『楽園のカンヴァス』/原田マハ [新潮社]
(あらすじ)
それは真っ赤な贋作か、知られざる真作か? 傑作アートミステリー!
ニューヨーク近代美術館(MoMA)の学芸員ティム・ブラウンは、スイスの大邸宅でありえない絵を目にして
いた。ルソーの名作『夢』とほとんど同じ構図、同じタッチ。持ち主の富豪は真贋を正しく判定した者に作品を譲ると告げる。好敵手(ライバル)は日本人研究
者、早川織絵。リミットは七日間――。カンヴァスに塗り籠められた真実に迫る渾身の長編!(新潮社ウェブページより)
感想は追記にて
(感想)
第25回山本周五郎賞受賞作。2012年の夏の直木賞ノミネート作。帯には、「早くも『2012年ナンバーワン』の声!」の煽り文。帯の反対側には、山本周五郎賞審査委員の佐々木譲さん、唯川恵さん、角田光代さんの絶賛のコメントと、否が応でも期待が高まってしまいます。さらに、直木賞ノミネート段階では、この作品が一番評価が高かったように見えたので、購入しました。
さて、私みたいなひねくれ者となると、評価が高まれば高まるほどうがった見方をしてしまいがち。しかし、読み終えた今、「これは2012年ナンバーワンの称号にふさわしい」と思えました。面白かったです。
内容は、ルソーの作品と呼ばれる「夢をみた」という作品の真贋を巡って、ニューヨーク近代美術館の学芸員ティム・ブラウンと新進気鋭のルソーの研究者・早川織絵が鑑定を下す勝負をする、といった内容。ちなみに、もちろんこれはフィクションですのであしからず。
作品の中で、ティムは、織絵はそれぞれ作品に夢をみせられてしまっていましたが、その読者である私があたかも「夢をみている」かのような印象を受けました。そして、読み終わった後、とても素敵な「夢をみた」、そう言える作品でした。
作品から受けるのは、情熱。ルソーの幻の作品を目にして、その真贋の鑑定を依頼された二人の、作品に対する愛情や、見抜こうとする情熱。最後まで評価されることなく自分の芸術を貫いたルソーが、最後に名作「夢」または「夢をみた」の制作費かけた情熱。ティムが、織絵が、「夢をみた」の制作の過程を描いた物語に熱中するように、私も気づけば作品世界にのめり込んでいました。作品に釘付けにさせられてしまう圧倒的な力。それを感じました。
この作品は割と素直というか、ミステリー作品であるようなのですが、色々なところは途中で見えてくるところがあります。例えば、「夢をみた」の所有者であるコンラート・バトラーが何者であるか、といった部分など。また、正直ラストの作品の真贋に関しても、うやむやなところがあります。しかし、それが作品にとってマイナスであるか、と言われるとそうでないように思えます。それが些細なことに思えるほどに、この作品にはパワーがありました。角田光代さんの「ラストではこの上なく美しい感動を与えてくれた」と評していますが、そのラストが全てを美しく締めくくっているのもプラスなのでしょう。
この作品は、「情熱」がメインテーマなのではないでしょうか。芸術家が芸術を世に残すための「情熱」。そして、その芸術を商売や自分の出世の道具に使用とする有象無象の人々。その中にありながら、作品の芸術性を認め、作品を真に愛し、その芸術のために全てを捧げようとする人間の「情熱」。その情熱によって作品が真に認められる土壌が生まれていく。芸術、特に絵画に対しては殆ど興味がない私が、気づけばニューヨーク近代美術館に行きたい。行ってそこに収められている芸術作品を鑑賞したいと思ってしまうほどの「情熱」。これが全てだと思います。
第1章、第2章。この部分の惹き付ける力は、それほどでもなかったと思います。しかし、二人の目の前に「夢をみた」が登場した以後は、圧倒的に文章に惹き付けられていました。これこそが、文学の力。そう行ってしまいたくなるほど、強烈で、あがらいがたい力でした。しかし、それはもちろんいやなものではありません。作品のもつ魅力。情熱。美しさ。心地よい感動が体を包み込み、夢の世界に誘ってくれました。だからこそ、読み終わった後、「夢をみた」と思えたのでしょう。
だからこそ、直木賞が取れなかったのが残念で仕方ないとしか。受賞作を含めた他の候補作は読んでいないので、何とも言い辛いのですが。これほど文学の力、魅力を感じさせてくれる作品はなかなかないと思うんですが。マイナスポイントを考えた上で、ミステリとして読むと、という部分に行き当たってしまいます。そういえば、宮部みゆきさんの『火車』に対して「いったいこの作者はなにを書きたかったのか、そこがわからず、ただ筆を流しているとしか思えなかったことである」とか言っちゃったり、横山秀夫さんの『半落ち』に対して「致命的な欠陥がある」と鬼の首を取ったようにしちゃった人が、審査員に残っていますね。作品をちゃんと読めれば、十分に受賞に値する作品だ、と思えると思うのですが。
とはいえ、そのことがこの作品の評価を落とすことはないと思います。むしろ、直木賞を受賞させることを認めなかった審査員の評価が落ち、結果としてますます直木賞という賞の権威が落ちてしまうと思います。もっとも、その方々の評判は落ちようのないほど落ちているし、直木賞の権威自体、どうしようもないものになっているような気がしますが。
何はともあれ、大変素晴らしい作品ですので、是非ともおすすめしたいです
初めまして。僕は、今、第9章を読んでいる所です。ルソーが主役の物語ですが、ルソーの絵が好きにはなれず、どうしてもピカソの絵に方に惹かれる自分がいます。沢山のルソーとピカソの絵を横目で見ながら楽園のカンブァスを読みながら何故ピカソの絵に惹かれるのだろう。と考えている日々です。to
by 田中達司(仮名) (2014-09-28 02:08)