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『6 ーゼクスー』/来楽零 [アスキー・メディアワークス]

(あらすじ)

 不思議な雰囲気を持つ少女・間宮有紗と待ちで出会ってから、人間が発火するという不可解な事件に巻き込まれてしまった心優しいセンシティブ少年・山本彦馬
 怪事件が周囲で起きることから警察に容疑者扱いされる彦馬だったが、そんな彼を救ったのは、特殊な事件を捜査する“特例か”所属の女刑事・北林花姫ーーシックスデイ事件の生き残りだった。
 過去、あるマッドサイエンティストが、新人類を作ろうと起こした誘拐事件により歪められてしまった6つの人生。そして、特殊能力を持った“始まりの六人(デイー・ゼクス)”。
 一人の少年を中心に、十年の時を経て動き出した「6(ゼクス)」に纏わる者たち。その目的は過去への復習か、それとも……。

 

(感想)

2月は電撃の新人賞の作品がリリースされるのですが、今年は特に過去の受賞者も一緒に取り上げられているようで、第12回金賞受賞の来楽さんも新作リリース。「第1回金賞受賞作家の新作も出してくれたらなぁ」と思うワケですが、来楽さんの新作が登場、というのは素直に嬉しい。調べてみたら、彼女の新作、『Xトーク』以来、約3年半ぶりの新作みたいです。

彼女の作品の良さは、派手さはないけれども淡々とした文章で紡がれる物語世界の面白さでしょうか。『ロミオの災難』『Xトーク』では、派手なアクションはなかったですが、キャラクターの内面を描く事で読ませる文章となっていました。さて、約3年半ぶりの彼女の新作は、と思ったのですが、相変わらずの彼女の作品世界の良さは健在。しっかりと楽しませてくれました。

ある日、「ゼクス」と呼ばれる特殊能力を持った人間と関わりを持つことになってしまった、普通の主人公。その主人公が事件に巻き込まれ、「ゼクス」と関わっていき、事件を解決するまでを描いた作品です。読み始めると、淡々とした描写から紡がれる作品から、どこかしら不思議な、超常的な世界を感じられました。「あぁ、変わっていないなぁ」と感じることができました。その後もライトノベルの異能ものにありがちな派手なアクションはありません。この辺は、主人公は特殊な力を持たない一般人。ヒロインも人間より少し5感の能力が優れているだけ。敵の能力はパイロキネシス、というところも関係あるでしょう。

この辺は、異能バトルものが好きな読者としては物足りなさを感じるかも知れません。しかし、この作品の良さはアクションにあらず。望まない形で異能を手に入れてしまったものが人間世界で生きる心情。そして、その異能の者と関わってしまった主人公が、自分に何ができるか、と言う心情。その心情の動きが、この作品の良さだと思います。そして、その心情の動き、陰で見え隠れする黒幕の存在。それぞれの持つ思いが作品を魅せてくれていました。

そして、作品を彩る挿絵がまた作品世界に非常にマッチしていて。ダークで、しっかりとした重さを持つ作品を見事に彩っていました。文章とイラストが相乗効果を発揮して、作品の魅力をより引き出している、と言ういい例だと思います。

ラストに関しては、突然終わった、と言う印象で、この辺は好みが分かれるかも知れません。私は、もう少し余韻を楽しみたかったかなぁ、と感じました。しかし、まだまだ物語はこれから、というイメージで終わっていますので、これからの物語なのかなぁ、と楽しみになる面もありました。

久しぶりの作者の作品でしたが、その魅力は健在、と言うところをしっかり魅せてくれた作品でした。しかも、あとがきからして、続きを出してくれそうで、この世界を暫く楽しめそうだ、と言う嬉しく感じました。派手さがないですし、作者の約3年半ぶりの作品、と言う事でどれだけの人が手に取ってくれるのだろうか、と感じます。ただ、読み応えのある、確かな世界が広がっていますので、できるだけ多くの方に読んでいただきたいなぁ、と感じます。『空ろの箱と零のマリア』や『テルミー』なんかの作品が好きな人だったら、楽しめるのではないかなぁ。異能ものでもこんな作品があるんだ、ということでもおススメです。

6―ゼクス (電撃文庫)

6―ゼクス (電撃文庫)

  • 作者: 来楽 零
  • 出版社/メーカー: アスキーメディアワークス
  • 発売日: 2012/02/10
  • メディア: 文庫

 


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コメント 2

ask

最近の電撃には珍しい、落ち着いた印象の表紙ですね。遠目に見ると、大好きな「キーリ」みたいです。既に気に入り始めてる。

ロミオの災難もXトークも、どちらも気になって結局手に取らずという作品でしたが、「マリア」や「テルミー」を例に挙げられたら食いつきたくもなります(笑)。

最近は異能系も食傷気味ですし(あくまで私情!w)、たまには一風変わったものを読みたいな。と思ったところに丁度良いレビューでした。
by ask (2012-02-21 21:55) 

takao

askさん、コメントありがとうございます。

確かに、電撃、と言うかラノベの表紙としてはかなり落ち着いているかも知れませんね。
派手な色がないせいでしょうか?
これが、作品とよくあっています。

『Xトーク』はちょっとあれですが、『ロミオの災難』の方は結構おすすめできますよ。
『空ろの箱と零のマリア』『テルミー』を上げたのは少し卑怯だったかも知れませんw

いわゆる異能系の、主人公がかっこよく敵を倒してスッキリ爽快、という感じはありません。
それを期待すると肩すかしでしょうけども、それらに飽きている人にはぴったりだと思います。
是非、お楽しみください。
by takao (2012-02-24 21:10) 

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