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『灼眼のシャナⅩⅫ』/高橋弥七郎 [アスキー・メディアワークス]

(あらすじ)

”徒(ともがら)”の理想郷『無何有鏡(ザナドゥ)』創造を巡り、”祭礼の蛇”の代行体・坂井悠二と、フレイムヘイズ『炎髪灼眼の討ち手』シャナが、刃を交えていた。
その渦中、琥珀色の風が吹いた。
吉田一美が、宝具『ヒラルダ』へ願った思いを受け、”彩飄”フィレスが戦場に現れる。
一大決戦の舞台となった御崎市は、この転機と共に、激動を経て終幕へと向かう。
フィレスを呼んだ吉田。
生け贄のヘカテー、ほくそ笑むベルペオル、『真宰社』を支えるシュドナイ。
襲来する”徒”を屠るカムシン、上空に舞うヴィルヘルミナ、そこへ向かうマージョリー。
そして、対峙するシャナと悠二。
人間、”徒”、フレイムヘイズ。彼らが向かう先が、今ここで決まる。全ては、悠二とシャナの決着の行方にゆだねられていたーー。
最終巻、遂に登場。

 

(感想)

9年にも及んだ『灼眼のシャナシリーズ』が遂に完結。私は、4年くらい前から読み始めたのですが、そのシリーズもいよいよ完結。終盤は刊行ペースもかなり落ちていたのですが、終わってみたらこのクオリティのために時間をかけたのかな?と感じました。非常に大満足。最後は涙涙でした。

さて、最終決戦の舞台となった御崎市で繰り広げられる、新世界を目指す紅世の徒と、その誕生を防ぐために抗うシャナたち。あまりに熾烈を極める戦いでしたが、本文自体は、割とゆったりしていたような気がします。というのも、激しい戦いを繰り広げていたのは、自分たちの使命を果たすためにシャナと手を組んだ「大地の三神」と、探耽求究・ダンタリオンのと梅津を目指すサーレとキアラ。そして、カムシンと言ったところからなのかなぁ、と。もちろん、悠二、シュドナイコンビと戦うシャナ、ヴィルヘルミナ、マージョリーも半端ではない戦いを繰り広げていたと思うのですが、割と会話も多かったからイマイチ緊張感がなかったような気もします。

とはいえ、シャナってバトルシーンを楽しむ作品ではないと思うので、そこはあまり問題では無いと思いました。元々、「バトルシーンが何をやっているか分からない」と言われることもある作品ですし。

では、何がこの作品の見所かというと、作者の明確なテーマの元に描かれる、登場人物たちの「思い」だと思います。そして、いよいよ最終巻となったこの巻では、それぞれのキャラの思いが溢れていて、力を持っていたように思います。

二人の戦いを止めるために、使えば死ぬ、と言われていた宝具「ヒラルダ」でフィレスを呼んだ吉田さん。

ヨーハンの思いを受け、作戦を実行するフィレス。

自らの消滅を悟りつつ、フィレスと「約束の二人(エンゲージ・リンク)」たろうとするヨーハン。

自らの使命を果たすために、自らが囮となり使命をシャナに託す「大地の三神」。

守るために自らの命を燃やすカムシン。

ダンタリオンを滅する最高のチャンスに戦うサーレとキアラ。

後悔を振り切り、遂に自分らしさを発見するヴィルヘルミナ。

大切な人の住む世界を守るために戦うマージョリー。

守るべきものを失い、それでも自分が好ましいと思ったものを守るために戦地に赴くシュドナイ。

シャナを思うが故に、シャナと道を違え、敵として向き合い、自らの思いを達成せんとする悠二。

そして、フレイムヘイズとしての使命を果たそうとしつつ、一途に悠二を思い続けるシャナ。

それぞれの思いに圧倒されるような、気圧されるような、そして心奮わされるようなそんな感じでした。ここまであったからこそ感じる部分もあって、感慨深かったです。特に、あくまでもヒールであったシュドナイが、ここに来て意外と人間らしいような、俗っぽい感情を見せたのには意外だったなぁ、と。その前から、自らの存在意義的な面もあるのか、彼女に対してそういうところはありましたが。サブラクの最後を思い出すにつけ、「紅世の徒」も意外と感傷的な面があるのでしょうね。

さらに内容も、ここまで22巻と積み上げてきた重みを感じさせるようでした。

とにかく、今まで積み上げてきたものを全て巻き込んでいくような展開。その様子がとにかく圧巻でした。遂に自分の願いを叶えるリャナンシーなんかは、見事としか言いようがなかったかな?「ザナドゥ」の世界の行く末を決めた最後の思いに、「革正団(レボルシオン)」が出てきたのには驚かされました。ここまで見据えてあの外伝を執筆していたんでしょうね。作者の明確なテーマにはいつも感心させられますが、ここに来て作者の緻密さに度肝を抜かれるようでした。

