:09) 

takao

ミナモさん,コメントありがとうございます。

私は,逆に『れでぃ×ばと!』と『レイヤード・サマー』を読んでいるだけで,『カレとカノジョと召喚魔法』を読んでないのですが。
感じとしては,『カレとカノジョと召喚魔法』の1巻を思い起こさせる,って感想を見ましたよ。
気になる点もありますが,面白いですし,おススメです!
私は,逆に『カレとカノジョと召喚魔法』を読みたくなりましたw
by takao (2011-01-12 18:19) 

takao

つるぎうおさん,コメントありがとうございます。

時間もの,っていうほど時間ものの要素が強いかと言われたら自信がないのですがw
ただ,時間軸の考え方は面白いなぁ,と思いました。
面白かったですし,是非是非読んで下さい!
by takao (2011-01-12 18:20) 

「直chan」

買ってすぐ読んだ作品ですが、序盤で展開が見えてしまったせいか、中断しています……。読み続けるには、キャラクターの魅力が必要ですね。
by 「直chan」 (2011-01-13 05:22) 

takao

「直chan」さん,コメントありがとうございます。

なるほど。キャラクターの魅力ですね。
私は,幼なじみが可愛いwで乗り切れたのですが。
その点,まだまだ力が足りなかったかも知れないですね。
by takao (2011-01-13 20:44) 

カルディア

面白すぎるとまで言わせる作品、きましたか!
描写が甘いのはラノベ全般に感じるところもあるものの、
一気に読ませるパワーを持った作品ってのは良いですね。
電撃はラノベで強いコンテンツ生み出せる印象があるわw

by カルディア (2011-01-14 01:26) 

takao

カルディアさん,コメントありがとうございます。

面白すぎる,ってのは私にとってよくあるんですけどねw
何せ,ハードルが低い男なので。
とはいえ,かなり楽しめましたし,続きが気になって最後まで読んでしまいました。
ラストも,ある程度想定の範囲なのですが,切なさを残して,良い幕引きだったと思います。

電撃は,編集者が面倒見が良い,とか聞いたことがあります。
その辺が,強さの秘訣なのかなぁ,何て思いました。
by takao (2011-01-14 20:49) 

ロック

大絶賛!
しかも売り切れとは、世間的にも評判が良いのでしょうね。

>出さない方が良いかなぁ
こういう意見、
なんとなく、わかるような気がします。

by ロック (2011-01-16 00:17) 

takao

ロックさん,コメントありがとうございます。

面白かったですよw冷静になると,絶賛して良かったのか,って気にもなってきますけどもw
世間的な評判は,どうなんでしょう?
読書メーターではおおむね好評だったようですが。
オリコンのランキング見たら,30位にも入ってなかったんですよね。
売り上げ的にはそうでもなかったのかもです。
ただ,刷ってなかっただけかも知れません。
そういえば,bk1,e-hon,セブン&ワイは在庫があるみたいですよw

ここで終わっているから,素敵な作品,っていうのもあると思うんですよね。
好きな作品であれば続編は期待してしまうのですが。
ただ,綺麗に終わっている以上,これ以上続きは不要かなぁ,何て思います。
読者の思い描く,幸せな結末を描けるのが読書の良さだと思います。
by takao (2011-01-16 00:28) 

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