『碧空のカノン 航空自衛隊航空中央音楽隊ノート』/福田和代 [光文社]
(あらすじ)
楽器の腕前はピカイチだがドジな主人公と、
個性派ぞろいの仲間たち。
彼女らが奏でる音は、謎も不協和音も調和します!
音大卒業後、航空自衛隊の音楽隊に入隊した鳴瀬佳音(なるせかのん)は、
定期演奏会などの任務に向けて練習に励んでいる。
自衛隊という未知の世界に戸惑いつつも鍛えられていく。
ある日、「ふれあいコンサート」で使う楽譜を用意したところ、
佳音が担当するアルトサックスのパートの楽譜が
楽譜庫から紛失していた。いったい、どこに消えたのか?
ちょっとドジな佳音が呼び込む不思議な“事件”を、
仲間たちとともに解決する!
テロや大停電などをテーマにしたクライシス・ノベルで
注目を集める著者が、軽やかな音楽ミステリに挑む意欲作!!(光文社ウェブページより)
Kindle版も出ています。
感想は追記にて。
(感想)
朝日新聞の記事に釣られて読んでみた本の2冊目です。1冊目は『永遠の0』でした。ちなみにタイトルは『碧空のカノン』と書いて「あおぞらのかのん」と読みます。
帯に「音楽+謎×時々恋=最強」(この計算式おかしくないか?と思いますが突っ込まない)と書かれていますが、内容的にはまさにこんな感じでした。
舞台はサブタイトルにもあるように航空自衛隊航空中央音楽隊。そのせいで朝日新聞に愛国エンタメであるかのように取り上げられてしまったのですが、そんな事は全くありませんでした。作品の宣伝的にはよかったような悪かったような、という感じですが。内容的には、音楽+謎+時々恋という内容でした。表紙からライトノベルのような、という印象を受けますけども、ライトノベルといっても差し支えのないような軽さでした。
そもそも、読んでみるとすぐ分かるのですが、内容的に舞台が自衛隊である必要がないんですよね。1話は自衛隊であることを利用した内容ではありましたが、他のものは全く必然性が感じられませんでした。別の作品を書くために取材しているときに、航空幕僚監部広報室の室長が「音楽隊というのがあるのだけど、小説のネタになりませんか?」と誘いをかけてきたことらしいです。その影響で舞台が自衛隊になっただけで、舞台は楽団でも構わなかったなぁ、という印象です。
余談ですが、有川浩さんにアプローチをかけて『空飛ぶ広報室』を書くきっかけを作ったのが、この航空幕僚監部広報室の室長っぽいですね。鷺坂一佐のモデルになった人のようです。
さて、内容のキーワードとして「自衛隊」「恋」なんて抜き出すと、有川浩さんをイメージしてしまいますが、作品のイメージとしてはそんな感じでいいと思います。ただ、有川浩さんとの差違を出すために、恋の要素を薄めて(だから時々恋)、ミステリ要素を入れたように感じました。
とはいえ、この「自衛隊の音楽隊+ミステリ+時々恋」の判断はちょっとミスだったんじゃないかなぁ、と言うのが私の感想です。そう思った原因の1つ目が、「ミステリとしての面白さが薄いこと」です。
作品の売り文句にも「音楽ミステリ」と銘打たれていますが、正直ミステリ要素必要だったのかなぁ、という程度の味付けに感じてしまいました。それこそ、「有川浩さんはミステリに手を出してないし、彼女との違いを出すためにミステリ要素を取り入れたのではないか」と思うほどに。
ミステリとしては、「日常の謎」と呼ばれるジャンルに入ると思います。たしかに、自衛隊の中で次々と人が死ぬわけにはいきませんから、それは当然の判断なのだと思います。ただ私が読み終わって感じたのは、日常の謎としても、ミステリとしての面白さを感じなかった、ということでした。私もそんなに日常の謎作品を読んでいるわけではありませんが、日常の謎でもミステリとしての面白さとして溢れているものはありますし、一つ一つのエピソードにちりばめられていたピースがはまっていくことで、ミステリとしての楽しさが溢れている作品もあります。それがこの作品には残念ながら感じられなかった。結論として「ミステリでなくてもよかったよね」と感じてしまいました。
「自衛隊の音楽隊+ミステリ+時々恋」が判断ミスだと思った2つ目の理由。それは「時々恋」の要素がもったいない、ということです。
私がこの作品で一番面白いと感じたのは、鈍感な主人公である鳴瀬佳音と、彼女のことを密かに思う同僚の度会俊彦の2人の関係です。改めて言葉にすると、ライトノベルの定番のような構図ですね。これで主人公を思う殿方が複数になれば立派な定番のラブコメもののライトノベルの完成ですね。
閑話休題。度会はどう考えても佳音に好意を持って接しているのにそれに気づかず、あまつさえゴリラ扱いする佳音。彼女を好きだと思い始めたエピソードを含め、そのさりげない恋の行方が物語の中心であると私は感じました。読書メーターで続編を希望する声が見られましたが、それはこの二人の恋の行方が気になるから、という事でしょう。
ただ、ラブコメと言えば有川浩さん。ただでさえ自衛隊を舞台にしている上に、ラブコメ要素を前面に押し出してしまっては、有川浩さんと完全にかぶってしまいます。その判断から恋愛要素を少なめにしたのでしょうが、結果その分面白さを減らしてしまうことになってしまったように思います。それが何とももったいないと思ってしまいました。
これによって、「自衛隊が舞台だけども、自衛隊である必要性がない。ミステリだけども、ミステリとしての面白みが薄い。恋愛要素はいい味出しているけど、薄味過ぎる」という印象になってしまいました。素材の選択はいいと思うだけに、何とももったいない。この作品を読む上で、有川浩さんの作品のイメージとかぶるのは仕方ないと思うので、開き直って恋愛要素を前面に押し出すべきだったと思います。
そして、個人的に大きなマイナス評価だったのが、2つ目の「ある愛のうた」の結末。男性と女性の思考回路は違うとは思うのですが、最後のあの言葉はあまりに独善的で理不尽で納得できませんでした。それがもし佳音の予想どおり、主導権を握るための言葉だとしたら、なお理解できないかなぁ、と。私だったら、この時点で相手のことを許せなくなるでしょう。「やっぱり結婚したくないな」という思いが強くなる話でした。
マイナス評価もありましたが、最終的には「普通に面白い」という印象です。「普通って何?」と言われても、「普通に」という感じです。
続編も出るようですが、次はもっと恋愛要素が増えることを期待したいです。
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