何よりよかったのは、シャナと悠二の、お互いの全ての感情を込めた最後のバトル。「世界を巻き込んだ痴話げんか」と言われたら、「そうだよね」としか言いようのないものだったんですが。しかし、シャナを愛するが故に、自分の行く末まで見据えて振る舞う悠二の愛。そして、そんな悠二すらも真っ直ぐに受け止めようとするシャナの愛。二人の愛の思いの強さに、ただただ涙があふれてしまいました。悠二のシャナを思うが故に頑なとなっていた心を開いた、たった一文。その一文に込められた思いの強さがこちらにも伝わってくるようで。ようやく訪れたこの結末が、最高の美しさで描かれて非常に満足でした。

エピローグについては、いかにも『灼眼のシャナ』という書き方で、もう少し、と思う人がいても仕方ないかな、という感じがしました。しかし、2ページのエピローグに、二人の今が、世界のこれからが端的に表現されていて、非常に「らしい」終わり方だなぁ、と感じました。これぞ、『灼眼のシャナ』とも言うべき。そして、本編がここで終わってしまったんだなぁ、と思うと切なくなりますが、辛くても険しくても、二人で道を切り開いていくことを感じさせて、最高の形だったと思います。

本編を彩る挿絵も、今回はかなり気合いが入っているように感じました。まず、表紙からして素晴らしい。満面の笑顔のシャナ。この前には悠二がきっといることを感じさせますが。二人の幸せな結末を予想させる素晴らしい表紙だと思います。中のクオリティも高く満足していたら。最後の最後。いとうのいぢさんのコメントと一緒に描かれたイラストが、なんと素晴らしいことか。なんで、これをカラーで、三つ折りで、巻頭に持ってこなかったのか!と言いたくなるほどの素晴らしいクオリティ。ここで、さらなる満足感が得られました。このイラスト、素晴らしいからポスターとかにしてくれないかなあ、と感じるほどでした。是非とも大きい絵で見たいです。

さて、本編はここで終了。この後、外伝3巻が刊行されてシリーズ完結となるようです。まだまだ1冊残されていますが、非常に美しいラストを見せてくれた本シリーズに大感謝です。作者独特の文体故の読みにくさの壁がありましたが、それを補ってあまりある大団円が見られたこと。これが何より嬉しいです。終わってしまうことは寂しいですが、この余韻に浸りながら、アニメのラストを見届けたいです。

灼眼のシャナ〈22〉 (電撃文庫)

灼眼のシャナ〈22〉 (電撃文庫)

  • 作者: 高橋 弥七郎
  • 出版社/メーカー: アスキーメディアワークス
  • 発売日: 2011/10/08
  • メディア: 文庫

 


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コメント 4

赤眼の魔王

小説の完結に合わせてなのか、アニメーション第3期の放送が始まりましたね。
まだ録画したのを観ていませんが、最終巻の部分を網羅するのかどうか、気になるところです。

それにしても、9年がかりの作品だというのは初めて知りました。


by 赤眼の魔王 (2011-10-18 10:04) 

tamapu-

takaoさん、こんにちは。

とっても魅力のあるレビューありがとうございます。
シリーズ読んでみたくなりました。

22巻+αかぁ~。
禁書目録もゼロ使も途中なので読み終わってからですが、ぜひ読んでみたいです。
by tamapu- (2011-10-22 13:25) 

takao

赤眼の魔王さん、コメントありがとうございます。

最近は原作と合わせて最終回、というのが少しずつ増えていますね。
今度は、『乃木坂春香の秘密』が待っていますし。
『ゼロの使い魔F』も、ヤマグチノボルさんの体調次第でしょうけども、合わせて、という事になりそうですw
内容的には最終刊までの内容を網羅するでしょうね。原作だと、16巻から22巻の7冊分ですし。

私も、9年もやっているのは知りませんでした。
確かに、最近は間がやたら空いたりしていましたが、それでも凄いと感じます。
そして、それに見合った分だけいい話だったと。
by takao (2011-10-22 16:55) 

takao

tamapu-さん、コメントありがとうございます。

正直、シャナはきついですよ。
決して読みやすいとは言えない原作ですし。
私も、なんだかんだでかなり時間をかけて、でしたし。
11巻の描写の仕方など、かなり好きだったのですが、そこもイマイチ評判がよくないような。
厨二病的な表現が好きだったら読めると思います。

とはいえ、ラストは凄くよかったので、よろしかったら是非!
by takao (2011-10-22 16:58) 

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