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『あなたが泣くまで踏むのをやめない!』/御影瑛路 [アスキー・メディアワークス]

御影瑛路さんの一年ぶりの新作。普通のラノベ……と思わせておいて。

あなたが泣くまで踏むのをやめない! (電撃文庫 み 8-8)

あなたが泣くまで踏むのをやめない! (電撃文庫 み 8-8)

  • 作者: 御影 瑛路
  • 出版社/メーカー: アスキー・メディアワークス
  • 発売日: 2011/07/08
  • メディア: 文庫

 

かかあ天下を絵に描いたような家庭に育った主人公・岩下寿也は、亭主関白男子(パクメン)となるために自立心が必要だ、と高校から一人暮らしを始める。しかし、気づいてみたら

「このあたしにせーてきこーふんを抱くのはやめてもらえる?」

一人暮らしの自分の部屋で四つん這いになり、小学生女子(9歳)の人間椅子になっているのだった。どうしてこうなった?こうして、2人の奇妙な生活が始まる。

 

と久しぶりに自分であらすじを考えてみたところで。

作者の『空ろの箱と零のマリア』4巻が出て早一年。シリーズが好きな人間としては楽しみにしていたところに登場したのが、シリーズではなく、この新作でした。今までの氏の出版作品とは雰囲気が違う表紙に面をくらいながらも、作者の新作と言うことで読んでみました。

まず、読み始めて感じたのが、「これ、普通のライトノベルではないのか?」ということ。作者の作品は、『空ろの箱と零のマリア』しか読んでいません。しかし、インタビューで「だいぶんエンターテイメントを意識した」という『空ろの箱と零のマリア』自体がいわゆる「ライトノベル」と違った印象の文章で書かれていると感じたのですが。この作品を読み始めると、軽快なノリでギャグもあり。そして、キャラクターもライトノベル的な特徴を持っている、という印象でした。

「あれ、これは作者の新境地なのか?」と言う感じで読み進めていきました。いつもの御影瑛路さんを求めている方には不満かも知れませんが、それを意識しなければ笑えるところはしっかり笑えました。主人公の上滑り具合とか、友だちの変態っぷりとか楽しくて、「これはこれであり」というのが私の印象でした。

ただ、「ただのライトノベル」で終わらないのが、御影瑛路という作家、というべきか。中盤から話の印象が一変しました。それまでのギャグのノリが嘘のようなシリアスなテイスト。その中にもギャグはあるのですが、結構なシリアス分に「これまでとは違うぞ!」という印象を受けました。

そして、自体の解決。これが非常によかった。大人と子どもの対立、というのはありがちなシチュエーションではありますが、そこが非常に満足できる、納得できる形であり、自分の胸にしっくり来る形だったので非常に満足できました。私も大概いい年なので、子どもの論理も理解は出来るつもりなのですが、それを素直に受け入れることが出来ない、意固地な面もあります。この解決の部分では、その大人の頭の固い部分、というのがしっかり描かれていたのが印象的でした。「そう、そうなんだよ」と思わず言ってしまいそうな感じの。

ただ、その大人の正論の部分を踏まえた上で、子どもの論理でそれを打破していたので、爽快感がある、という感じで納得できました。もちろん、これを「それも子どもの論理だ」と納得できない人もいると思います。しかし、私はすとんと落ちるようなそんな感じで受け止めることが出来ました。

この巻は物語のスタート部分、始まりという印象で終わりましたが、ギャグありシリアスありで、非常に楽しむことが出来ました。一体この二人がどうなっていくのか、非常に楽しみです。これはまた、楽しみなシリーズが一つ誕生したなぁ、と思った次第です。周りには印象的なサブキャラもいますし、ここら辺がどんどん絡まっていけば、もっともっと楽しくなっていくのではないか、と思います。 個人的には黛千代子のネガティブキャラが気に入ったので、次はもう少し出番が増えると嬉しいな、と思います。

そして、本編とは特に関係ないのですが。主人公があこがれとするパクメンとして、十文字鉄斗氏というキャラが登場します。そして章と章の間に、このキャラが相談に答える、というコーナーがあるのですが。これが非常にツボでした。質問に対する答えがあまりに単純明快。そうして、正論。あまりの明解さに胸がスカッとするような、奇妙な印象を受けました。思わず十文字鉄斗さんのファンになってしまいそうでした。

2巻も出るようですし、『空ろの箱と零のマリア』とあわせて楽しみです。


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